リサはその夜、首都高に出る準備をしていた。このモンスターFCで。実際、リサも

怖くてたまらなかった。この車がどれ位恐ろしいのか、リサは想像するだけでます

ます怖くなった。エンジンをかけた瞬間、FDとは違う、独特な感覚がした。同じロー

タリーなのに、これほどまで違う理由などあるのか?とりあえずリサはアクセルを

踏み、車を走らせて行った。

午後9:00、いつもの辰巳PAに着いた。そこには、あの「Boxing」の面々がいた。

と、そのチームのロッドがリサのFCに近づいてきた。

「ほう、あんたのFCか」

「そうですけど、何か?」

「最近はR乗りが俺らの影響で立場が下がっているが、ロータリーはまだだったな」

「はあ?」

「どうだ?この俺とバトルしないか?」

「まだこの車乗ったばかりなので」

「乗ったばかりだと?化石のような車に乗ったばかりだと?!」

「化石ですって?(怒)、この車は私のお父さんが積み上げてきた車なんですよ、

あなたのその変なセダンなんかにまけるわけがないしょ」

「変なセダンだと!?てめえ、それ以上言ってみろ!」

「あら、ムキになってるってことは自分でも自覚しているってことなんでしょ?」

「この野朗、ようし、バトルだ!」

というと、ロッドはすぐ自分のレガシイに乗り、リサに外に出るように指示した。リサ

はまだまともに乗ることの出来ない親の大切な車をアホなバトルで壊したくないと、

かなりバトルを嫌がっているようだ。だが、先ほどの言いがかりがきっかけで、結局

車を出す事にした。

そして、ロッドとリサのバトルがスタートした。

いつものカウントが始まった。

「3,2,1,GO!」

対決が始まった!最初に飛び出したのはロッドだった。その後ろにピッタリとリサが

ついた形となる。

ロッドは、4WDドリフトを得意とするラリー出身の走り屋だ。元々ロッドは日本に長く

いて、地方の峠でその走りを見せつけてきた。そのため、彼のテクは見た目な割に

結構なもので、並大抵の走り屋では倒せないほどの強さだ。

「型遅れのFCに負けるわけが無いんだよ」

ロッドがつぶやいた。今回は自身満々の彼、あとでPAに戻ったら散々いじめてやろ

うと考えていたくらいだ。

(凄い加速…、ウチのFDなんか比べ物にならないよ…)

リサはその加速の凄さに驚いていた。独特のドッカンターボに慣れていないからだ。

そう、このFCのタービンはメーカー不明のビッグタービンで、相当の排気量を誇る、

まさにモンスターなやつなのだ。現在1,0sのブーストをかけて、560PSなのだか

ら、さらにブーストをかけたりすると、とんでもない馬力になってしまうのだ。

そんなモンスターなタービンが鎮圧しているエンジン相手に、リサは苦戦しているよう

に見えたが…、

(まって、これって凄く乗りやすいかも!コーナースピードはFD以上に速いし…)

そう、リサは大きな事に気づいた。エンジンが軽い分、コーナースピードが上がる、

これならロッドに追いつくのも簡単かもしれない、彼女はそう確信した。

その頃ロッドは、お得意の4駆ドリフトを醸し出した。まるでWRCをみているかのような、

そんな迫力を出していた。一方のリサはグリップ走行でなんとかコーナーをクリアした。

だが、次第にいつもの攻撃的な走りに戻ってきた。段々乗りこなせてきたのだ。その為、

ペースは次第に上がり、ロッドのレガシイに近づいてきたのだ。さらにプレッシャーを掛け

るような走りで、彼を追い詰めていく。ロッドは後ろが気になって仕方なかった。早くNOS

を噴射したい、そんな気分だった。と、我慢できなくなったロッドがここで噴射!

