| うちに来るかい?(5) |
『着いたぞ』 静かな声を拾って、桐山に凭れ掛けていた自分の体を起こし、窓の外を見た。(微妙にラブ) 車の前で開く鉄錠門と、整理された広い庭に、聳え立つ白い屋敷。 とうとう桐山邸に到着してしまったらしい。 門を潜って、車はそのまま真っ直ぐに敷かれた一本道を走り、屋敷の直ぐ手前で停車した。 扉の前に立っていた男の人(執事さんかな?)が、車から降りた俺達に向けて一礼する。 『皆様お待ちになっていらっしゃいますよ』 穏やかに微笑みながら、その男は桐山に向けそう言った。 それまで、まるで別世界のような桐山邸の雰囲気に呑まれぼんやりしていた俺だが、 その言葉を聞いて体に緊張が走る。 もしかして、このドアの向こうにボスの両親が居るのかな? ・・・どうしよう。スゲー緊張してきた。 無意識にTシャツの胸の辺りを握っていた俺の肩に、桐山の手が置かれる。 桐山の顔を見ようと振り返った俺の体はしかし、次の瞬間ふわりと宙に浮いていた。 『えっ!?・・・わっ!!』 驚いて声を上げる。間近には桐山の横顔。 俺はなんと、桐山に抱き上げられていた。 しかもこれは、俗に言うお姫様抱っこ!?(読者サービス?) 『ちょっ・・・ボス!何っ!?』 『これで登場したほうが、場が盛り上がる』 盛り上げんでいーわ!!(怒) 普段は素っ気ない癖に、どーしてこう言う時にだけ妙にサービス精神旺盛になるんだアンタ!? とにかくこの格好だけは嫌だ!男として屈辱的だ! 『ヤダ!絶対に嫌だ!!恥ずかしいよこんなの!降ろせってば!!』 『嫌なのか?』 『当たり前だろーが!!』(牙剥き出し) 『・・・それなら肩車にしよう』 か、肩車ぁ!?姫抱っこより最悪だ!! 何が哀しくて、義理の両親と肩車されて会わなきゃなんねーんだよ!?(←想像すると笑える) そりゃね、見晴らしは最高だろうけど〜って、そう言う問題じゃない。(ひとりノリツッコミ) 『肩車も嫌だ!!』 『・・・我儘を言うな。今の状態か肩車かどちらかを選べ』 何で二者択一なの? 普通に歩いて入室する権利は俺にはないのか!? そうこうしている間に、執事さんの手がもう扉に掛かっている。 僅かに開いたドアの隙間から光が洩れて、地面に白い筋を作っていた。 いやだあぁぁぁぁ!!こんな格好で人前に出るのはーッ!!!(号泣) ボスは俺の王様であって王子様じゃねーんだっての!!(動揺で思考が支離滅裂) 『降ろせ!早く降ろせ!!今直ぐ降ろせ!!!』(桐山の顔を引っ掴む)←桐山様のお顔に何て事を!? 『いひゃい。ほーをひっぴゃうな』(訳:「痛い。頬を引っ張るな」) 何とか降ろして貰おうとじたばたするが、一向に桐山は離してくれない。 そして俺の必死の抵抗も空しく、目の前の扉が全開してしまった。 『お帰りなさいませ!和雄様充様!!』 綺麗に揃った声。広いホールの両脇に並んだ沢山の人、人、人。 俺に向かって注がれる視線の集中砲火に、一気に顔に熱が集まってくるのを感じた。 恥ずかしい!恥ずかしい!!あーもー恥ずかしいっ!!! 顔を見られたくなくて、俺は桐山にしがみ付いて目を瞑った。(←余計に恥ずかしい格好じゃん) 俺はこの時、「穴があったら入りたい」と言う言葉の意味を、心の底から理解した。 それから少しして、桐山の歩みが止まった。 俯かせていた顔を恐る恐る上げて目を開けると、真正面に一組の男女が立っている。 まさか・・・この人達は・・・。(冷や汗) 『お初にお目に掛かる。和雄の父です』 『初めまして。和雄の母です』 予感は的中。にこやかな笑みを浮かべながら、二人はそう俺に挨拶をした。 『・・・初めまして・・・。沼井充、です』(小声) こうして、義理の両親と俺の初対面は、姫抱っこされたまま行われたのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サイテー・・・。 