「曹洞宗正信論争[全]」の出版=竹林史博氏
「正信論争」に関する論文を収録した書物が出版された。
「曹洞宗正信論争[全]」
編者:竹林史博(山口県龍昌寺住職)
発行:曹洞宗 龍昌寺
定価:24,000円
約160文献から、約400の論文を収録。1169頁。
??? 昭和に編纂された時には、論文編集に偏りがあった ???
曹洞宗では、宗祖、道元禅師の思想について、激しい論争が行われてきた。昭和3(1928)年から、昭和10(1935)年ころまで続いた。これを「正信論争」という。
忽滑谷快天氏が駒沢大学の関係者を主とする学究者を多く列ね、原田祖岳師が師家を中心とする禅僧(実参者)を多く列ねた。
学究派は、宗意上の主要な問題が学問によって解明し得るとする立場で、原田派は、実参実究によらなければ正しく把握することはできないとする立場で、論争した、とされている。
昭和の「正信論争」について、別の記事のように、佐橋法龍氏は、意外な評価をくだしている。そして、佐橋氏によれば、教理上では、原田派がたたかれているというが、これに疑問が出てきた。後世の研究者が、昭和正信論争を研究、評価する場合には、当時の論文を集大成したといわれる森大器氏の『曹洞宗安心問題論纂』(以下『論纂』と略す)を参照する。しかし、森大器氏の『論纂』は、編集方針に偏りがあり、原田派の重要な論文が治められていないという。
そこで、竹林史博氏は当時、発表された論文を可能な限り、すべて収録しようと思いたって、長い年月をかけて、全国の大学、寺院、図書館などを探索して、収集作業にあたり、整理して、ここに出版された。
道元禅師の思想については、「正信論争」の後も、平成になっても、対立した見解があり、決着をみていない。従来の「正信論争」は偏った情報によって、ゆがめられた評価が定着してきたようだ。
組織には、組織の幹部、多くの末端の構成員の利益を維持するために、情報隠し、情報操作が行われることがあるのは、常識である。組織の周囲の社会の利益が無視される。成熟度の高い組織は、反省が起こり、是正されていく。
このたびの、竹林史博氏の業績は、道元禅師にかかわりのある僧侶や学者が、自分の人生をかけて真剣に探求してきた歴史を客観的に検証するうえで、貴重な資料となる。今後、これをもとにした研究がすすむであろう。道元禅の真剣な研究がようやく始まるのであろう。
それにしても、この出版は、宗門や大学の組織の事業ではなくて、一寺院の一僧侶によって行われた。組織における事業ではなく、個人の事業である。一個人の力が、大きな組織の方向を変えることがある。組織の成熟度が高ければ、変わる。歴史上は、そういうこともあった。色々な人が期待している。
(参照)