| 【 夏の思い出 】 暑い。 真夏の太陽は、容赦なく私の身体を照りつける。 私は朦朧とする意識を必死の思いで持ち直し、 足を引き摺りながら寮へ向けて歩いた。 汗が噴き出し、あっと言う間に頬を伝い地面に落ちて行く。 周囲の音は何も耳に入らない。 ただ、忙しない自分の息遣いが聞こえるだけだ。 大した事のない寮への距離が、歩けども歩けども一向に縮まらず、 恨めしい気持ちで太陽を睨み付けたその瞬間、激しい眩暈が私を襲った。 「あ……」 地面がぐにゃりと歪み、急速に視界が狭くなる。 もう、駄目だ。 遠退く意識の中で私はそう呟いた。 地面に叩きつけられる衝撃と痛みを覚悟していた私は、 それが一向に訪れないので不思議に思う。 ああ、なんだろうこの感じは。 まるで波間に抱かれ揺られているみたいで、 とても、心地好い。 「大丈夫かい?」 いきなり頭上から発せられた言葉に、はっとして私は意識を取り戻す。 どうやら私は倒れる寸前に、誰かの手によって抱き止められたようだ。 ゆっくり顔を上げると、そこには見慣れた人物の姿が視界一杯に広がっていた。 「ちゅう…ぜんじ……」 それは、友人の中禅寺秋彦だった。 「まったく危なっかしい奴だなぁ、君は」 私の肩を抱いていた手を離すと、呆れた顔を私に向ける。 けれど、 けれど、そう言って笑った君の笑顔が眩しくて、私はまた眩暈を起こしそうになる。 そんな、夏の或る日。
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