漸く桐山が俺を降ろしてくれたのでホッと息を吐いたが、遠巻きから興味津々なメイドさん達の視線を 刺すように感じて、居心地は非常に悪い。目の前にはまだ桐山の両親が居る。 『和雄、婚姻届はもう出してきたんだろう?』 『はい。大勢の方に祝福して頂きました』 『・・・ほう。祝福を?それは良かったな』 お義父(とう)さん・・・まさか貴方の息子が役所でサイン攻めに遭ったり、 胴上げされたなんて、夢にも思わないんでしょうね・・・。 遠い記憶に思いを馳せていると、桐山の父親が俺に視線を寄越したので、思わずびくりと身構えた。 『充君。君はもう桐山家の人間なのだから、そう固くならずとも良い』 『そうですよ。自分の家だと思って寛いで頂戴ね』 ホホホホホと笑われて、本当に上流階級の女の人はこんな風に笑うんだと妙な感慨を覚えた。 とりあえず、歓迎されているようなので安心した。二人共優しそうだし、マトモそうだ。 『私のことはパパと呼んでくれて構わないよ』 『あら、あなた狡いわ。それなら私のことはママと呼んで下さいな』 『・・・はぁ・・・』(困惑) 『実の親だと思って、遠慮無く存分に甘えなさい。今直ぐにでもOKだ。 さあ、充君!思う様甘え尽くすがいい!!』(両手を広げて) 『イヤだ』(即答) 桐パパは雷に打たれたような顔をしてから、その遣り取りを傍観していた我が子に縋りついた。 『和雄〜!お前の嫁さん鬼嫁だよ!!泉ピン子だよ!!』 誰がピン子だコノヤロウ。(青筋) 前言撤回。やっぱりこの人変。 『充、親は大切にしないといけないぞ』 父親の背中を撫でながら、桐山は真顔でそう言った。 そうか。ボスは伴侶の俺より親を選ぶってんだな?(←ああ、早くも夫婦の間に亀裂が!) 俺は舅とは上手くやっていけないかもしれない。そう思った。(しっかりしろ充) 『・・・あなた。悪ふざけはその辺になさって下さい。充君が驚いているじゃないですか』 『うむ。そうだな』 桐山の母親がそう声を掛けると、今までの姿がまるで嘘のように 真面目な顔になった桐山の父親は、すくっと身を起こした。 『和雄に充君、今日は離れの方を君達の為に用意してあるから、そちらでゆっくり過ごしなさい』 『夫婦水入らずにしてあげないといけませんものね』 展開が早過ぎて付いていけない・・・。 さっきまでのアレは何?つまり俺はからかわれたのか? しかも良く解らないうちに、俺は泊まることになったらしい。(充、桐山家の人々に流されてます) 今度こそ俺は大きく息を吐いた。何だか妙に疲れたような気が・・・。 その時、不意に何かが近付いてくる気配を感じた。 はっとして顔を上げると、灰色の大きな犬がこちらに向かって走ってくる処だった。(←同類センサー?) その犬は、俺の隣に立つ桐山に駆け寄ると、千切れんばかりに尻尾を振っている。 近くで見たら、吃驚するくらいに大きな犬で、いかにも血統書付きって感じだ。 『ただいま。アナスタシア』 桐山はそう言うと、身を屈ませてその犬の頭を撫でた。 犬は嬉しそうに、無表情の桐山の顔を舐め回している。(←ある意味不気味な光景だ) 『ボスんち犬飼ってたんだ・・・』 『ああ。名前はアナスタシアだ』(犬種:ボルゾイ/雌) ややこしい名前だ。大人しそうな犬なので手を伸ばしてみたら、くんくんと臭いを嗅いだあと、 俺の掌を舐めた。良く見ると恐ろしく綺麗な犬だし、結構人懐こくて可愛い。 『・・・にしてもデカイ犬だなぁ。人間が乗れそう』 『乗ってみるか?』 『え?』 一瞬固まった俺の体を桐山はひょいと持ち上げ、俺を本当に犬の背に乗せた。 『え?え?・・・ちょっと!?』(汗) 『アナスタシア、GO!』(命令) 桐山の掛け声にアナスタシアはわん!と一声鳴いて、俺を乗せたまま猛烈な勢いで走り出した。 『うわあああああああああああああああああ・・・』(遠退いてゆく声) さようなら充。