朝7時半、ブライアンはいつもの通り起きた。まだ眠そうな感じだが
今日は仕事。彼の仕事は近くの自動車修理工場で60〜70年代
のオールドカー、ベントレーやロールスロイスなどの英国製の車の
修理だ。テストの成績は今一だった彼だが、器用さはピカイチと言
われてきた。リバプール在住時代からよくロンドンの金持ちに高級
車の修理を依頼されるほどだ。それほど彼の腕は信頼されていると
いう事になる。今日も彼は昨日買ったチョココロネを食べている。チョ
ココロネと共に買った、雑誌を読みながらだ。
(こいつはすげえや、幾らするんだ、このタービン…)
彼はオプション2を読んでいた。どうやら新しいタービンを見ていたよう
だ。
(やべえ、もうすぐ出勤の時間だ)
彼はいつもの服に着替えた。DICKIESの作業服だ。お気に入りで、
仕事だと必ず着る。時計は8:00を指していた。車のドアを開け、エン
ジンをかけ、いつものように仕事に出かけていった。
「おはよう、ブライアン」
「ちーす、師匠」
「ここでは工場長と呼んでくれよ」
「あ、すまねえな。で、工場長、今日のノルマは?」
「今日はベントレー・アルナージとロンドンタクシー、キャデラック・エス
カレードだ」
「ちょっと待ってくれ、アメ車はリョウの担当じゃないのか?」
「あいにく今日はリョウの奴、腹痛で休みなんだ。あいつ、昨日は徹夜
だったからな、今日くらい休ませてやろうかと思ってさ」
「何言ってやがる、俺なんか寝不足で今にも倒れそうだぜ。で、そのキ
ャデラックのやつはどんなやつなん?」
「まあSUVってところだ」
「四駆かよ、ダメなんだよな。あの複雑なやつだろ、もっと違うのやるか
らそれは辞めてくれよ」
「そういうかと思ってたよ。じゃあシボレー・タホの2WDはどうだ?」
「じゃあそれでいいよ。リョウの給料の5%、俺のだってあいつに言って
おいてくれよ!」
「それは出来ないが、まあブライアンによく頭を下げるんだぞ、って言って
おいてやろう」
「じゃあそういっておいてくれよ!」
今日のノルマを言われ、早速仕事に取り掛かるブライアン。ちなみに、ここ
の工場長、ゲンタとは師匠と弟子の関係だ。ゲンタは昔首都高の四天王
だった男で、ブライアンに走りを伝授した一人である。その頃、インプレッサ
で華麗に強敵たちを倒していった彼はあっというまに出世、四天王まで登り
つめた。その頃の通り名は「白きドリフトチャンプ」。白いインプレッサに乗っ
ていたのでこの通り名が付けられた。そのインプレッサは今もある。現在は
走っていないが、その腕は全く衰えを知らないほど、相変わらずだ。そして、
リョウはここに働いている従業員。彼はアメ車担当で、その中でもSUVの担
当となっている。彼もブライアンほどではないが、手先が器用で有名だ。昨日
は徹夜をしていたので、今日は腹を壊したようだ。彼は仕事熱心で、無断欠勤
は当然のこと、遅刻だって一度も無い。今日の欠勤だって約1年ぶりだ。
「お、お前の好きなベントレーがきたぞ」
「あれか、いつみても綺麗な車だぜ、そこらの金持ちベンツとは訳が違うぜ」
「お前のベントレー好きには参るよ。でも俺はロールスロイスの方がいいな」
「あれは貴族専用だ、俺は貴族的な金持ちは好きじゃないからな、気取ってる
感じがしてさ、嫌なんだよなアレ」
「そうか、人それぞれの考え方はあるからな。さあ、今日も仕事だ!」
ブライアンは気合を入れた、今日もいつものように修理をする、はずであった。
「車の修理、よろしくお願いします!あ、工場長さん、直ったら電話で伝えて下
さい」
「分かりました」
客はどうやら女性のようだ。しかし、この快活で明るい感じの声、この声に身に覚
えのあるブライアンはこっそり客の顔を見てみた、すると・・・?
