| 白い大地 |
夢の話をしよう。 見渡す限り、白色の地が連なる世界。 空は淀んだ灰色。 雲で覆われているのか、元からそのような色をしているのかもわからない。 変化の乏しい世界に、緩やかなカーブを描きながら、白い大地はどこまでも続いて行く。 殺風景なその景色の中に、小さなひと粒の黒い影。 真っ白な光景の中にあって、暗色である筈の黒が、浮かび上がるようにいっそ鮮やかだった。 色のない世界で、確固とした主張をするそれは、ひとりの、少年の姿だった。 目印になるものなどない景色の中、彼は黙々と歩みを進めている。 少年が足を運ぶ毎に、ぱきっと乾いた音が辺りに響く。 小枝一本落ちていない大地で、何がこの音を発生させていると言うのか。 少年の足元を注意して見ると。 岩肌か何かだと思われていた白い地面はすべて── 骨、だった。 地表が白く見えたのも当然で、地平線の向こうまで延々と続くのは、 数え切れない程の、朽ちた生物の残骸なのである。 ここはまさに、死の世界。 彼は歩いて行く。 一歩、二歩と。 歩いて行く。 足元でまた、ぱきりと硬質の音が鳴った。 少年の顔が歪む。 終わりの見えない道行に、彼は絶望していた。 どれだけ歩いたのか、もうわからない。 果たして、終着点などあるのだろうか。 全身が軋む。 足を動かしている感覚さえ、薄れて。 とうとう力尽き、彼はその場に倒れ込んだ。 ぱきばきと、骨が砕ける音が耳に届く。 このまま朽ち果てて。 ここにある骨達と一緒になってしまいたいと彼は思った。 ひとりはもう、嫌だと。 『起きて』 近くから、そう声がした。 薄く目を開けると、間近にひとつの、朽ちた髑髏。 『・・・もう、歩けない』 『それはあなたが進みたいと思っていないからよ』 『このまま骨になって、君達と同じになりたい』 『そうしていても、あなたは私達と一緒にはなれないわ』 彼はわかっていた。 目の前の髑髏が言うように、自分がこの大地の一部になれないことを。 それは、彼が自ら選んだ運命だったから。 髑髏は哀しそうにカタカタと顎を鳴らした。 『さあ、行きなさい』 その言葉に促され、彼は体を起こし立ち上がる。 暫く髑髏を眺めていたが、それきり喋ることもなく、白い大地の一部と化した。 髑髏が発した声は、どこか懐かく、聞き覚えのある声だったと、彼は思う。 白骨の平原を、少年は歩いて行く。 どこまでも、歩いて行く。 『・・・そう言う、夢を見たんだ』 俺がそう言うと、彼女は黙ってマグカップに入れたコーヒーを目の前に置いた。 ことりと言う音とともに、柔らかな湯気と、香ばしい香りが部屋に広まる。 彼女は、ただ静かに、向かいの席に座っていたが、暫くして口を開いた。 『・・・私も同じような夢を見たことがあるわ』 寂しそうに笑った。 年齢に相応しくないその微笑みは、彼女が抱えている悲しみのせい。 『同じ夢を見た』と彼女は言った。 それは本当かもしれないし、そうではないのかもしれない。 もし、その言葉が嘘ならば。 それはきっと、彼女の優しさなのだろう。 彼女の煎れてくれたコーヒーはほろ苦く。 決して癒えない傷痕に染み入るようだった。 『見て、秋也君』 彼女は開け放たれた窓を指差し、そちらへ歩み寄った。 俺も立ち上がって、その傍らに立つ。 深夜と言っても良い今、外の世界は闇に包まれている。 『この風景。似ていると思わない?』 そう言われ、視線を窓の外に移すと、白い大地が眼下に広がっていた。 昼間は赤茶けた地面が地平線まで続く広大な大地は、 月明かりを受けて、白く発光していた。 彼女の言う通り、その光景は、あの夢にとても似ていた。 直視出来ずに、俺は瞼を伏せる。 『・・・夢の少年は、ひとりじゃないわ』 『・・・・・・』 『同じ世界の別の場所で、私も歩いているもの』 俺が背けた白い大地を、彼女はしっかりと見ていた。 彼女の横顔を見る。 君は。 優しくて。 とても、強い。 弱い俺は。 そんな君を時折、遠く感じてしまって。 それでも彼女は、振り返って俺に笑いかけるんだ。 俺たちは二人で歩いて行くのだろう。 あの白い大地を。 俺は顔を上げて、彼女と同じ景色を何時までも見ていた。 |
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