| ねこねこ |
偶には仲良くしてもいいって、そう思ったりしない? ほら、あれあれ。 あの猫たちみたいにさ。 窓に寄り掛かって、外の景色を眺めていた。 狭い道路を挟んだ向かいの塀の上に、二匹の猫が寄り添って眠っている。 もう大分寒い季節になったけれど、昼間の日差しはまだ暖かそうだ。 長閑な光景を見ていたら、何だか俺まで眠たくなってきた。 欠伸をひとつすると、隣にふっと人の気配が侵入してくる。 また出そうになる欠伸を噛み殺して、その人物に顔を向ける。 いつもと同じ顔の、桐山が俺を見ていた。 『眠いのか?』 『・・・んあ?んー、猫見てたらさ・・・何か眠くなった』 桐山は黙って、窓の向こうに目を遣った。俺も続いて同じ方向に視線を向けたが、 さっき見た時眠っていた猫たちは、目を覚ましていて今はじゃれ合っている。 眠ってる姿も長閑だったけど、じゃれ付いてる姿も何だか平和だ。 動物って、そう言うもんなのかもしれない。 ちらりと覗き見た桐山の顔が、あんまりにも無機質で少しつまらなかったから。 ちょっとイタズラしてみようかと思った。 塀の上の猫の一匹が、もう一匹の耳を噛んでいる。 まだ外を眺めている桐山に近付いて、俺も猫と同じように、その耳を齧ってみた。 桐山は肩を竦めて片目を細めた。・・・何か、猫みたいな仕草だ。 『・・・何だ?』 『猫の真似』 猫、と桐山は呟いて、もう一度塀の上の猫たちを見たようだった。 それから桐山の顔がすっと近付くと、俺の頬をぺろりと舐めた。 驚きながらも横目で猫たちを見ると、案の定、同じように一匹がもう一匹を舐め回していた。 『あはは!・・・ちょっ・・・くすぐったいって!』 『猫の真似だ』 さらりとそう言ってのける桐山。笑いながら身を捩って逃げようとするが、桐山はそれを許さない。 眠気も吹っ飛んで、妙に楽しかった。 馬鹿みたいな追いかけっこを続けていると、頬の上を伝っていた桐山の舌が移動して、 今度は耳たぶを舐められる。 背筋がぞくぞくして、思わず体を思い切り引いた。 無意識のうちに猫がいる処へ目を遣ったら、そこからはもう、猫たちの姿は消えていた。 面白かったから、少し残念な気分になる。 猫の真似はもうお終いだ。 それなのに、俺の腰を抱いたままの桐山が、また顔を寄せてくる。 吃驚して目を見張ったが、そんな俺には構わず、桐山の舌先が俺の唇の端を舐め上げた。 『・・・猫、もういねぇよ?』 『知ってる』 『じゃあ、今の何?』 『猫の真似の延長だ』 真似の延長って何だよ・・・と思っているうちに、また桐山の顔が接近した。 上唇の真ん中を、催促するように舌先で刺激される。 楽しい気分はどこかに消え、心臓がどきどきしてきた。 熱を帯びてくる体を持て余して、余裕なんてなくなってしまう。 唇を舌でなぞられて思わず息を漏らす。それに反応したように、伏せられた桐山の瞼が微かに震えた。 長い睫毛の下、黒い瞳がこちらを窺うように見上げてくるので、俺は観念して口を開く。 瞼の下に、その黒い目が完全に隠れるのを確認してから、唇を合わせた。 猫はこんなことしないけど。 でもやっぱり、俺たちって猫みたい。 気紛れにじゃれ合って、それで。 一緒ににゃあにゃあ鳴こうな。 |
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