| おまえがいい |
その日は、中間テストの真っ最中だったので、部活動もなく、正午には授業は終わっていた。 本当だったら真っ直ぐ慈恵館に戻って、テスト勉強をしたほうがいいんだろうけれど。 教室に残って適当に昼飯を食べた後、三村や瀬戸と暫く騒いでいた。 勿論慶時も一緒に。 俺の隣には、いつも慶時がいる。 隣で、笑っている。 俺って。 幸せだな。 帰り道、俺と慶時は、いつもの道を外れて、川原のほうへ寄り道をした。 土手伝いに、今日のテストの出来なんかを話しながら歩いた。 『秋也、数学どうだった?』 『・・・聞くなよ。そう言うお前はどうなんだよ?』 『秋也よりはマシだと思う』 『あー!言ったな。もし俺のが点数良かったら、何か奢れよ』 『じゃあ、もし俺のほうが点数良かったら、秋也も俺に奢れよ?』 他愛無い会話で、馬鹿みたいに笑う。 最近、それが凄く幸せなことだって知った。 前は当たり前すぎて、気づきもしなかったけど。 きっかけは、多分。 俺が、慶時を好きになったから。 彼を、とても大事に思うようになったから。 足を止めて、土手の芝生に腰を下ろす。 もう、日が暮れかけていた。 太陽が夕日に変わって、オレンジ色に輝いている。 辺り一面、夕日と同じ色。 空も。 空気も。 川面も。 隣に座っている、慶時の顔も。 それで俺は、ずるいことを考える。 慶時のことは大好きだ。 ずっと大好きだった。 けれど今は、違う種類の、『好き』もそれに交じってしまっていて。 そんな俺の想いを、慶時は受け入れてくれた。 でも、今は。 夕日が綺麗なこんな時は。 恋とか、そう言うのを忘れて。 ただの友達に戻ってしまいたい。 お前と恋人になったこと、後悔してる訳じゃないんだ。 好きだよ。 愛してるよ。 ただ、今だけは。 友達でいさせて。 俺、ずるいよな。 ご免な、慶時。 『なぁ、慶時。何か『青春』って感じだな、今』 『何それ?』 『だってさ、真っ赤に燃える夕日と川原だぜ?青春ドラマみたいじゃん』 『マジで言ってんの?恥ずかしい奴・・・』 『ああ、夕日のバカヤロー!!って叫びたいな』 『秋也って偶に馬鹿だよな』 近くの小石を掴むと、俺は立ち上がって、それをサイドスローで投げた。 一回、二回、三回、四回、五回・・・投げた小石は、川面を跳ねて、水中に沈んだ。 五回か、まずまずだな。 それを見ていた慶時も、俺の真似をして、小石を川へ放った。 小石は、一度も跳ねないで、ぽちゃんとそのまま水の流れに消えた。 『慶時下手すぎ〜!』 『・・・どうせ俺は秋也みたく出来ないよ』 『怒るなよ、コツがあるんだ。こうやって・・・』 もう一度、投げる。 今度は、八回跳ねた。惜しい、あともう少しで十回なのに。 『手首を使って、横から投げるんだ』 慶時は小石を手に取ると、真剣な表情で、川に投げた。 一回、二回、三回・・・。 夕焼けを反射して、きらきら輝く水面を、小石が滑って行く。 小石が跳ねるたび上がる雫が、夕焼けを映して、まるで宝石のように飛び散り、光った。 慶時が投げた小石は、ずっと遠くに消えて、見えなくなった。 『すげーっ!!今の軽く十回は跳ねたぜ』 そう言って振り返ると、慶時は、嬉しそうに目を細めて、小石の消えた先を見詰めていた。 やっぱり。 友達でも。 恋人でも。 俺の隣は、お前じゃないと。 慶時じゃないと、駄目なんだ。 そう、俺は。 慶時がいい。 おまえがいい。 夕日は街の向こうに沈んで、夜が直ぐそこまで来ている。 もう、青春ごっこはお終い。 薄闇の彼方、今は街の灯りを僅かに映し出すだけになっている川に背を向ける。 『慶時・・・帰ろうか』 『うん』 『慶時』 『何?』 『好きだよ』 そう言って笑いかけると。 慶時の頬が、まるで夕焼けを浴びたみたいに染まった。 それから、少し怒った顔をして、『バーカ』と言ってから、慶時も俺に笑いかけた。 俺の隣で笑うお前。 ああ、俺。 凄く幸せです。 |
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