南アフリカの港町ダーバンはアフリカでも有数の貿易港だ。僕は日本から送り出したバイクを受け取るためこの町に来ていた。いつもの事ながら自分でバイクの税関手続きをするのは本当に大変で、この時もダーバンの港を仕切る悪魔のようなインド人との交渉にはめまいがしそうだった。
腹が立つ日はやはり海に行くに限る。あまり知られていないが南アフリカはサーフィンのメッカでもあり、ここダーバンの美しい砂浜にもいつもインド洋の荒波が打ち寄せている。そしてそんな海岸のはずれになぜか釣人の集中している堤防があった。
何が釣れるのかは分からないが取りあえず僕もそこで竿を出してみる。イカをエサに記念すべきアフリカでの第一投を浜と平行に20メートル付近に投げた。波がきついから厳しいかなと思ったとおり、10号のオモリでは釣りにならないようだ。
どうしようか?と考えていると、気付いた時には回りすべてを好奇心でギラギラした出腹のインド人釣師に囲まれていた。彼等の話に寄ると今日は風向きが悪いらしい、そのうちの一人が「これエサに使ってみな」と言ってカニをくれた。カニは浜で取れるが取るのは違法らしく、浜でカニを掘っていた彼らの仲間は警官と追っかけっこやっていた。
しかしせっかく彼等が苦労して取ってくれたエサでもその日は残念ながら何も釣れなかった。翌日、今度は水深のある運河に行ってみた。堤防に着くといきなり白人の竿が豪快に曲がっている。みんなが見守る中上がってきたのはグラティスと呼ばれる4キロもある見事なタイだ。釣った本人もこれほど見事なのは初めてらしく僕のカメラを見つけて「写真取ってくれ」と大喜びだ。彼は根掛りの多いこの場所で釣りをするために百個近いオモリを自分で作って持ってきていた。やはり世界のどこにも釣りキチはいるものだ。
近くで見ていた意気のいい兄ちゃんがなぜか僕らにウォッカを持ってきたので、3人でこの見事なグラティスに乾杯した。  |