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Project UltraVapochill

LastModified 03/05/24

 

 「実は・・・どうしようもない事があって・・どうにかしなくちゃならないんですが・・」
 「そうか・・よくある事だ・・・そういう時は・・・お前がどうにかしろ!!
(島本和彦著 「吼えろペン」より)

という訳で基本的には自分でなんとかしなければならんのですよね、何事も・・・・・えー、事の起こりは2001年7月初旬。Vapochill のSlot→Socket Upgradekitを調査の為に入手されたmasamotoさんが、調査終了されたとの事で駄目モトでUpgradeのご相談をしたのが始まりでした。

単に余っているSlot版VapochillをSocket化→高性能EVAへの換装→40WR22コンプレッサへの交換→冷風器心臓部の移植と、あれよあれよと言う間に話はエスカレート(笑) 最終的には、フルタワーケースの改造、配管断熱、電源配線迄含めて全て御願いする運びとなってしまいました。

Slot-Vapochillからの流用部品は、コンデンサ、ベローズ管、ペンシルドライヤの3点のみ。というのが果たしてもうVapochillと呼んで良いものかどうか・・・というのは、はなはだ疑問ではありますが、構想(打合わせ)2ヶ月、製作3ヶ月を経て2001年11月末に完成したVapochillには、そんな疑問を許さない迫力と美しさがあります。

という訳で、今回の記事は基本的に全てmasamotoさんに手による芸術品を、四万十川は紹介させて頂くだけです。文中の写真もほとんどが、masamotoさんが製作途中で撮影された物を頂きました。詳しいスペックについては、こちらmasamotoさん御本人が紹介されていますので、併せてご覧下さい。


1. UltraVapoへの構想

当初の私のイメージでは、下左の写真の様にケース上部に設置したVapochill-slotの冷却ユニットを大型のコンプに置き換えるという至極安易なものでした。しかし、msamotosさんからは振動、熱、AC電源ノイズ等への配慮から、ケース最下部に冷凍ユニットを配置するという提案を頂きました。右の写真はその際に頂いたものです。

Vapochill-slot内蔵時のケース状態

UltraVapoへの改造構想

マザーベース及び背面をそっくりそのまま中段に移動させるという大掛かりな改造はついぞ考えていませんでした。改造にかかる手間隙を考えると恐ろしい物があります。

コラージュによる改造計画案

パーツの仮配置

この方式は、コンプレッサをケースの一番下に置いてアルミ板で仕切った部屋に封入してしまい、振動や熱を封じ込めてしまうという素晴らしい物です。コンデンサの冷却は下部の独立した部屋のみで行う事になるので、マザー等のPCシステムには一切影響を与えない事になります。また、コンプレッサは[ゴムベルトで吊り下げて振動を遮断]と万全の配慮が為されています。

コンプレッサ配置案

冷却ファン配置案

コンプレッサ/コンデンサ配置案

かくして、当初考えていたよりも遥かに大掛かりな改造が始まる事になりました。この時点で、それがどれ程大変な物になるかは、四万十川は全く予想していませんでした。(恐らくはmasamotoさんも・・・)


2.ケースの改造

上記、計画に沿ってケースの改造は始まりました。ジグゾーでケースを切り刻み、再度リベットで組み立てて、欠損部分はアルミ板で補強・・・・と、文字で書くと短いですが、実際の手間がいかばかりかは、一度でもケースの改造をl試みた人であれば容易に想像できると思います。しかし、仕上がりは本当に見事です。

マザーベースを上に移設し、コンプスペース確保

ケース背面も、拡張カード用に加工済

私が不細工に加工していた各種穴部まで綺麗に加工して頂きましたm(__)m
また、マザー背面側については断熱材を30mm以上配置したいという線でご相談した結果、マザーベースの一部を切り欠いてアルミで補強する事になりました。それに併せて、断熱材の出っ張りに併せてケース右側にはステンレスの角バットを取り付けて頂きました。

マザー裏断熱スペース確保の為に、角バット装着

ケースの前面パネルには、コンデンサ冷却用12cmファンを取り付けてます。風量確保の為に、強力なORIX製ACファンとしました。バリタップというサイリスタ式電力調整器で電圧調整する事で回転数を可変化してあります。最大回転時には、かなり凄まじい騒音となります。

