月光ダンス







今日は満月。

まぁるいお月様が、あたしを呼んでる。

外に出てみなさい、って、呼んでる。

だからあたし。

こんな夜はただ、散歩をするの。

月を眺めながら、歩いてみるの。










その日の真夜中、相馬光子は、公園のベンチに座りながら月を見上げていた。

そうして、ぼんやりしていると、例の如く、男に声を掛けられる。


『なに〜、こんな時間に何してるの〜?』

『・・・月を見てるのよ』

『月見?風流だねェ』


 だから、邪魔しないでくれる?ウザいのよね。


『キミ、可愛いね。これからどっか遊びに行かない?』

『いやよ』

『そんなこと言わないでさぁ〜、俺イイトコ知ってるんだぜー』


 ああ、うるさい。

 イヤだって言ってんでしょ?

 馬鹿じゃないの、コイツ。


『しつこい男は嫌われるわよ、あっち行って』

『あぁ!?何だよその言い方!』


そう言って、男は光子の腕を掴んだ。

 やだやだ。馬鹿な男は。

 あ、男なんて全部馬鹿なんだっけ。


『離しなさいよ』

『ちょっと可愛い顔してるからって、生意気なんだよ!』


更に腕を強く掴まれた。

 痛いじゃないの、このクズ野郎。

 好い加減にしないと、殺すわよ。


公園内にいる人間は、見てみぬフリをしている。

 こんなか弱い女の子が絡まれてるってのに、誰も助けようとは思わないわけ?



その時、見知った顔が、前を通り過ぎた。

それは。

クラスメイトの、桐山和雄だった。





『桐山君!』


声をかけると、桐山はゆっくりと振り返る。


『・・・相馬』

『悪い男に絡まれてるの、コイツどうにかして』

『・・・助けたほうがいいのか?』

『そう、やっちゃってよ。あなた強いんでしょ?』


桐山は表情ひとつ変えず、光子と男のほうへ歩み寄る。

男が光子の腕を離して、『何だおめぇは・・・』と言いかけた瞬間、桐山の右足が音も立てず振り上がった。

体が一回転して、桐山の踵が、綺麗に男の後頭部に命中する。


それは見事な回し蹴りだった。


声も上げず地面に倒れ込んだ男は、白目を剥いていた。


『・・・凄い。桐山君てホントに強いのね』

『・・・・・・』

『ありがとう。助かったわ』

『いや・・・』


そのまま桐山は、その場を立ち去ろうとする。


『待って、あたしも行く』

『・・・?』

『あたしももう帰るから、途中まで一緒に行ってくれる?また変なのに絡まれたらイヤだし』


本当は、そんな心配など光子は全くしていなかったのだが、そう言ったのは、所謂、気紛れだった。

桐山は可とも、不可とも答えない。何も言わない。

けれども、光子が桐山の隣に並ぶと、黙って歩き出した。





暫く歩いていると、見慣れた、広い空き地に出た。

この辺りはもう、光子の家の近所で、通学する際いつも通っている場所だった。

だだっ広い空き地に目を遣ると、月明かりに照らされたそこは、さながらダンスホールのよう。

それを見て、光子は不意に、『踊ってみたいな』と思った。

普段の彼女なら、そんな事など思わなかったに違いない。

この年頃の少女が誰しも持ち合わせている、『ロマンチック』さなど、彼女は持っていなかった。

けれど、その夜は、満月だったから。

多分、そのせい。


足を止めた光子に、桐山が振り返る。


『ねぇ、踊らない?』

『・・・踊り?』

『そう、踊ろう』

『・・・何故だ?』

『そう言う気分なのよ。いいでしょ?付き合ってよ』


スっと、手を差し伸べると、桐山は黙って光子の手を取った。









月明かりの下、寄り添った二つの人影が、殺風景な空き地に舞う。

場違いな光景。

それでも、手を取り合い踊る二人は、とても綺麗な顔立ちの少年と少女だったので、

まるで一枚の絵のように、間違いなく美しかった。


『相馬』


器用に、優雅な動きで光子をリードしながら、桐山が話しかける。


『何?』

『お前は踊るのが好きなのか?』

『別に、特別好きって訳じゃないわ』

『・・・なら、何故?』

『そうね・・・多分今日が、満月だからかな?』

『・・・満月』


思い出したように桐山は空を見上げて、『満月だ・・・』と呟いた。


『そう、特別なの。満月の夜は』


そう言うと、光子は綺麗に微笑んだ。









暫く踊った後、光子は桐山と別れた。



別れ際、『楽しかった。ありがとう』と礼を述べると、桐山は何故か首を傾げた。





同じクラスだけれど、よくわからない男だと、思っていた。

相変わらず、何を考えているのか読めない人物だけれども。

あの男は、馬鹿じゃないかも知れないと、光子は思った。















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