釣り師なら一度は釣ってみたい魚、それがカジキだ。ホノルルマラソンに出た後、ワイキキ滞在中に僕はどうしてもトローリングに行きたくて一緒にマラソンに出た連中に『ハワイは釣りのメッカだから行けば絶対釣れる』と説得しトローリングに出た。

その日は朝から素晴らしい天気で港を離れていく船の背後には絵葉書のようなワイキキの街が広がり沖の方には始めて見る潜水艦まで現れ気分は頂点に達した。やがて仕掛けが流されトローリング初体験の僕らはいつカジキが掛かるのか？ドキドキしていたが待つこと数時間さっぱり当たりがない。

大物がそんなに簡単に釣れるわけないのだが、メンバーのほとんどは僕が『絶対釣れる』と断言したので文句が出始めた。その時いきなり何の前触れも無く”ジイーッ”ともの凄い音がしてリールが唸ったと同時に竿が絞り込まれた。「きた！」ラインが出るのが止まって勝負が始まる。しかしなかなか敵は姿をみせない、一体何が掛かっているのか？想像が広がる。まさに至福の一瞬だ。

やがて緑色に輝く魚体が水中に現れキャプテンがそれを船上に取り込む、頭の張り出した奇妙な顔をした宝石のように美しい魚をキャプテンは「マヒマヒ」と呼んだ。僕らはその魚がシイラとは知らずその美しさにただただ感心してしまった。『やっぱりハワイはすげー』と誰かが言って皆が頷き３０分前と船上の空気がガラリと変わる。

しかしその後またピタリとアタリが止まり、さきほどの気合いも薄れ皆疲れと船酔いであちこちで文句を言いながら寝始めた。何かやっぱり釣れてくれないと、船代が高すぎて一人で払えないから皆を引っ張って来た手前気が引ける。そこにまたリールの唸りが聞こえた。しかし飛び起きた皆を尻目にそれはハワイの海へ消えていった。結局いま考えればシイラ一匹だが、その時は大物の夢を見せてくれた海に大満足だった。ハワイが沖縄に行くのと同じくらいの料金で行ける今、夢のカジキにまた挑戦してみたいと思うこの頃だ。