第1部: 苦の解決手法=仏教経典による検証

研究メモ1部 

大乗仏教の持戒

現代、日本、世界に種々の問題が起きている。自分の感情、好き嫌い、利益のみを優先して、他者の感情、好き嫌い、利益を尊重せず、寛容ではない。
 人は他者との関係の中で生きているのだから、他者を尊重しようというのが「戒」である。これを実践しないから、心の病気やいじめ、虐待、差別、非行・犯罪などが起きる。「戒など時代錯誤」というのが、悪しき先入見、偏見である。今一度、真摯に仏教に学ぶべきであろう。

大乗仏教の修行は持戒と禅定を重視

 大乗仏教の経典では、縁起の理解、思惟は浅い段階に位置づけている(1)。行を重視した唯識説は、学問として「縁起思想」「因果」の理解のみにとどまる者を批判する。そのうち、「因果は仮説」という説明がある。
「此の正理は、深妙にして言を離れたり。因果等の言は、皆仮に施設せり。」(2)
 唯識説は、三性説で迷いと悟りを説明するが、円成実性を論理で理解しても、悟りではない。真見道という自内證の経験をいうからである。三性説の「依他起性」を理解して、わかったつもりでいると、違うのであって、依他起性も「言語によって表現される以上、なお仮説であることも了解されていなければならない」(3)と三性説も仮説であり、理解にとどまるのを否定する。
 縁起説の教説の思惟が仏教であるという文字に執着し、自らの修行も、他者の救いもしない学問仏教を批判するのが、大乗経典である。大乗仏教の修行は六波羅蜜であり、禅定が含まれている。

(註)

大乗仏教の戒

 大乗仏教の修行は六波羅蜜であるが、持戒も含まれている。これも重要な実践である。仏教は単なる思想、学問と異なり、実践する宗教である。
 大乗仏教の菩薩の戒は、一般に三種あり、三聚浄戒(さんじゅじょうかい)という。摂律儀戒(しょうりつぎかい)、摂善法戒(しょうぜんぽうかい)、饒益有情戒(にょうやくうじょうかい)である。止悪(悪をなさないこと)、修善(善行をなすこと)、利他(人々の利益になるべく働くこと)である。
(1)摂律儀戒
 摂律儀戒とは、五戒とか十戒、二百五十戒等である。十戒は、次の「十重禁戒」、または、これと類似の十である。五戒は、十戒のうちの五つで、在家の戒である。悪を犯さないという内容である。 (註)
十重禁戒
 摂律儀戒は、十重禁戒をあてるものがあるが、その十は、次のとおりである。  これは、『梵網経』『瓔珞経』などにあげられている。道元の十六条戒のうちの十戒と同じである(1)。  大乗の菩薩戒は、在家出家共通である。
(2)摂善法戒
 摂善法戒は、善を行うという積極的な内容である。
(3)摂衆生戒
 饒益有情戒は、摂衆生戒ともいう。
 『菩薩瓔珞本業経』は、「摂衆生戒とは、所謂る慈悲喜捨なり。化は一切衆生に及び、皆安楽を得しむ。」というように、「四無量心」を挙げている(1)。  摂衆生戒は、「四無量心」である。次の記事に説明している。苦悩する衆生を救済することである。

大乗の「戒」の意義

 この三聚浄戒(さんじゅじょうかい)は、実践的には、仏教のすべてを表現しているということができる。摂律儀戒を実行すれば、自分や他者を苦悩させることを止めるのであるから、煩悩の捨棄である。摂善法戒を実行すれば、苦を捨てて楽を得る善を行うのである。そのように、悪を止め、善を行うと、人々の苦悩を解決する実践を会得することになるから、苦悩する衆生を救済することができる。その救済行を実際に行うことが饒益有情戒の実行である。止悪(悪をなさないこと)、修善(善行をなすこと)、利他(人々の利益になるべく働くこと)であるから、仏教のすべてである。その実現のためには、坐禅を主とする実践が行われる。坐禅のような実践(六波羅蜜)がないと、これらの三戒は十分には実現できないからである。実際、現代の仏教研究者のほとんどすべて、戒、そのうちに含まれる「摂衆生戒」を実践していない。
 たとえば、坐禅や慈悲を否定したくなる自分の心理が、自分の感情、好き嫌いという基準による見取見ではないのかという深い反省し、しばらく、その見解を棚上げして、自分の感情、好き嫌いがどう変化していくかを洞察するのである。そうすると、坐禅や禅僧を否定、攻撃しなくても、自分の心が安楽になることを知る。そうすると、坐禅や僧侶を否定、攻撃したいと思った心理は何だったのか判明してくる。こうした営みが坐禅である。坐禅は、自分中心の思想・観念(心理療法で「認知のゆがみ」といわれる)などから起きる怒り、不安、抑うつ、嫌悪、焦燥、不満などの感情や、そこから起きる自己否定、他者障害、依存行為への衝動などを抑制、修正するのに実践的効果を発揮する。学者が自分の感情、好き嫌い、利益を優先して、戒や坐禅を否定してはならない。
研究メモ1部 
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