前面パネルにAC100V-12cmファンを装着。バリタップで回転数制御

かくして完成したケースがこちらになります。コンプ室との仕切りは取り付けられていない状態です。なんとまあ美しい仕上がりか。この写真を見たときは、TB-505なんぞという安物のフルタワーではなく、もっとちゃんとしたサーバケースの改造を御願いすれば良かったと心の底から後悔した四万十川でした。

ケースの加工終了後。コンプスペースはアルミアングルで補強及び隔離

 


4. コンプレッサの設置

さて、いよいよ心臓部コンプレッサです。VapochillはBD-35Fという僅か35Wの非力なコンプレッサを搭載したいましたが、それでもかなりの性能を示してくれました。それに対して今回はMAX130Wの熱量を-30℃迄冷却しようという無茶な目標です。その為、コロナの冷風機のAC250W(R-22)コンプレッサが心臓部として移植します。組み合わせるコンデンサはサイズを考慮してVapochill-Slotからの流用としますが、元々R-134a用なので洗浄済みです。

テスト用にVapochill用コンデンサと仮組されたコンプレッサ

テスト風景・・配管が真っ白に氷結・・・・

そして今回のUltraVapoの目玉が本プロジェクト用にmsamotoさんが考案された独自方式のエバポレータです。内部構造は極秘だそうで・・・(^^ゞ 直径を25, 35, 45mmと合計7個もの試作をされて、そのうちの最高性能の物を使って頂きました。熱抵抗はなんと0.08℃/W・・・!!!CPU冷却用としては、間違いなく世界で最高レベルのガス枕(エバポレータ)といっても過言ではないでしょう。

本家Slot-Vapochillからはコンデンサの他に、エバポレータへの配管となるベローズ(ジャバラ)管が流用されます。これによりエバポレータを自由に取り回せる事になります。またペンシルドライヤについては、イーコムのnullさんからSocketVapochillアップグレーどキットの中から結婚祝い(笑)という事で頂いてしまいましたm(__)m

masamoto氏渾身の径35mmエバポレータ

本家から流用されたベローズ(ジャバラ)管及びペンシルドライヤ

コンプレッサはプラスティックのベース部に設置され、ベース部をゴムベルトで吊り下げ式にする事で振動を絶縁しています。

コンプレッサ設置ベース(ゴム吊り下げ式)

ケース内にコンプレッサを設置

また、コンプレッサについても私の我侭な御願いの結果以下の装備が為されています。

1. サイトグラス :冷媒が流れているのを目で確認可能。(右上写真参照)

2. アキュムレータ :コンプレッサをエバより下に置いたため、液冷媒が戻ってくるのを防ぐ為に装備。銅管の組み合わによるお手製。

3. 2系統キャピラリ:夏冬の各外気温条件に対応する為に長さの違う2系統のキャピラリ(0.5mm)を装備。電磁弁によって切り替え制御。ベローズ管の中に封入されているキャピラリは1系統なので、ベローズ管に入る前で集合部を作って4方切替弁のパイロット部で制御。

#4方切替弁のパイロット部はasutaさんからmasamotoさんが頂いた貴重品。0.5mmキャピラリはMAZさんのご尽力で入手されたこれまた貴重品との事。お二方にはこの場を借りて、御礼申し上げますm(__)m

4. 遮断回路:起動時間短縮の為に液冷媒をコンデンサに溜めておく為にコンデンサ-コンプレッサ間に電磁弁で遮断回路を装備。電源ONで、コンデンサとコンプレッサが接続される事になる訳です。電磁弁が故障した場合、最悪コンプレッサの破裂を招くとの事ですが、起動時間短縮の誘惑には勝てずに泣き付いて装備して頂く。お陰で、初回起動時にも10分もあれば-50℃の世界・・・・再起動時などは一瞬。

5. 2連圧力ゲージ:上記遮断回路を設けた事による万一のケースを防ぐ意味で蒸発圧と凝縮圧をモニターする為の2連圧力ゲージを装備。お陰で内部の状態は手に取る様に(?)判る。それに格好良い・・・・・

2系統切り替え式キャピラリ

蒸発圧、凝縮圧チェック用2連圧力計

上記装備を全て備えた結果、コンプレッサ周りはかなり窮屈になってしまいました。これだけの配管と装備を限られたスペースに設置してあるのは、はっきり言って驚異です。正直、怖くてもう私では触れないっす・・・・

結露対策にポリで巻かれた配管類。

上部とは、アルミ板で仕切ります(未装着状態)

 


