第[3]プロジェクトルーム
DREAM

  


 
キマイラ・吼 シリーズ
ソノラマ文庫
15. キマイラ群狼変
ISBN4-257-76897-5 ソノラマ文庫 2000年2月28日 \476 253p
怪物としか言いようのない獣。 そして、それを宿した美しい少年。大鳳と久九の運命の鍵はどこに!? その謎に迫る、待望の新刊!!
Thumbnail Image of Book Cover 序章 
一章 蛇牙(シャーヤ)
二章 咆哮
三章 旅人
四章 闇の王
転章 

前話   《キマイラ緑生変》までのあらすじ

 大鳳吼と久鬼麗一、ともに西城学園に籍を置くふたりは、己のなかに幻獣キマイラの血を潜ませた少年である。周囲のさまざまな試みにもかかわらず、そのキマイラ化はもはや抑えることができない。すでに久鬼は、八ヶ岳山中で翼を生やした獣と化して、ゆくえをくらましてしまったし、大鳳の容貌と体躯は四脚で走るにふさわしいものとなっていた。
 キマイラ化は八番目のチャクラ=鬼骨の力で生じるのだが、それを抑えるのは天のチャクラ − 月のチャクラを回すことしかないのだ。幻獣化の初期の段階では、ソーマという伝説的な植物に抑止力 があるというが、その服用法もいまだ不明である。
 久鬼玄造、この武道家こそ、幻獣を「我々が捨ててきた、あらゆる可能性の源」と言い、「遥かな螺旋の夢」と信じて、その血に執着し、日本にもたらした張本人である。玄造は中国大陸で幻獣の血を持つ巫炎という男を見つけ出した。大鳳吼と久鬼麗一は、玄造の妹である智恵子が生んだ巫炎の実子なのである。後に巫炎は、死んだはずの息子が日本で生きていることを知って、その後を追ってきたが、今、玄造の屋敷に監禁されている。
 真壁雲斎は小田原の風祭、自称円空山の小舎に住む玄道師で、宿命を背負った大鳳や久鬼をはじめ、彼らの身を案じる深雪や九十九三蔵らのよき理解者である。キマイラ化した大鳳はつい先日までこの円空山にかくまわれていた。そして今、雲斎と大鳳は亜室健之に呼び出され、新宿にいる。亜室もまたキマイラの謎にとりつかれたひとりで、ソーマを入手し、外法僧・狂仏を呼び寄せるとともに、娘の由魅を通して大鳳や久鬼に接触を図ってきた。そしてもうひとり、ボツクという名の謎の外国人もまた大鳳たちを追っている。
 主がいない円空山を訪れたのは、大鳳を捜す玄造と我流の武術家・宇名月典善であった。そのとき、円空山の庭にはソーマが移されていたのだ。それを悟られまいと、九十九は典善に闘いを挑む。
 ふたりの死闘を中断したのは、雲斎を訪ねてきた沙門の吐月であった。玄造と吐月は二十年目の再会であった。吐月もまた、キマイラの謎を解き明かすべく中国奥地を放浪中、玄造とともに「外法蔓陀羅図」を目撃したのである。玄造は吐月を小田原の自分の屋敷に招いた。吐月、九十九、典善、そして特に同席を許された菊地良二を前にして、玄造は明治末期に大谷探検隊がひそかに持ち帰った「キマイラの腕」を見せたのである。
 菊地は西城学園空手部に籍を置く高校二年生。勝つためには手段を選ばぬ凶暴さと常軌を逸した闘争心を典善に見いだされ、徹底してしごかれている。だが、宿敵・久鬼との勝敗を決する前に、彼のキマイラ化を見て恐怖心を抱いてしまう。その久鬼の姿は、吐月たちの見た「外法蔓陀羅図」 に描かれたものと同じであった。
 キマイラの腕は、玄造が若いころ師事した武術家、馬垣勘九郎から渡されたものであった。探検隊のメンバーであった橘瑞超の元にあったものだという。一方、玄造は、馬垣の別の弟子、梶井知次郎から、橘が大正十年(1921年) に記した未発表の日記「辺境 覚書」も手に入れていた。
 一同は、この記録をひもとくことから始めた。
 ここにキマイラの謎を解く、そしてふたりのキマイラ化を止める重要な鍵が秘められているはずだ。
 明治四十五年 (1912年)一月、橘は中国西域の探検を続けていた。砂漠を越える過酷な旅の末、一行は辺境の町、敦煌にたどり着いた。 そこで盗賊に襲われた彼らを助けた青年がいた。若き馬垣勘九郎だった。
 自分を捜しにきた吉川小一郎と出会った橋は、地元民の羊が、夜ごと人とも狼とも判別のつかない凶獣に襲われていること、千仏洞という遺跡にあったはずの、外法印の曼陀羅図が、何者かに盗まれていること、ロシアのある探検家がこの蔓陀羅図に執着していることなどを知った。
 馬垣は十三のとき、父・勘介とともに中国に来た。目的は柔道に勝る武術の修行。勘介は、日本で柔道家・前田光世に敗れていたのだ。やがて、父子は気を操る武術、八卦掌を学び始めた。
 ある日、彼らの師である周礼文徐文強を前に、この武術を椰倫する外国人が現れた。

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