駄目じゃないけど







夜も更けて、辺りはしんと静まり返っている。

他の部屋のみんなはもう、眠ってしまったのだろう。

冬の冴え冴えとした空気が、尚いっそう、その静けさを際立たせているようで、俺は少し身震いした。


『・・・秋也』


敷いた布団の上にうつ伏せて、洋楽の楽譜を眺めている秋也に声を掛ける。

秋也は、『なに?』と言うように、首を少しだけ傾げた。


『そろそろ寝よう。明日だって学校あるんだし』

『ん・・・そだな・・・』


手にしていた楽譜を閉じると、秋也は俺に向き直る。

そんな秋也の行動に、俺はどきりとした。

『じゃあ』と言い、秋也は身体を寄せると、俺のパジャマの襟を掴み、そして、キスをした。


こうして眠る前にするキスは、最近なんだか習慣になってしまっていて、

秋也は毎晩、ためらいもなく口付けて来る。

でも俺は、まだそんなのに慣れてなくて、キスをされている間、いったいどうしたら良いのか

解らず、ただ目を閉じてじっとしていた。

今も、頭の芯がなんだか痺れてしまっているようで、どうにも落ちつかない。


『・・・・・・・・・・』


何時もならとっくに離れているはずの秋也の唇は、今日はまだ、触れたままで。

長い口付けに、俺の頭の中は、ぼうっとしてくる。

襟を掴んでいた秋也の指がそこから離れて、パジャマの内側──鎖骨の辺りをすっと撫でた。

俺はその感触に吃驚して、思わず身を引く。


『な、なんだよ、今の?』

『・・・嫌だった?』


いつになく真剣な表情の秋也に、気圧されて俺は息を呑んだ。

無意識に、たった今触れられたところを庇うように、手で押さえる。

俺が何も言わないでいると、『俺さ・・・』と秋也は続けた。


『俺、慶時が好きだよ』

『・・・うん。解ってる』


今更そんなこと、改めて言われなくても、知ってる。

もう何度も秋也に『好き』って言われたし。

俺だって何回も秋也に『好き』って言ってるし。

それが、友情の好きじゃなくて、恋愛の方の好きだってことも、もう解ってる。

なのに、何で、改まってそんな真剣な顔で言うんだよ?


『ん・・・じゃあ、ハッキリ言うな。俺もう、キスだけじゃヤなんだ・・・』

『・・・・・・・・・・・・・は?』

『俺、慶時とエッチしたい』

『!!!!!?』


俺はその言葉に、天地がひっくり返るくらい驚いて、ざざっ、と後じさった。


『なななな、何言ってんの!?秋也っ!!?』


──そんな、そんなこと、俺、考えもしなかった。

──俺まだ14才だよ?秋也だってまだ14だし。

──大体、俺たち男同士、だし。


『やっぱ、駄目だよなぁ・・・』


はあぁ、と、盛大に溜息を吐いて、秋也は肩を落とした。



吃驚した。

凄く吃驚したけど。

でも。

何だか、嬉しかった。

秋也が、そんなにも俺を好きでいてくれたこと。

俺、なんにも知らなかったんだね?

秋也。



『秋也』



下を向いたままの秋也に、俺はそっと近づいた。

そして、呼び掛けに顔を上げた秋也の唇に、触れるだけのキスをする。


『・・・慶時・・・』

『今はまだ、駄目だけど。いつか・・・いつかは、いいよ、しても。秋也となら』


笑ってそう言った俺を、秋也はぎゅっと抱きしめてから、『いつかっていつだよ?』と

少しふてくされたような声色で呟いた。


俺は目を閉じて、秋也の言う『いつか』はそう遠くない日に来るんじゃないかと、思った。
















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