マンネリ






『乱暴にして欲しいんだ』


そう言ったら。


“どうして?”と、訊き返された。





桐山は何をやらせても上手い。

それはセックスにも言えることで。

比べる対象がないから、はっきりしたことは言えないけれど、多分上手いんだと思う。

それでも、最初の頃はそうでもなかった。

力任せに扱われて、俺は相当辛い思いをしていた。

しかし、そこは天下のボス、桐山和雄だ。

あっと言う間に手馴れてしまい、今では、辛い目に遭っていたのが嘘のよう。

恐るべき学習能力。

まさにあんたはパーフェクトです。


今も。


酷く優しい手つきで体を探られて。

柔らかく耳朶を噛まれて。

それが、何故だか癇に障った。


理不尽な怒り。

どうかしてる。

優しくされるのが、嫌だなんて。

わかってはいても、釈然としない気持ちが消える訳じゃないし。

紛い物を掴まされたような腹ただしさは、焦りに変わった。


何かが微妙に遠くて。

じりじりと募る焦燥。


だからこう言った。




『乱暴にして欲しいんだ』




桐山は手を止めて俺の顔を見上げた。


『どうして?』


『「痛い」のは、嫌なんじゃないのか?』

『いいんだ。それでも』


俺の言葉に、桐山は沈黙した。

やっぱり、変に思われただろうか。

自分の言動に、今更ながら後悔する。

不安になって桐山を見ると、不意に、桐山の右手が振り上がって、俺の頬を思い切り平手打ちした。

ベットに腰掛けていた俺は、横に吹っ飛んでそのままシーツの上に倒れ込む。

衝撃で目の前がちかちかした。


本気で殴りやがった。マジで痛ぇ。


頬に走る痛みに気を取られているうちに、桐山は左手一本で俺の両手首を掴むと、

頭の上で強く押さえ付けた。


『・・・ちょっとは手加減してくれても・・・』

『痛くてもいいと言った』


腕を束ねられたまま、噛み付くようなキスをされる。

強く下唇を噛まれて、血が滲んでくるのがわかった。

血の味がする舌先が上顎を擦るようになぞると、そのまま前歯の裏に移動した。

その舌に自分のそれを押し付けると、吸われて、緩く歯を立てられる。

舌を噛み切られたらどうしようと、有り得ない考えが頭の隅を過ぎった。


普段、俺が嫌がるから、桐山は痕が残るような行為はしない。

けれど今日は容赦なかった。

あちこちに強く吸い付かれ、噛み付かれた。

今も、背中に回した右腕の内側に、綺麗に並んだ赤い歯型が見える。


この、乱暴者。




『・・・う、ぁ!!』


殆ど慣らされないまま押し入れられて、思わず悲鳴のような声を上げてしまう。

痛い。

めちゃくちゃ痛い。

多分切れた。

生温かい液体が肌を伝う感触に、流石に焦った。


『・・・っ、い、痛・・・!』

『やめるか?』


冷静な声でそう言われ、俺は首を横に振った。

今更もう、遅い。


『・・・い、から、・・・続け・・・』


全てを言い終わらないうちに、目の前の白い肩が揺れ始めた。

遠慮も何もない強引な動き。

中を掻き回されて気が遠くなる。


苦しくて、痛くて。


無意識に、『いやだ』と口走ってしまったけれど。

桐山はもう、聞き入れてはくれなかった。


苦しくて、痛くて。


それなのに。

体の奥、深い処でじわじわと広がってゆく快感に驚いた。




俺の体は、この男に馴らされきってるんだ。




凄く情けないのに、なんで嬉しいんだろう。

本当に俺は、どうかしてる。




目を瞑らないように努力して、桐山の姿を必死に追う。

相変わらずの無表情。

けれどその姿はどこか、殺気を帯びているように俺には感じられて。

ああ、俺はこれが見たかったんだと、そう思った。






結局俺は、途中で耐え切れなくなってしまい、最後まで目を開けていることが出来なかった。

滅多に見られない姿だったのに。

残念。


俺の肩口に顔を埋めて、呼吸を整えていた桐山が頭を上げた。

その顔が近づくと、殴られた側の頬に、やんわりと口付けを落とされる。



バカ。

なんでそう言うことするかなぁ?

最後の最後に優しくされたら、全部パァじゃんか。

あんたなんて、ホントは、

只のケダモノの癖に。




















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