5. 真空断熱ケース

ペルチェ、水冷、ガス冷と冷却方式は数々あれど、室温以下の冷却を考える際に問題となるのは結露です。如何に冷却部と空気を遮断して結露を防ぐか・・・・また、折角冷えたエバポレータを如何にCPUに密着させるか・・・・色々と頭の痛い問題です。

御願いした当初は、エバ取り付け具のみを製作して頂き断熱は自分でやるというお話をしていましたが、ここ迄製作が進んだ状態で、真空断熱ケース迄作りましょうかというご提案を頂きました。

真空断熱・・・・・最も効率が良いと誰もが判っていても手を出せない領域です。一二も無く御願いした四万十川でありました。結果、製作して頂いたのがこの真空断熱ケースです。

全てアクリルの削り出しで製作されています。真空部はアクリルチューブの2重構造でアクセスバルブで真空引きを行って内部の冷気を完全に封じ込めるという構造です。製作には、真空を保つのにかなりご苦労されたとの事ですが、出来栄えは・・・・どうですか、この美しさ!

アクリル削り出しによる断熱ケース

アクセスバルブ付き真空断熱ケース

ベース部は、裏表2分割でSocket478マザーのソケット周囲の4つ穴を利用してネジ止めします。ソケット周囲のチップ等を避けてコードヒータが配置されています。(秋葉原の坂口伝熱で購入された80Ω/m品だそうです) ソケット周囲の空間には、ポリエチレン発泡板を丁寧にくりぬいて積層(6層)で隙間を埋めてあります。

マザーに取り付けるベース部品(コードヒータ付)

ソケットとの隙間には断熱材を詰め込み

ベースを取り付けつけると、マザー背面には30mmもの断熱材が配置されます。

ベースをマザーに装着状態。マザ-背面に断熱材厚は30mmを確保。

エバポレータのCPUへの密着は、当初ポリエチレン発泡材の圧縮による方式を検討していましたが、イマイチ当りが弱いのでスプリングによる圧縮方式としました。プラスティックと真鍮のスプリングガイドで真っ直ぐにエバをCPUに押し付ける構造です。

スプリングによって、エバをCPUに押し付ける構造

ポリエチレン筒のスリーブでエバの平行を確保

最終的には、ケースをベース部にネジ止めする事で、スプリングによってエバがCPUに密着します。

CPUとの接触面

組み立てた断熱ケースを、ベースにネジ止め

この真空断熱ケースによって、ほぼ完璧なCPU周りの断熱が可能となります。コードヒータによる加熱は、ケース周囲のマザーの温度を観察した上で考慮します。


6. そしてUltraVapochill

ここ迄で全てのユニットが完成しました。後はマザーを装着するのみです。ちなみに、エバ密着スプリングのテンションを断熱ケース上蓋で受けるのですが、強度的に少し心配だったので、補助アルミステーを下左の写真の様に設置しています。

スプリング用にケース上部に補助ステーを設置

動作中の圧力ゲージ

氷結したエバポレータ

全てのシステムを組み立てた状態です。嗚呼、美しい・・・・・・・・

再度、改造前

UltraVapo完成(Comp室との仕切り有)

元々が同じケースであったとはとても信じられない出来栄えです。


7. 冷却性能

さて、肝心の冷え具合ですが・・・・まあもう何もいう事はございません。下記のグラフはmasamotoさんがテストされた結果ですが、短いキャピラリ(△印)で100W時-30℃、長いキャピラリ(☆印)で100W時-35℃という物凄さです。これにCPU付ければ・・・・くくく・・・ふぉふぉふぉ

ちなみに、これはSlotVapochillのエバポレータをmasamotoさんが分解された物です。思った以上に複雑な構造でなかなかどうして大した物です。上のグラフでの性能(黄色○印)もむべなるかなといった感じですね。

肝心のCPU装着時の性能については、また次回という事で・・・・・


8. 独り言

さて、如何だったでしょうか。こうやって記事にしてみると一瞬ですが、実際にケースとSlot-Vapoをお送りしたのが2001年9月初旬。完成して発送して頂いたのが11月末と3ヶ月にも及ぶ大改造になってしまいました。その間3ヶ月、masamotoさんはほぼ全ての休日をUltraVapoに費やして下さいました。しかし、その成果物の素晴らしさを四万十川の駄文では全然紹介しきれておりませんね・・・後は、四万十川がその性能をちゃんと使いきれるかどうか・・・

 「そうだ! お前がどうにかするしかあるまい!!」
 「おれがどうにか・・・します!!」
しろ!!
(島本和彦著 「吼えろペン」より)

masamotoさん、有難うございました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

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