| 百億の言葉を君に |
背を向けている充に向かって俺は言う。 『好きだ』 嘘だけれど。 『・・・心にもないこと言うな』 見抜かれている。 『お前が好きだ』 やはり、嘘だけれど。 『また、殴るぞ』 別にいいさ、殴られたって。 この間、充に、『好きだ』と言ったら、殴られた。 充が、『嘘でも良いから好きだと言って欲しい』と言ったから、 嘘だけれど、俺は充に、『好きだ』と言った。 充は酷く怒って。 俺を殴りつけた。 そして、泣いた。 何故怒ったのか、何故泣いたのか。 わからなかった。 今でも、わからない。 『・・・好きだ』 嘘。 『・・・・・やめろよ』 その言葉を無視して首筋に口付けると、充がゆっくりと俺に顔を向け、言った。 『嘘つき』 どうして? 言って欲しかったんじゃないのか? 嘘でも。 誰かが言っていた。 『それが嘘でも、言い続ければ、その嘘を吐き通せば、それは真実になる』と。 それなら、試してみようと思った。 嘘を吐き続けてみようと思った。 俺の嘘が、真実になるまで。 そんなふうに何かを待つのも、悪くないと、思った。 俺の『嘘』が、充にとって『真実』になった時。 俺にとっての『嘘』もまた、『真実』になるのだろうか。 わからない。 わからないけれど。 なると、いい。 それはもしかしたら、生まれて初めての願い事だったのかも知れない。 そんな日は、永遠に来やしない。 月明かりの下、潮風を身体に受けながら。 ざわめく波音を聞きながら。 手にした冷たい武器を握り締めながら。 こめかみに走る疼きを感じながら。 足元に転がる充の死体を見下ろしながら── そう思った。 結局俺の嘘は嘘のまま。 真実には、成り得なかった。 身を屈ませ、指先で充の身体に触れて。 『好きだ』 と言ってみる。 耳の奥で、『嘘つき』と、充の声がした。 |
| Back |