「これで追いつけないだろう」

だが、タイミングが速すぎたのだ…。相手の駆け引きに使うNOSは、タイミングによっては

ただのパフォーマンスに終わる。今のタイミングはただの自慢、つまり自己主張に終わった

ということになるのだ。そのため、リサはここであえてNOSを噴射しないようにしたのだ。

「タイミングが速いわよ」

さらに、リサの攻撃は続いた。彼女の持ち前である、思い切った突っ込みでロッドをさらに

追い詰める、だが彼女はそういうことを意識してやっているのではない。ただ、どれだけ攻め

こめるか、ということを試してみたようなものなのだ。

そして、またロッドがNOSを噴射した。これで彼がNOSを全て使い切ったということになる。

通常、NOSの噴射は2回までが限界だ。これは、エンジンにも負担になるということが要因

だからだ。しかし、エンジンによっては4回でも7回でもOKなものもある。だが、それはよっぽ

どくみ上げてきた車じゃないと出来ない事で、普通の車なら爆発するのが常識だ。ロッドのは

NOSよりタービン重視なので、NOSは2回が限界となっているが、リサのFCは別だった…。

そう、あと4回も噴射できるのだ。実は、それ用にきちんと組み込まれているためか、4回でも

少ない方で、最高で8回の噴射に耐え切るエンジンに仕上がっているのだ。だが、NOSは

使える回数が多いほどいいというわけではない、それでパワーが本当に出るかが問題にな

るからだ。無論、リサのはNOS不使用時で560馬力、これにNOSを噴射すれば…、680馬

力は出てしまうのだ。そのため、リサは使いどころを見間違えないようにしていたわけである。

長い直線区間だった。ロッドはある失敗を犯したことをここで気づいたようだった。一方のリサ

は有り余るほど使える。だが、連続で噴射すれば、エンジンも壊れる。そういうことも考慮して、

2分の1を過ぎたところでNOSを噴射!一気に加速が上がり、ロッドのレガシイを追い越してい

った。

「冗談じゃなねえぞ!」

ロッドは自分の過ちを悔やんでいた。そして、段々とSPが無くなり、とうとう負けが決まった。

そんな彼は、完全に自信を失っていて、ボロボロの状態だった。相手がFCということよりも、

自分がバカで負けたということが悔しかったのだ…。だが、そんなロッドが落ち込んでいるとき、

後ろからバカッ速い車が一台近づいてきた。その車は、どうやら外車のようだった。だが、とて

つもなく大きい、それに独特の排気音…、その車はバイパーだった。そして、そのバイパーは

ロッドのレガシイを止まっている車のような感じで追い越していった。そして、とんでもないドリフ

トを醸し出した!

(なんだよあれ?冗談じゃねえぞ!アメ車があんなドリフトできるかよ!)

