ついに運命のバトルが開始された。タクシーVSブライアン&ジョニーの

スペシャルな対決。

マイクのグロリアは特別だ。ラグジュアリーな内装に、バリバリの走り屋

仕様、まさにラグとスポーツの融合といっていい。最大馬力は870PS、

最大トルクは110.6s/mにもなる、途方もないマシンだ。リアのトラク

ション不足は避けられない。とてもタクシーとは思えないその凄さ。とても

普通とはいえないだろう。ちなみに、マイクはゼロヨンメインで、首都高に

来るのは滅多とないことだ。タイムは9,0秒を記録、ここらでもモンスター

ぶりが浮き彫りにされているだろう。

「ジョニーのやつ、大分遅れたみたいだな」

ブライアンが心配そうに独り言をつぶやいていた。ジョニーの特別なハチ

ロクでさえ、あのタクシーに苦戦している。どういうことなのか?ただのタク

シーなのに、どうして…。ブライアンはその矛盾の大きさに悩まされていた。

(やつのはどういうセッティングなんだ?タクシーなのに、そういえば、昔こ

んな映画があったな…、黒い高級車のタクシーが次々とライスロケットを抜

いていって、最後は…、まあ最後は忘れたが、間違えない、あの映画の中

の走りと瓜二つだ。だとすると…)

何かに感づいたブライアン。だが、その間にも後ろを走るジョニーが追い上げ

てきた。ブライアンはブロックしようとしたが、無論これはブライアンとジョニー

のバトルじゃない、マイクとのバトルなのだ、その事を自覚したブライアンは

ジョニーに前を譲った。

一方、前を走るマイクはさらにブライアンを引き離していった。これほどコーナ

ーが多く、しかも一般車が多い中でクイックに車を操作しているのはさすが

といったところだ。と、またブライアンは何かを思い出したようだ。

(そうだ、そういえばエンドクレジットのところに「マイク」とか言う名前書いて

あったな。まさか、同一人物じゃないだろうな?だったら冗談じゃないぜ、映

画の中だってあれほどの走りをしていたのに、首都高で暴れちゃますますこ

っちの立場がなくなる…)

どうやら、昔放映されていた映画のスタッフロールのところに「マイク」という

名前があったことを思い出したようだ。しかも、カースタント担当だというのだ

から、相当のテクを持っているに違いない…。ブライアンは悟った。

「テンロクにしては実力派だな。典型的なストリート仕様とは一線を化してい

る。恐らく、あのシビックはターボだろう、それにエンジン音からタイプR、向こ

うのハチロクは2JZスワップ、まさかあのハチロクがこれほどの実力だとは、

意外な結果だ」

独り言を言っているマイク、意外に予想外だったようで、少し動揺しているよ

うだった。だが、その動揺は全く影響していなかった。むしろ、それが引き金

となりペースが上がっていったのだ。さらにアクセルを踏み込むマイク、スピ

ードメーターを全く見ていなかった。マイクの目に映るのは首都高のみ、全く

バックミラーなど気にしていなかった、というかむしろ気にする暇がないのだ。

やはりトリッキーな車だからだろう。視線が前にしかいかない、一見余裕があ

るようにも見える、だがスピードメーターも見ていないのなら話は別。ゼロヨン

レースじゃああるまいし、ここは直線限定じゃない、コーナーがある。その事が

普段ゼロヨンをやっているマイクにとって大きな問題となっていた。つまり、一

定の視界しか認識できなくなっている状態になっているのだ。意外なモロさが

でたマイクだが、まだ安心していても良かった。後ろからは何も見えないから

だ。だが、それも時間の問題であった…。

ブライアンとジョニーがいよいよ攻めにスイッチを切り替えた。ブライアンはペー

スを上げ、ジョニーもそれに合わせペースをあげた。そして長い直線区間、ここ

でブライアンは禁断のNOSを噴射した。一気にスピードが上がった!一気に

240kmから280kmまであがった。だがこれであと1回しか使えなくなった。

一方のジョニーはそれにびっくりしていた。まさかここでNOSを使うとは思って

いなかったからだ。そんなジョニーもブライアンについていくようにNOSを噴射

した。こちらも230kmから290kmにスピードアップ!

とその時、一台の白いシビックが現れた。EG型のこのシビック、一見普通の

どこにでもあるスポコンシビックに見えたが…?

マイクの前に突如現れたこのシビック、もちろんマイクは何も気にしていない。

これが当たり前なのだが、そのシビックがNOSを噴射した瞬間、マイクの目つ

きが変わった。

(ロケットか!?なんなんだ?あのシビック…。エンジンからすると恐らくあの独

特のカン高いエンジンは…、シェルビーなのか?でもシェルビーのエンジンが

カン高いはずがない。むしろ低いはずだ…。なら…)

マイクの動揺は凄まじかった。走りにも影響し、それにより一気にブライアンと

ジョニーに追いつかれた。そして、いよいよバトルが本格化してこようとした、そ

の時だった。ブライアンに異変が起きた。突然、聞こえる事がない声が聞こえて

来たのだ。

「P14EGCSI…、あのシビックを止めろ…、止めてくれ……、あの天使のシビッ

クとその中身の毒蛇を…」

(ん?何だ?)

