債務超過にあらず、不可解な株の流れ…


3期ぶり黒字でも再建断念

■11月26日、東証で記者会見した染野正道デジキューブ社長は「来年の3月までに債務超過になる可能性があると判断した」と破産申請の理由を語った。
確かに負債総額は約95億円と巨額だ。しかし、債務超過で上場を維持する企業もあるのに、2003年3月期に3期ぶりの最終黒字を計上し、同9月中間期末時点で「債務超過でない」というデジキューブが、民事再生法の適用申請などの再建策を簡単に諦める理由は見当たらない。

■デジキューブは、1996年に設立。ソフト販売数は98年3月期の860万本をピークに2000年3月期にはほぼ半減し、2003年3月期にはさらにその半分にまで減少した。
 2001年8月には、親会社だったスクウェアが持ち株の一部を売却し、デジキューブを連結子会社から外した。そんなデジキューブに助け舟を出したのが「TSUTAYA」のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。2002年5月にデジキューブの第三者割当増資を引き受けて第2位株主となった。
 CCCはデジキューブに役員を送り込み、従業員を半分程度に削除するなどリストラを断行。黒字化はCCCが経営に参入した結果とも言える。デジキューブの役員に派遣されたこがあるCCC幹部は「コンビニでの流通を自分達で作り、ソフトの流通を拡大できないかと考えていた。CCCの流通子会社との合併も視野にあった」と明かす。しかし、今回、突然死の謎を深めている一因として当のCCCの迷走ぶりが挙げられる。

■そもそもCCCの益田宗明社長に出資を依頼したのは、デジキューブの創業社長で、旧スクウェア創業メンバーでもある鈴木尚デジキューブ会長だったという。だが、鈴木会長はスクウェアで進めた映画事業が業績悪化招き、スクウェア社長兼CEO(最高経営責任者)を辞任。現在は代表権のない取締役で、デジキューブのCDOも退いていた。CCCにとっても、ヒット作頼みで四半期ごとに業績が大きくぶれるデジキューブは重荷になっていた。
 「アナリストにもマスコミにも、デジキューブの株式を持つメリットは何かと聞かれた」(増田CCC社長)。「決算が良くなるまでデジキューブを持ち分適用から外そう」と増田社長がまず動いたのが、今年夏のことだった。
 財務省に提出された大量保有報告書によると、CCCは8月29日、デジキューブの22.73%の持ち株のうち、8.8%に当る2400株を1株10万1900円(計 2億4456万円)で角川歴彦(つぐひこ) ・角川ホールディングス社長の関係会社に売却した。


CCCの決算対策で株売却

■CCCは株価が下落しているデジキューブ株の保有を減らして、9月の中間決算の数値をよく見せたかったのだろう。喜吉(きよし)憲CCC常務は「第2位株主であることに変わりはないので、問題ないと社長に助言した」と言うが、こうした行為は「道義的に問題がある」(株式に詳しい公認会計士)と見られても仕方がない。
 一方、株式を買い取った角川社長は「僕はCCCの株式を個人的に持ってる。そういう(デジキューブの株式を持つ)関係もあっていいですよ、ということになった」と話す。
 ところが、CCCがデジキューブ株を売却した後、事態は急展開を見せる。9月12日にデジキューブが中間期業績見通しを下方修正。さらに10月31日には、スクウェア・エニックスがFFシリーズ最新作の発売を来期に延長すると表明。デジキューブは同シリーズの売り上を60億と見込んでおり、染野社長は記者会見で、FFの発売延期を破産申請の理由の1つに挙げた。
 だが、これだけではデジキューブに残された選択肢が自己破産しかなかったことにはならない。

■スクウェア・エニックスの和田洋一社長が「対外的にはいつFFが出るか言っていない。そもそもどれだけデジキューブに割り当てるか決めてもいない」と主張するように、デジキューブが破綻の直接の原因をFFの発売時期変更に帰するのは、説得力にかける。
 実際に後日、染野デジキューブ社長に確認したところ「FFの発売延期は過去のもあった。(破産の決断に)それほど関係ない」と、あっさり記者会見での発言を翻してしまった。
 しかも染野社長は、デジキューブ上場主幹事だった証券会社に加え、10月から個人的なツテも頼って国内外の企業再生ファンドに約20社に経営支援を打診していたと明かした。支援を要請した主なファンドは11月になって協力を断ってきたという。


「自己破産は晴天の霹靂」

■デジキューブ破綻のわずか13日前の11月13日になって、増田CCC社長の個人資産管理会社であるマスダアンドパートナーズが角川社長側からデジキューブ株を1株10万2100円で買い戻している。増田社長側は手放した株をなぜ再び、しかも破綻前に買い取ったのか。
 これについて佐々木俊三マスダアンドパートナーズ常務は「10月に株価が16万円を超えるまで上昇後、再び下がったところを角川氏側から売却の意向があり、割安になったと判断した」と言う。だが、デジキューブの関係者でさえ「借入金が多く、粗利が低すぎる」と言う銘柄に、そんな評価が下せるのか。事実、角川社長は「株を引き取るという話しがあったので手放した」と矛盾する。増田社長側が、倒産したら交友関係にある角川社長に迷惑をかけると考えたのか―――。

■増田社長は「デジキューブの自己破産は晴天の霹靂。我々は突然死の被害者で怒り心頭だ。(破綻を)知っていたら、この時期に株式売買などしなかった」と答えた。続けて、「デジキューブは資金の手元流動性もあったし、保有株式もあった。何でこの時期に自己破産なのか。民事再生とか別のやり方もあったはず。あまりに不自然だ」と怒りをぶつける。
 ただ染野デジキューブ社長によると、同社が再生ファンドに支援を打診したことは、役員会で報告された。さらに「11月半ばに民事再生法の適用申請後に支援してもらえないかとCCCに相談した」とも言う。CCCがデジキューブの再建を巡る顛末を知らなかった、というのもにわかには信じがたい。一方の増田社長は、「自己破産を知らされたのは11月20日前後。だから、やましい株取引は一切ない」と話す。

■いずれにせよ、関係者が「なぜ自己破産なのか」と口を揃えるデジキューブの突然死。振りかえれば、2000年4月には鈴木会長が旧スクウェア社長に就任すると発表した翌日、事務所のドアに銃弾2発が打ち込まれた事件もあった。最後まで不可解な要素の多い会社であったことだけは間違いない。



CCC保有のデジキューブ株の動き



カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)

8月29日 2400株(1株:10万1900円)

角川歴彦氏の関連会社

11月13日 2400株(1株:10万2100円)

増田宗明氏(CCC社長)の資産管理会社


11月26日 デジキューブ自己破産


日経ビジネス12月8日号より