前にはリサがいたが、そのリサを抜き去ることはなかった。リサがその後も走りを続けていたか

らだ。そう、リサの目的はあくまでマシンの慣れ、そこに嫌なロッドが現れて、それでバトルという

形になったというわけだ。

その後、ロッドは今日あった事は誰にも言わないようにチームのメンバーに指示した。だが、そん

なことをしても、リサが言ってしまう事だから結局バレることなんだが…。

一方、ツインリングでは、リサの事が話題になっていた。ブライアンとミカが何かを喋っているよう

だ。

「でも意外だよな、あんだけ明るい性格だから、親に恵まれているんだな、って思ってたけど」

「でもブライアン、あの明るい性格はリサの性格の表で、車乗ったとき、いやハンドル握った時は

鬼になったように変わるのよ、それにあれだけドラテクが身に付けたのも、リサのキレ具合が異

常だったってことも要因の一つだし、昔からカートやってたってのもそうね」

「カート?」

「そうなのよ、彼女カートもやってて、もっと小さい頃はポケバイ乗ってたし」

「ポケバイ?」

「そうよ、ポケバイでも凄かったのよね、あたしも一度だけポケバイに乗ったことあるんだけど、意

外と難しいのよね、普通の自転車なんかと比べ物にならないわよ」

「俺も一回乗ったことがあるが、そうでもなかったぞ」

「でもリサはバイク乗ってたら、凄いライダーになってたわよ」

「俺も昔ライダーだったけど、やっぱりバイクは難しいんだよな」

「そりゃ分かるわ、だけどリサは小さい頃から英才教育うけてたし、第一家がお金持ちだったから、

恵まれていたのよね、それで色々とカートとかポケバイとかも乗ることが出来たってわけなのよ」

「俺はたまたまオヤジが車好きだったから、それの影響で色々と乗ったりしたんだよな」

「でもブライアンと比べたら、きっと負けると思うけど」

「いや、最初にリサちゃんに会ったとき、何かビリッと来るものが来たんだよな」

「それって、オーラってこと?」

「それに近いが、ちょっと違う」

「そうなの、っていうか、あたし自分の部屋に戻るわ」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」

二人はリサのことについて話していたようだった。そして、夜中の1:00、全員就寝した。


その頃、リサはFCにすっかり慣れたようで、もうすっかり使いこなせていた。そして、リサも2;00

に、首都高を出て家に帰っていった…。

真夜中3:00、大黒PAにBoxingのメンバーが集まった。明日行われる交流戦について会議し

ているようだ。

「ロッド、お前はジョニーの相手をしろ」

「ジャック、ハチロクは勘弁してくれよ、相手にならないぜ」

「いや、あのハチロクはモンスターってことで有名なんだ、だからお前が相手しろ」

「でもジャック〜」

「命令だ、強制的に決定する」

「分かったよ、じゃあそのジョニーっていうハチロク乗りと戦うんだな」

「俺はブライアンを撃墜する」

「まだシビックの方が良かったな」

「それと、ロッド、場所は新環状だ」

「新環状か、ちょろいもんだぜ」

「俺は環状線でやる」

「あそこか、あのCTRでか?」

「そうだ、もう足は仕上げてある」

「全く、仕事が早いぜ、ジャックは」

「お前も明日中に仕上げておけよ」

「了解、リーダー」

「ようし、今日は引き上げるぞ」

というと、全員車に乗り、大黒PAを後にした。と、そこにいたバイパーに乗った女が何かを喋って

いた。

「ここら辺はレベルが低いったらありゃしない、これじゃあエキサイティングできないで終っちゃうよ」

彼女は金髪で、ブロンドっぽい雰囲気を出していたが、一応日本人のようだ。

「あら電話だわ」

というと、彼女はケータイを取り出した。

「もしもし、あらドミニク、今大黒だけど、それがさあ、聞いてよ、スバルの車が集まったチームが

そこで集会やったのよ、でさ、明日交流戦があるらしいのよね、いく?、そうよね、当たり前よね、

いくに決まってるよね、じゃあおやすみ」

というと、ケータイをしまい、また車に戻ろうとしていたその時であった、調子の良さそうな走り屋が

彼女に近づいた。

「ヘイ、今から遊ばない?」

「今忙しいのよ、それどころじゃないわ」

「ほう、この車イカしてるじゃん、なんて言うんだ?」

「バイパーって車よ」

「バイパーか、俺はあのスープラだ」

「へえ、で?何がいいたいわけなのよ?」

「一緒にバトルしようぜ」

「あら、女だからってバカにしてるでしょ?」

「そんなことは無いぜベイビー」

「だったら、さっさと車に乗りなさいよ」

「ようし、負けたら俺の家に来いよ」

「あんたが負けたら、そのスープラに「私は負け犬です」ってペンキで書くのよ」

「OK!」

というと、二人とも車に乗り込み、PAを出た。そして、横羽でのバトルが始まろうとしていた。

その2分後、いつものカウントが始まった。

「3,2,1,GO!」

対決がスタートした!と、一気に女たらしの走り屋が前に出た。NOSを噴射したのだ。だが、結果

はあっけなくつくことになった。ちょっと長い直線区間、ここで女がNOSを噴射!しかも、恐ろしく

スピードが出ていた。

「バイバイ〜!」

というと、バイパーはあっという間にスープラを引き離し、やがてスープラのSPが0になった。わずか

30秒という短い間で結果が出てしまったのだ。と、サービスといわんばかりに、派手なドリフトをかま

した女は、その後どこかに消えてしまった。スープラの女たらしは、もう完全に落ち込んでいた…。

「冗談じゃないぜベイビー、俺が女に負けるってことなんかないはずなんだぜ」

すっかり自信をなくし意気消沈していたのか、車を止め、男は一人落ち込んでいた。