(酷) 犬の背に乗った充の姿は、長い廊下の曲がり角の向こうに消えていった。 一方、その場に残された桐山家の面々はと言うと・・・ 『元気な子だねぇ』 『充はいつも元気です』 『アナスタシアもあんなに懐いて・・・』(感無量) ・・・愛犬の背に揺られ絶叫している新妻を他所に、ほのぼのしていた。 恐怖の犬特急アナスタシア号の暴走で疲れきった俺は、桐山の父親が言っていた 「離れ」に移動した後、通された部屋で暫くぐったりしていた。 離れは屋敷の裏手にあって、純和風で旅館のような佇まいをしている。 洋風な本宅(?)とは対照的な造りだ。 出された夕食を桐山と二人で食べた後、(和食。めちゃくちゃ美味かった!)風呂に入ることになった。 何だか、本当に旅館にきてしまったような気分だ。 食事を運んでくれた人達も和服で仲居さんみたいだったし、部屋も和室。 案内された風呂も広くて、木製の浴槽や、同じく木製の手桶のせいか、風呂場は木の良い香りで一杯だ。 のんびりと湯に浸かって風呂場を眺める。こんなに広いと泳ぎたくなってくる。 別に誰が見てる訳じゃないし、いいよな。 まず平泳ぎ。(スイスイスイ) そしてクロール。(ザブザブザブザブ) 仕上げはバタフライ!(バシャーンバシャーン)←無茶するなぁ。 注※良い子はお風呂で泳いだりしないようにね! 一頻り泳いで満足した俺は、浴槽に顎を乗せて幸せに浸る。 ああ、風呂ってホントに極楽だなー。(ほんわか) 風呂から上がると、俺が脱ぎ捨てた衣服はなくなっていて、代わりの下着と着物が置いてあった。 旅館に置いてあるような浴衣ではなくて、真っ白な着物だ。 着方が解らなかったので適当に前を合わせ帯で留めた。 脱衣所を出ると和服姿の老婆が待ち構えていて、好い加減に着た着物をきちんと着せ直してくれた。 そのまま歩き出した老婆の後ろを歩いていると、自分が先程までいた部屋とは別の方向に向かって いるのに気付いた。 『あのー、俺がいた部屋って、こっちの方じゃないんだけど・・・』 『こちらにお通しするよう仰せつかっておりますので、お気になさいませんよう』 老婆はゆったりと笑ってそう言った。物腰は上品で静かだが、笑顔は柔らかく、 うちの婆ちゃんが俺を見るような瞳の色をしていた。 一番奥の部屋の前までくると、老婆は頭を下げ、その場から姿を消した。 案内された部屋の襖を開けた俺は、一瞬にして固まった。 灯りの点いていない無人の室内には、布団が一組。その上に並べられた二つの枕。 その光景を目にして、俺は漸く、今更気付いた。 今日が新婚初夜だと言うことに。 (ご免なさい。自分で自分が恥ずかしいです・・・) とりあえず布団の上に座ってみる。多分、もう少ししたら桐山がここにやってくるのだろう。 どうしてか、やたらと心臓がばくばく言った。 ──別に、今日始めてエッチする訳じゃねぇじゃん。普通にしてりゃいいんだよ、フツーに。 そう思っても全然落ち着けなくて、俺は長いこと悶々としていた。 その時、襖が開く音が耳に届いた。顔を上げると、俺と同じ白い着物姿の桐山が立っている。 桐山は静かに俺の前に腰を降ろすと、口を開いた。 『充』 『は、はいっ!』(思わず敬語) 『桐山家には、夫婦が始めて褥を共にする際、しなければならないしきたりがある』 『・・・うん(「しとね」って何だ?)』 『まず、三回廻ってわんと言え』 『・・・・・は?』 何それ?三回廻ってわん??? そんな情けない真似、いくらしきたりだからって俺はやりたくない。 『やだよ。そんなカッコ悪ぃ真似したくねー』 『・・・・・』 『だいたい俺、しきたりとか嫌いだし』 『・・・充』 普段より低い呼び声に顔を上げると、桐山が片膝を付き、手には日本刀を握っていた。 白い着物に日本刀・・・うわあ、お殿様だよボス。 殿様ボスがその刀を俺の喉元に突きつけて、ゆっくりと言った。 