| ボールペン |
| はずき 様 |
ぺらりと床に投げ捨てられていたカレンダーを捲る。 もうすぐ修学旅行。 「…かったるい…」 充は呟くとごろりと横になった。 どうもやる気が起きない。(そんなのはほぼ毎日だが) たるい。(これも) ――今日は学校フケルか。(これも) よし、今日はフケよう。 充はぐっと体を反らせ、ぱっと飛び起きた。 「修学旅行ねえ…」 充は欠伸をしながらちらりとカレンダーに視線を戻す。 どうせ今日も班ごとでどこをまわるだのかんだのを決めたりするんだろう。 いつも参加していないけれど、あの場に居るのがかったるい。 「修学旅行――」 充はふとカレンダーから視線を上げた。 ―――ってことは俺ももう3年生なんだよなぁ。 それは、つまり。 「もうあの人と二年一緒に居るんだ…」 『あの人』というのは紛れもなく――。 そういえば、去年はただ何となく過ぎていった。 一周年とかで何かボスにあげようとも考えたけれど、結局渡さずに終わっていった。 「…今年は…なんか渡そうかな…」 まさか『お前』なんていう冗談は言わないだろうし。(ヅキなら言うか?ぶっ飛ばすけど) 「記念とかなんか…いらないかな、ボスは」 でも、もし、もし何か欲しいと言ってくれるなら。 言ってくれるなら。 ―――――それだけで、嬉しいかもしれない。 「あれ、来たのかよ」 ガラリと教室の戸を開けると、笹川が驚いたように目を少し丸くした。 「来たら悪いのかよ」 充は少しぶすっとして答える。 「別に、そうじゃねえけど。てっきり今日はフケるのかと思ってたから」 「…ボスは?」 「さあ?図書室じゃねえの?今日お前来てなかったから」 どういう意味だ、という言葉を飲み込んで、充は軽く礼を言うと教室をさっさと出た。 後輩の女子たちが笑いながら階段を上ってくるのとすれ違う。 聞くつもりがなくても耳に入ってくる彼女たちの話題は。 「なに?彼氏に一ヶ月記念で指輪もらうの?」 「へへ、いいでしょ」 「何コイツ、まだコドモのクセにさぁ〜」 きゃははと煩い声で笑って行く。 何が一ヶ月記念だ。 こっちは二年だぞ、二年。 心の中で言って見せてから、充ははっとして首を振る。 ――やっぱりあの考えはオンナみたいで嫌かもしれない。 「充」 いきなり下からかかった声。 聞きなれて、今では心地良いとさえ思う、それ。 「あ」 「今日は休みだと思っていたが」 「いや、別に…。家に居ても暇だから、来たんだよ」 充は少し深呼吸する。 「おはよう、ボス」 「ああ」 簡単な挨拶をしながら桐山は階段を上る。 充との距離が段々近づく。 けれどドキドキしているのは、たぶん充だけで。 「あ、あのさ、ボス」 「?なんだ?」 何時もの無表情で桐山が顔を上げる。 少し高い、何時もの目線。 桐山と充が居る段が、同じになったのだ。 「あ、あのさ、もうボスが俺たちのボスになって二年経つじゃん」 「…ああ…そうだな」 「だ、だからさ、なんか…その…」 充は何だか恥かしくなって下を向いた。 桐山は相変わらずの無表情。 充は赤くした顔を上げて言った。 「その、何か記念に欲しいもんはない?」 「…記念?」 「あ…」 充は慌てて階段を上って踊り場に出た。 「や、やっぱり何でもないよ。御免な、ボス」 「充」 「か、軽い冗談だとでもしといてよ」 「充」 さっきより少しだけ、ほんの少しだけ強くなったように聞こえた声に、充は振り向いた。 自分の目線を下にしなければ、桐山の顔は見えなかった。 「…そういえば、黒のボールペンが切れかけていた」 「…え?」 充は瞬きをした。 その目はぽかんとしたように点になっている。 桐山は対称的に表情ひとつ変えずにさっさと充を追い越して3階に上りきってしまった。 「…今のって…」 充は誰も居なくなった踊り場でぽつりと呟いた。 「それってさぁ…」 くしゃりと充の表情が崩れる。 小さく、充の肩がゆれ始めた。 「…ッボールペンってのはないよなぁ…」 充は暫く、その場に腰掛けて肩を震わせていた。 ――表情は、酷く嬉しそうなそれ。 ――六月。 雑誌やらCDやらが散らかったままの、充の部屋。 教科書なんかまったくない机の引出しの中に、 不器用に包装された、一本の黒ボールペンが大切にしまってあることを、知る人間はいない。 ――――もう、いない。 はずきさん有難う御座いました! 充が純で可愛い。 結局ボールペンを渡す事が出来なかったと思うと、涙出そうです。 そうだよなぁ、死んじゃったんだもんね・・・二人とも。 |
| Back |