いつものように、また朝がやってきた。
ブライアンがいつものように支度をして出勤先の修理工場に向かっている時、
いつも通る道の脇でなにかボロい廃車を見つけた。普段なら何気なくこのまま
通り過ぎるブライアンだが、この日は違っていた。道の脇に車を止め、その車
を見てみることにした。
相当古い車のようだ。さびさびで、車種も特定できない酷い状態、ここまで酷い
状態はブライアンもはじめて見ただろう。形からすると、なんだかS30に似てい
る感じだった。だが、ヘッドライトからして明らかに違うような気もした。
(まさかな、こいつにあれが載ってるわけ無いだろうな)
というと、ブライアンはボンネットを開けた。どうやら、ある噂を確かめる為みたい
だ。と、空けた瞬間ブライアンは驚きで一杯になった。
(うそだろ?やっぱりこいつに鎮圧してたのか…、ぶったまげたぜ)
何が載っていたのだろうか?そう、噂というのはエンジンのことで、実は以前
修理工場近くに最強のエンジンを鎮圧している廃車があるという噂が、そこら
じゅうで流れたのだ。勿論、その噂を信じるものは多かったが、3日したら次第に
風化してしまい、結局やみに葬られていってしまったのだ。だがそれを覆したブラ
イアン、喜びと半分恐ろしさで一杯だった。
「ようし、レッカー借りるか!」
というと、早速ブライアンはレッカー車を修理工場から手配、その6分後、工場長
がやってきた。と、工場長はなんだか困惑していたような顔をしていた。
「一体なんだ?ブライアン」
「見ろよ師匠、おっと間違えた、仕事だと工場長っていわなきゃいけないんだった
よな」
「で何だ?」
「これ見ろよ…」
「このエンジン…、どこかで見覚えが…」
「おい、憶えてないのか?あれだよ、例の噂のやつだよ」
「なんだって!?」
「おいおい、大きい声だすなよ、俺らだけが発見したんだからな」
「でかしたぞ、ブライアン」
「な?早速運ぼうぜ」
ブライアン達は早速その車をレッカーにつないで、工場に持ち込んだ。
一体車種は何なんだろうか?皆首をかしげていた。と、突然工場長が後ろのテー
ルを見た。と、なにやら分かったような顔をした。
「ほう、こいつは恐らくS30だなあ」
「やっぱりそうか、車の状態が悪すぎて分からなかったんだよな」
「だが、こいつは悪魔のZのエンジン以上だぞ、こんなエンジンをそこらにほっぽり
置くなんて、全くどういう神経をしているんだろうか」
「いいじゃないかよう、その分俺らが得したんだしさ」
「そうだよな、じゃあ早速オーバーホールと車の修理だ!」
「ようし!」
とそこに、真面目なリョウが、
「あの〜、今日の仕事は!?」
「今日はそこのカローラとNSXの修理だけだ」
「で?」
と、ブライアンがここで、
「頼むよリョウ、俺は忙しいんだよ」
「ええ、俺だっていじりたいですよお、そのエンジン」
「な?お願いだからさあ」
「しょうがないなあ、先輩ったらさあ」
「さすがはリョウ」
「今日だけですよ」
そして、早速エンジンのOHと車の修理に取り掛かった。まずはエンジンからだ。
最強のエンジンといわれているこのエンジンは、メーカー不明の謎のエンジン。
実際ケア等しないと動かないような酷い状態だったが、見るだけかなり迫力の
あるエンジンだった。ブライアンはエンジンを取り出して、分解し、シリンダーや
ピストンの洗浄をしていた。一方のゲンタは得意とするキャブレターの洗浄にあた
っていた。それをみながら一人悲しくカローラを修理するリョウ、興味津々だった
が、真面目なせいか見ては修理、見ては修理を繰り返していた。
そして、最大の難関車体の修理だ。サスペンションやブレーキのは錆だらけ、室内
はカビ臭かった。ゲンタは錆落とし、ブライアンは室内の掃除を担当した。
(うえ〜ぇ、最悪な匂いじゃねえかよお)
カビの胞子が体の中に入らないようにマスクをしていたブライアンだったが、匂い
はもろに鼻に入るのでたまらなく辛そうな感じだった。だが、不思議とスピードメー
ターは何故か綺麗な状態が保たれていた。それもそうだろう、ガラスで守られてい
るのだから。だが、さらに驚いた事があった。シフトレバーが新品同様の状態だった
のだ。これにはブライアンも驚いていたが、それ以上に臭さが気になっていたので
その事をすぐ忘れてしまった。
作業開始から約6時間後、ようやく綺麗な車になった。あとはこれにパーツを組み込
むだけで、最強のマシンが完成する。一人黙々と真面目にやったリョウは、かなり
疲れていたようだった。ブライアンが満足そうにゲンタに言った。
「こいつはすげえや、改造したらどんな車になるか楽しみだぜ」
「そうそう、お前が見つけたんだから、お前の所有物ということになる」
「は?」
「だから、この車はお前のものだってことだ」
「ホントかよ!?工場長!?」
「そうだ」
「けそさあ」
「気にするな、さっさと持ち帰って自分のガレージにおいておけ」
「まあ2台分スペースあるからいいけどさあ」
「じゃあリョウ、レッカーでブライアンの家までこの車を運んでいってやってくれ」
と、リョウは嫌がる顔を全くせずに
「分かりました」
と一言返した。
S30の所有権はブライアンになった。ということは、すなわちブライアンのものというこ
とになるのだ。そう、この車が後のブライアンを変えていく大きな掛け橋となる…。
夜、ここ首都高はいつものように走り屋のパラダイスとなっていた。
そこに、一台のGT−Rがつっ走っていた。R34で、その上かなり速くめだっていた。
彼の名は「神速」、無論モグラッチさんのHPの小説に出ているあの神速だ。そんな
彼に、突然後ろから一台のマシンが襲い掛かる…。
(ん?S30だと?ようし、追いついてこい!)
