ケニヤとエチオピアにまたがって神秘の湖ツルカナ湖はある。湖の周辺には首長族であるツルカナ族や鮮やかなビーズ飾りを付けたエルモロ族などの少数部族のいるなかなかすごい所だ。
野宿覚悟で岩山を越えてツルカナ湖につくと、驚いた事にこんな所にロッジがあった。しかも壁にはなんと200ポンド(90キロ)という巨大なナイルパーチの写真があるではないか!これはもう行くしかないだろう。ちょうどロッジにいたイギリス人の老文化人類学者が午後から船でエルモロ族の部落に調査に行くというので彼が上陸している間、僕は釣りをするということで一緒にツルカナ湖に出た。
持ち時間は2時間、大物を狙うにはあまりにも短すぎる時間だが金もないうえケニヤビザも残り数日の僕にはこれ以上のチャンスはない。しかしイギリス人を岸に下ろしてからなんと10分ほどで70センチと50センチもあるナイルパーチがいきなり釣れてしまった。
何だ?この湖は一体どうなってるんだ。カジキ用のトローリング仕掛けを使っているからそれほど苦もなく上げられたけど、このサイズの魚は今までそんなに釣ったことない。感動して眺めているとまたもやリールがうなった。信じられない気持ちで竿を取ると先程の2匹とは比較にならない重量感が伝わってくる。
これは間違いなくデカい。船ごと引っ張っていきそうな力に耐えてジリジリと少しずつ寄せて来ると緑色の水中を銀色の魚体が走るのが見えた。その姿を見たら震えがきた。デカい!見間違いじゃないかと思うほどのデカさだ。祈るような気持ちで上げたのは20キロの1メートル20センチの大物、もう言う事はない。しかし入れ食いはまだ続き、さらに18キロと10キロがきた。
2時間後、喫水が下がるほどの魚を乗せた船で老学者を迎えに行くとびっくりした彼は今晩この魚を一緒に食べようと言い出した。この殺人的な暑さに加え交通機関も全くない僻地でひとり研究を続ける73歳の男のロマンに満ちた話は神秘の湖に住む巨大魚ナイルパーチと共にアフリカのいい思い出となった。 |