ブライアンが動揺していたその時だった。突然マイクのセドリックがブローした。

一体何故?ブライアンはますます動揺した。マイクのエンジンブローはどうでもい

い、むしろさっきの声は一体なんなんだ?

マイクのため、ブライアンはレッカーを呼んだ。ブライアンが働く工場長(師匠)の

働き手、リョウがやってきた。早速ブライアンとリョウは車のボンネットを開いた。

少々熱かったみたいだ。

「ピストンリンクが焼けちまってる。よっぽど凄い走りしていたんだろう」

「いや、今日は控えめに走ったつもりだ」

「あれでか?冗談はよしてくれ、下手なアメリカンジョークはやめてくれ」

「まあ全開ってほどでもないが多少は本気出したな。だがおかしすぎる。今日修

理屋に車検してもらったばかりなのに」

「ヤブ医者ならぬ、ヤブ修理士だな。そいつは」

「直るか?」

「ピストンリンクの交換と、コンピューターの取替えだ」

「これもか?」

「ああ、こいつのせいでピストンリンクがいかれちまったんだ」

「やっぱりアメリカ製は良くないな」

「どこのだ?」

「バルク製品だ」

「なら壊れやすいってことを覚えておいたほうがいいな」

「そうだな」

「オススメはモーテックだ。ここらのレーサーはモーテックを使っている。グレッティ

もだ」

「じゃあグレッティにするよ」

「そうしろ、じゃあリョウ、あとは頼んだぜ」

「分かりました」

マイクのセドリックは牽引されていった。結局マイクとのバトルも後回しとなってし

まった。これで借りのあるバトルは二つとなってしまった。

「なあジョニー、あんたには変な声聞こえなかったか?」

「なわけないだろう、幽霊でも見たのか?」

「俺は聞こえたんだ。天使のシビックを止めろって…」

「天使のシビック?何だそりゃ?」

「知らないのか?俺も知らない」

「当たり前だ。亡霊じゃないのか?」

「そうだろうな、多分」

「さすがに睡眠をとらないとキツイな」

「そうだな、もう4:00だからな、疲れた」

「じゃあな」

「ああ、おやすみ」

ブライアンはもうクタクタだった。急いで家に向かい、帰ったのが4:30。急いでベ

ッドに横たわり、寝てしまった。そして、夢を見ていた…。

ブライアンはどこか不思議なところにいた。ここはどこ?全く検討もつかなかった。

そこに話し声が聞こえてきた。

「コブラに乗る」

「無理です、ただでさえ病気で危ないのに、絶対許可しません」

「なら、こっちが強行するしかないな」

「ブライアンさん、やめてください」

「医者の言う事など、信用にならないんだよ!いいから、そこをどいてくれ!」

「あなたはまだ手術すれば生きられるのですよ、それを捨てると言うのですか?」

「もう手術しても死ぬってことは分かってる。だからこそ、最後の時間をコブラと共

にすごしたいんだ。そして、俺が死んだ時、そのコブラの中に遺灰を入れろともう

弟には頼んである、その残ったエンジンをシビックのドナーにしろとも、もうとっくに

伝えているんだ」

「遺灰ですと?なにをおっしゃるのですか?」

「とぼけるな!あと9時間の命ってことは分かってる事なんだ!じらすな!」

「・・・・・・・・・・・・・分かりました」

と、その男は外に出て行った。とその時、ブライアンは目を覚ましてしまった。

「……俺何見てたんだ?さっぱりだ…。なんなんだ?ブライアン?まさか俺のこと

じゃないだろうな?夢が俺の将来を予知しているのか?冗談じゃないぞ!俺はま

だ死なないぞ!畜生!どういうわけなんだよ」

ブライアンは苛立ちと不安に見舞われた。そんな彼に電話が掛かってきた。すぐに

受話器をとるブライアン、どうやら工場長のようだ。もしかして、遅刻したのか?そう

思ったブライアンだったが、違ったようだった…。

「ブライアンか、朝早くすまない」

「工場長、まさかこれから今すぐ仕事しろ!じゃないだろうなあ」

「いや、もっと深刻だ」

「深刻?」

「ああ、とにかく来てくれ、大至急頼む!」

「分かった」

ブライアンはすぐさま着替えを済まし、歯磨き、顔を洗ってすぐ車に乗り込んだ。あの

工場長が大至急頼むっていうんだから、きっと何か大きなことだろうと、それか、ワガママ

な客が来たんだろう、そう思いながら車を走らせていた。そして、修理工場に到着した。

そこで、ブライアンはとんでもないものを見ることになる…。