神速はさらに本気になり、あっという間にそのS30をミラーから消し去った…。
だが、次の瞬間だった。いつものまにかなんとバックミラーにそのS30の姿が映った
のだ。しかも、コーナーで不思議な動きをしているのに、とてつもなく速かった。
(何だあの動き!?けど、気持ち悪いほど速い…)
そして、その車は環状線と新環状の分岐点で神速のRと別れてしまった…。
(何だあれ?「悪魔のZ」にしては色があまりに違う…、だったら一体どうなってるん
だ?)
神速はその事を仲間に伝えたが、皆そのS30について全く知らなかったようだった。
コーナーで不思議な動きをするS30、その正体は奴だった…。
ここ辰巳PAはいつも多くの走り屋で賑わっている。ジョニーが何か作戦を練っている
ようであった。そう、間近に迫った「ハチロク最速決定戦」の作戦を練っているのだ。
参加選手はジョニーのみだが、それでも仲間と念入りに相談をしているようだ。よほど
心配なのだろう。
「このハチロクの決定戦で勝てば、二度と手に入らない最高の栄誉がもらえるんだ」
「絶対ジョニーさんの勝利に決まってますよ」
「そんなことはない、タクヤ」
「けど、ここらで最強のハチロク使いといえば、ジョニーさんくらいですよ」
「それが、うじゃうじゃいるんだよ」
「けど、まさか2JZ以上のエンジン積んだやつなんかいませんよ」
「いや、相手はもっと凄いエンジンをハチゴーに載せるんだ」
「ハチゴーだって!?(笑)、ばかばかしい!(大爆笑)」
「笑っちまう事実だろ?だけどさ、その中身はぶったまげたもんじゃないんだ」
「何ですか?」
「ヘミエンジンだ」
「………まさかねえ」
「冗談じゃない、しかも、最強版だ」
「嘘でしょ?幾らなんだってヘミをハチゴーに載せようと思ったら、相当の費用と技術
が必要になりますよ、それに、大体ハチゴーにそんなエンジン載せるような馬鹿いま
せんよ」
「そう思うだろう、だが、それをいとも簡単にのっけることのできる特殊な車だったら…」
「だとすると…」
「そうだ、ハチゴーじゃないハチゴー…例の車がやってくるってことだ」
「これは大変なことになってきたような…」
「ようし、奴等に負けないように気合入れていくぞ」
「はい!」
ジョニー達はその後、新環状に消えていった…。
最強ヘミスワップのハチゴー、2JZ搭載ハチロクを持っているジョニーでさえ恐れている
この車の戦闘力は、とにかく凄いものがある。元々はゼロヨン用に改造されてきたその
ハチゴーは、足回りといいまさにふにゃふにゃ。だが、バルーンタイヤととてつもないニト
ロを武器に、直線は勿論コーナーでさえも無敵な走りを誇る。だが、この無敵な走りも
ドライバーの腕が全くヘタだとかえって遅いのだが…。
そんなヘミハチゴーが此処首都高を走っていたとするならば・・・、誰もが注目すること
間違え無しだろう。そう、走っていたとするならばの話なのだが…。
深夜3時、ここで一台のテストが横羽線で行われようとしていた。その車こそが、ヘミを
搭載したハチゴーそのものだ。首都高全体を舞台に行われるハチロク最速決定戦、
あらゆるオールマイティなハチロクを作らなければならないのだ。直線区間の湾岸、
低速コーナーが目立つ八重洲線、中高速コーナーが多い横羽線…、全てにおいて最速
であるハチロクこそが、その座をオーナーに恩返しするのだ。そのための最終テストを
今現在行われている最中なのが、そのヘミハチゴーなのだ。
早速、PAから出てテストが開始された。と、そのとき一台の走り屋のと思われる車がパッ
シングしてきたのだ。「駆け引きの練習にも」と、そのバトルを引き受けることになった。
だが、その相手は奴だった…。ついに現れた伝説の…。