| 不機嫌極まり無し |
とても、つまらない日だった。 目にしている風景も、人間も、やってることもいつもと同じなのに、何だか面白くない。 意味もなく、苛ついて。 つまりは、俺はその日、不機嫌だった訳だ。 「ホルモンのバランスが崩れているんじゃないのか」 学校にいるのもかったるくて、無断早退した後に転がり込んだアジトでゴロゴロしていた俺が、 調子出ねぇとか、気分が乗らねぇとかぼやいてたら、桐山がそう言った。 「何ソレ・・・。女じゃあるまいし、そういうのとは違うと思うけどー?」 「ホルモンバランスが崩れるのは、別に女に限ったことじゃない」 「・・・ふぅん、そーなんだ・・・」 桐山の言葉に、俺は適当な相槌を打った。 ホルモンなんとかなんて言われても良く解らないし、多分俺の不機嫌は、 単に、“虫の居所が悪い”ってヤツだと思っていたから。 だいいち、不機嫌の原因を考えるのも億劫だ。 ソファに深く体を沈めてダレきっている俺の顔を、桐山が覗き込んでくる。 美術室にある石膏像みたいに、白くて整った顔。 いつもだったら、桐山の顔を見るのは嬉しいくらいなのに、今日は違った。 澄ました綺麗なその顔に、ムカっとくる。 そして思わず、口に出して言ってしまった。 「・・・何か、ボスの顔ムカツク・・・」 言ったあと、流石にしまったと思った。 しかも、あの万年無表情の桐山が、訝しげに眉を寄せたものだから、俺の驚きは尚更だ。 ああどうしようと慌てている俺の横で、桐山は、ムカツク・・・と口の中で呟いている。 そして徐(おもむろ)に立ち上がり、 「帰る」 とひと言。 「ちょっ・・・ボス!か、帰るって・・・」 「お前は俺の顔を見ると“ムカツク”のだろう?それなら、俺はいない方がいいと思って」 「ええっ!?いや、あの、さっきのアレは、本気で言ったんじゃなくて・・・」 苦しい言い訳をしながら、俺は桐山の腕を取って引き止めた。 このまま帰られるのが、良くないことなのは確かだ。 桐山は黙って突っ立っていたが、俺が腕を放さないので、漸く元の位置に腰を下ろした。 「苛々してたから、ボスに八つ当たりしちまったんだ」 「充は時折、特別不可解なことを言う」 「・・・うん。ご免な」 大切な人なのに、嫌な思いをさせてしまったようで、俺は本当に申し訳無いと思った。 ああ、意味のないこの不機嫌が恨めしい。 情けない顔を見られたくなくて、俺は桐山の肩口に額を押し付けてから、もう一度ご免と呟いた。 気にしてない、と平坦な声が返ってきたけれど、背中をぽんぽんと叩いてくれる手は、 駄々っ子をあやすみたいな仕草で、胸の中がほわっと温かくなった。 「充は元気な方がいいと思う」 暫くそのままの体勢で、目の前の体に凭れていたら、桐山がそう言った。 その言葉が何だか嬉しくて、口許が緩む。 多分、今日初めて俺は笑った。 「・・・あのふたり、アタシらシャットアウトでまたイチャついてるわよ・・・」 「俺はもう慣れた」 「俺も」 実は同じ部屋に、月岡・笹川・黒長の三名もいたのだった。 しかし三人共、例のふたりがじゃれ合う姿には、言葉の通り、もうすっかり慣れっこになっているのである。 どうやら、参謀殿の機嫌も直ったようだし。 仲が良いに越したことねーんじゃねぇの? ・・・とまぁ、こんな感じで、今日も桐山ファミリ-は平和です。 |
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