『三回廻ってわん、だ』(目が本気) 『・・・・・・・・・・はい。やります』(大量発汗) 俺がそう答えると、桐山は抜き身の刀を鞘に収めた。(銃刀法違反) ・・・そんな物騒なモン、どっから持ってきたんだ。 流石は伝説の男。伊達に中学生でヤクザ相手にしてるだけのことはあるよ。 仕方ないので、桐山が見ている前で布団に手と膝を付く。 慣れない着物で動き難いが、俺は行動した。 一回・・・二回・・・三回・・・っと。 『わん』 これで良いのかなーと思って桐山の顔を窺うと、桐山は納得したように頷いた。 それから俺の肩に手を置いて、さらりと言う。 『・・・冗談はこれくらいにして、やるか』 『じょ、冗談っ!?』(ガビーン) あんな恥ずかしい真似させといて、しかも刀まで出して脅した癖に酷い!(←本当にな) 鬼!悪魔!暴力亭主!実家に帰ってやる!! 衝撃を受けている俺など一向にお構いなしで、桐山は何事もなかったようにしている。 しかもその手が俺に伸びて、それが当たり前のように腰を抱かれ引き寄せられた。 『・・・今の冗談は笑えねぇぞ』 『怒ったのなら謝る。悪かった。すまない。許してくれ』(棒読み) 『・・・・・・・』(頬引き攣り) こいつ・・・全然悪いと思ってないな。 至近距離で睨んでやったが、全く効果はない。・・・解ってたけどさ。 桐山の顔が近付いてきたけど、俺はその動作を手を当てて制した。 言っておきたい台詞があったからだ。 『不束者ですが、宜しくお願いします』 『・・・こちらこそ、宜しく』 ぶっきらぼうに言った俺の言葉に、桐山はそう返した。 押し当てた手を桐山に取られ、指先に口付けられる。忘れていた動悸が再発して、耳が熱くなってきた。 けれど俺の目を見ながら、いつもの顔で桐山が口にした言葉は、とんでもない内容だった。 『新婚初夜と言うのは特別だそうだから、俺が出来得る限り、目一杯頑張ろうと思う』(大真面目) 『・・・いや、そんなに頑張られても困るんだけど・・・』(脂汗) 一応そう言ってみたけど、俺の言葉は多分無視されるんだろう。 諦めの溜め息を吐いて、俺は目を閉じた。
俺がふと目を覚ますと、もう外はすっかり明るかった。 時計を見ると昼の3時。泥のように眠ってしまったらしい。 昨夜は凄かった・・・。ちょっと生命の危機すら感じた。(←どんなエッチしたんだお前ら) 改めて、俺は桐山に畏怖と尊敬の念を感じずにはいられない。(←だからどんな事されたんだ君) 体を動かそうとして、俺は呻いた。全身がぎしぎしと悲鳴を上げている。 特に腰と足の付け根、他にも肩とか背中とか、とにかく全身が痛くてだるい。 起きるのを諦めて、また布団の中に戻る。隣を見ると桐山が静かに眠っていた。 自分の方が先に目を覚ますなんて珍しい。じっと桐山の顔を見ていると、その瞼がゆっくりと開いた。 『・・・・・・・・・・』 『おはよ』 桐山はぼうっとして、それから眉を少し顰めた。 もしかして、俺と同じように体のどこかが痛むのかもしれない。 『流石のボスも疲れた?』 『・・・ああ。体がだるいな・・・』 俺は笑って、目の前の体に腕を廻す。 桐山が気怠るそうに頭を枕に預けたのを見て、俺は静かに身を寄せた。 こんな風になるなんて、思ってもなかったなぁ。 始めは悪い冗談だとばっかり思ってたのに。 気が付いたら結婚とかしちゃって、嘘みたいな話だ。 それで幸せだと思う俺って、お気楽馬鹿かもしんない。 まぁいいや・・・今は疲れてるし眠いから、もう少し寝よ・・・。 (続く) 次回は結婚後、初登校する二人・・・かな。 本題。充が最後に言っているように、まさかこんなに続くとは私も思っていなかったよ。 いやはや、煩悩の力ってのは凄いです。桐沼バンザーイ♪ |
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