「イランではチョウザメはウズンブルって言うんだ、意味は長い鼻さ」と日本に出稼ぎに行っていたイラン人、ホセインが教えてくれた。故開高さんの本によるとキャビアの親でありそして長い鼻の持ち主でもあるチョウザメは海にも川にも生息し最大級のヤツになると700キロにもなるという。
そんな魚がいるのならどうしても見てみたい。そう思った僕はバイクでカスピ海の港町バンザリアンザリに向かった。なんだか寂しい色をしたカスピ海だが堤防には嬉しい事にイラン人釣師がいっぱいいた。
先端の方でコイを釣っていた人がいたのでその側で様子を見ているとイスマイルという出稼ぎ帰りのイラン人がオカマっぽい日本語で「釣り、好き?」と言って彼の竿を貸してくれた。本当どんなとこにも親切な人がいるもんだ。
誰にも言葉が通じずに困っていたとこだったのでいろいろ彼と話してるとピクピクとしたアタリがでて10センチぐらいのハエみたいな魚が釣れる。カスピ海の記念すべき一匹目だが僕の狙いはこいつじゃない。
そこでイスマイルにチョウザメはどうやったら釣れるのか?と聞いてみると彼は「そんなことしたら捕まるわ、ダメ!」と意外なことをいう。どうやらこの国ではチョウザメを捕るには政府の許可が必要らしい。しかも港に陸揚げされたチョウザメはそのまま政府直営の水産工場に運ばれキャビアと切り身に分けられる。身はバラバラにされて売られるので全身は見れないし、キャビアはキャビアで輸出用なのでイラン人が勝手に売買すると捕まるという。
なんともおかしな話だがそうとなるとますますチョウザメが見たくなった。そこでイスマイルと一緒に政府の直営工場に行って見るだけでいいからと頼み込んでみたのだが残念ながらそれも許されない。
悔しかったのでイスマイルのコネでブラック、マーケットでキャビアと密造酒を仕入れた。「これ危ない!見つかったらムチ打ち80回の刑よ」とイスマイルがいうだけあってイラン産の本格キャビアは確かに政府が庶民に禁じたくなるほどの味だった。 |