「あいすくりん」          逢坂みえこ



主人公の正種(まさね)は都会から田舎のこの町に越してきたばかりの少年です。

この町ではあいすくりん売りのおじさんが自転車であいすくりんを売りにきます。
「あいすくりん あいすくりん あもうて ひやこい 一本10円 一本10円」

子どもたちは手に手に10円玉を持っておじさんにかけより「うち いちごのん!」「おれ水色!」というふうにわれさきに買い求めます。

正種もあいすくりん売りが気になってしょうがないのですが、和服をきちんときこなすお母さんはそれを禁じます。
「ああいうきつい色のものは毒だし、どんなバイキンがついているやら」

そしてお母さんの作るおやつは手作りで 大学いもやパンのかりんとう・・・。
それを「晩御飯の煮物と同じ色」と感じる正種は、ひそかに赤や青にきらきら光るあいすくりんにあこがれてしまうのです。

正種にも友達ができます。近所の子どもたちは都会育ちの正種の事もごく普通に「あ〜そ〜ぼ」とさそいにきます。
中でも太郎ちゃんは親切です。魚の取り方もおしえてくれます。

そしてある日、みんなが遊んでいるところにあいすくりん売りのおじさんがきます。
一人あいすくりんを買えない正種にあいすくりんを持った太郎が声をかけます。
「なんや、正種。10円ないんか。半分やろか?」

正種は思わずうなづきます。
そして、それはうっとりするほどおいしい食べ物でした。

そこにちょうど買い物帰りの母が通りかかります。
正種は思わず母にかけより、あいすくりんの棒を見せながら喜びいさんで話かけます。
「お母さん!太郎ちゃんにあいすくりん もらったんだ!すごーくおいしいの!」

お母さんは顔をくもらせ、はっときづいた正種はきまずい思いをします。

そしてその夜、間の悪いことに正種は熱を出してしまいます。
「あいすくりんのせいじゃないよ。川で長くあそんだから。おふとんけっどばしたから。」
と言う正種にお母さんは言うのです。
「もう ヘンなもの食べちゃだめ。おやつはお母さんが作ってあげるから」

正種は何も言い返せません。
でも・・・お母さんはようやく眠りについた正種の枕もとにあいすくりんの棒が大切に置かれていることに気づき、また「あいすくりん・・・」という正種の寝言をきいて何かを決心します。

次の朝 正種は テーブルに牛乳、砂糖、卵があるのに気づきます。
台所で母が割烹着姿で微笑みます。
「今日の おやつはあいすくりんよ」

正種はとびあがって喜びます。
「太郎ちゃんの分もある?僕もっていってあげるんだ!」
もちろんよ、とお母さんは笑って、卵を割り、泡たてきをつかってあいすくりんを作ります。
汗をかきながら作ってくれるお母さんを 正種はうちわであおいであげたりしながらわくわくしてあいすくりんのできあがりを待つのです。

ところが・・・できあがったあいすくりんは正種と思ったものとまったく違うものでした。
おわんにもられた「それ」をスプーンで食べた正種はがっかりします。
なんだかしゃりしゃりするし、生臭いし、甘さも足りない・・・。
お母さんが太郎の分を弁当箱にいれて正種に持たせてくれるのですが、「こんなものを太郎ちゃんにあげたら太郎ちゃんもまずい、僕を怒るかも」と持って行く気がすすみません。

ぐずぐずしているうちに正種はお弁当箱をうっかり川におとしてしまいました。
お母さんがせっかく作ってくれたあいすくりんが川でとけて流れていくのを見て、正種はほっとします。
そして、太郎ちゃんのうちに行って「持ってくる途中でつまづいて川に落としてしまった」とからの弁当箱を見せるでした。
「ほな、うちらもおいしゅうよばれたことにしておくわ」と太郎ちゃんのお母さんが言ってくれて正種はほっとします。

おつかいのごほうびに太郎ちゃんのお母さんがくれた10円で 正種と太郎はあいすくりんを買って食べます。「本物のあいすくりんだ!」と太郎と楽しい時間をすごして正種が家に帰ってくると・・・ちょうど医者が家からでてくるところでした。
お母さんが病気になったのです!
神様が自分にばちをあてた、正種は自分のしたことを思い出していたたまれない気持ちになります。
そして、そのつみほろぼしにおかあさんに氷嚢を持っていったり(おかあさんの病気はぎっくり腰なのですが)ぞうきんがけをしたりの家の手伝いをするのでした。

太郎ちゃんのお母さんがお見舞いにきます。
「この前の美味しいアイスクリームのお礼に」と添加物のはいっていない、評判のアイスクリンを持ってきてくれたのです。
「お食べなさい。これは、いいのよ」と微笑むお母さん。
「おいしい?」ときかれたとたんに 正種はまた 自分のしたことを思い出して泣き出してしまうのです。

・・・そんな30年前の出来事を懐かしく思い出す正種。
アイスクリームがあこがれの食べ物でなくなった今・・・もう一度食べることができるなら・・・と あの夏の日の台所を思い出すのでした。

           完