「あれ、ブライアン君?」
「あー、もしかして、リサちゃん?」
「そうよ、ウチだよ!」
「リサちゃん、ベントレー持ってたん?」
「そんなわけ無いでしょ、これ友達の車なの。今日友達都合が悪くてここまで車
もって来れないから、私が代わりにってことで持ってきたの」
「代理か、その友達、金持ちなん?」
「近くにでっかい家あるでしょ?そこの娘さんなのよ。お父さんは某ブロードバンド
関連の会社の社長さんなんだって!凄いと思わない?」
「へえ、で、これはその社長さんの車?」
「いいえ、娘さんの」
「なんだって!?凄いな…、イギリスじゃあオンナでベントレー乗りなんていなかっ
たけどな、世の中何があるか予想つかねえなー」
「ここは日本だからね、あ、長話になっちゃった。悪いね、じゃあ今日の夜にまた会
おうね。仕事頑張ってね、ブライアン君!」
「じゃあな」
これはびっくり!いきなりリサが現れたのだから。そして、ゲンタが、
「今のコは彼女か?」
「な訳ねえだろ、走り屋なかまさ」
「あのコも走り屋なのか?」
「そうだよ、全く勘違いしやがってさあ」
「でも感じのいい子じゃないか、いっそうの事付き合えば?」
「なにいってやがる、変態ジジイになっちまうぞ、そんな考えばっかしてると」
「はははー。さあ仕事に取り掛かるぞ!」
「俺も今日一日頑張るか!」
その後、彼らは仕事を開始した。
夕方7時、あっというまに経ってしまったが、もう仕事が終了する時間だ。そして、リ
サが例のベントレーを取りにきた。
「今日はありがとうね」
「いやいやとんでもないよ、仕事だからな。当然のことをしたばかりだぜ。ところで
このベントレーアルナージ乗ってもいいかなあ?」
「別にいいわよ。でも乗って帰んないでよ(笑)」
「ホントかよ!マジで?俺本当好きなんだよ!ベントレー!」
「やだあ(笑)」
「時間あるかなあ?」
「まだ2時間あるよ、どうするの?」
「ああ、ちょっと家によって欲しいんだ」
「いいけど、どうするの?」
「ちょっと忘れ物をね」
「そう、じゃあ行こうよ」
「わりいな」
そして、ブライアンは片付けをして、家にかえる準備をしていた。
「じゃあな、師匠、あ、工場長」
「じゃあな!」
ブライアンは職場を後にした…。そこを出て15分後、自宅に到着した。
「車そこに止めておいて」
「路上駐車になっちゃうよ」
「なあに、ちょっと位平気さ!」
「そうね、ちょっとだもんね」
「車降りてきなよ、鍵かけてさ」
「そうね、お邪魔するわ」
リサは生まれて初めてブライアンの家に上がった。ブライアンの家は昔使われてい
た倉庫を改造して作られた家だ。
「へえ、結構広いのね」
「まあな、でも俺のスペースは狭いけどな」
「でもこういう家っていいわよね。家って感じがしない家ってのも」
「そうだな、車と一緒にお寝んねできるからな(笑)」
「あら(笑)。一緒に寝るの?」
「冗談だよ」
「そうよね、ところでこの写真何?ベントレーと…おじさん?が写ってるやつ」
「ああそれか、話せば長くなるな」
「どんなの?教えて」
「今は急いでるから、車渡した後話すよ」
「じゃあ聞かせてね」
「もうこんな時間だ、急ごうぜ!」
「そうね」
二人は車にそれぞれ乗り込んだ。
目的地に着いた頃にはもう8:00。ここが例の社長令嬢の家だ。
「ここか、でっけえなあ、俺の家の20倍はあるぜ!」
「そうなのよ、この辺じゃあ有名よ」
「で、何処で走らせてくれるんだ?」
「この家の庭に大きなテストコースがあるの、そこよ。難しくてね、いつもそこでいろ
いろと自分の車テストするらしいのよ」
「へえ、どんな?」
「オールドカーとか」
「アメ車とか、それともヨーロピアン?」
「確かヨーロピアンだったわ」
「そうか、今走ってもいいのかなあ?」
「いいんじゃないの」
「じゃあ、言ってくれないかな?」
「いいわ」
「ようし、憧れのベントレーだ!」
「あらら、子供なんだから(笑)」
ついに憧れのベントレーに乗るときがきたブライアン、しかし…。この続きは第五部で!
第四部、ブライアンの日常