|   | 
     
       METライブ・ビューイング 
        08年2月21日「ヘンゼルとグレーテル」目黒パーシモンホール 
        08年2月22日「マクベス」目黒パーシモンホール  
      岡本呻也/手塚宏之 
        2008.2.24
        
         なんか、このサイトの爆笑オペラ座談でしゃべっている井上女史が、METの在日代表にご就任されて、ホールの大画面でやるMETライブ・ビューイングにご招待いただきましたので、喜んで行って参りました。 
        
      
        
          |  
             Sent: Friday, February 22, 2008 2:25 
              AM 
              from: Sinya Okamoto 
              Subject: METライブ・ビューイングご報告 
               
              手塚さま 
               
              最近のタクシーはカードが使えるので、なんとか生還できました。 
              ありがとうございました。 
               
               
              さて、みなさま 
               
              不肖わたくし、初体験しました、METライブ・ビューイング、オヤジ2人で「ヘンゼルとグレーテル」、なんか怪しい関係なんじゃないのか、あの二人。いやいや、それは田中さんが冷たいから・・・どこかの小学校が組織動員しているのではないかなどとよしなし事をしゃべりつつ行ったのですが・・・ 
               
              ハイ、すみませんでした、わたしのようなオペラ初心者には非の打ちどころがないですぅ。 
              ゆかこ姫が勧めたこの作品に乗ったのが、敗因だと思います。 
              つーのは、この作品の場合、みなさまがいちばんご不満に思う点であるところの(関係代名詞)、映像演出に対する不満が極小の作品なんですよ。 
              ていうのは、ヘンゼルとグレーテル と その父と母 魔女とヘンゼルとグレーテル 
              という軸しかないんです。複雑な感情表現があるわけではないので、ふたりを一緒に画面上に写しておくことになんの問題もありません。 
              この作品のカメラは、二人を写しつつ、かれらと絡む精霊やら魔女やらもちゃんと画面に捉えているので、観る側にフラストレーションがありません。それは映像演出がうまいというよりは、舞台演出がうまいんだと思います。 
               
              こうなってくると、あら探しをするのですが、 
              まずハイビジョンの勝利、これは偉大ですね。フィルムではこうは写らないし再現できないですよ。これは観る値打ちがある。アコースティック信者でなければ。そういうヤツは初めから見に来ないと思います。 
              オペラのようでオペラでない。ベベンベン! それは何かとたずねたら、これはビギーナー向けオペラとしては最上のものではないでしょうか。それを狙って、ちゃんと実現していると思います。 
               
              それと、オケがうまく聞こえるのはなぜなんでしょうか? これってホントにMETなの? と思いました。ソロの部分もよかったし。観客のガキが泣いてるから生収録だとわかります。指揮はとても丁寧にやっていると思いました。音楽的にはワーグナーにかなり近いのですが。 
              歌唱については、これってオヤジ以外にアリアあるの?という感じで、「水準以上」としかわかりませんでしたわたしには。 
               
              で、わたしが一番すごいなと思ったのは、舞台です。前の演出は、METで観たのですが、基本的にリアリズムだったです。すごかったのはワイヤーアクションで、それでガキんちょの観客を釣っていたのですが、今回のプロダクションは前回の演出をすべて否定して反対のことをやっているなと思いました。わたしは1幕が終わったらすぐに外に出たのですが、手塚さんによると幕間に演出家がそう意識していたと言っていたそうです。 
              とても独創的で、とくに1幕の最後で料理を持ってくる14人のコックの着ぐるみの出来は、秀逸です。眠りの精霊の特殊メイクもすばらしいの一言です。 
               
              武田さんによると、この舞台はウェルシュ・ナショナル・オペラとシカゴ・リリック・オペラの共同制作版のプロダクションなんだそうですね。ビデオでチェックしましたが、確かにあれとまったく同じ演出です。METの「ヘンゼル」は、改良版なんです。 
              では何が違うか。デザインは同じでも、舞台美術の出来がまったく違います。この部分のMETの水準の高さがよくわかります。 
              だって14人のコックの着ぐるみの顔の出来が全然違うもん。愛敬の有り無しの差がありすぎます。それからウェールズのほうはコックに羽が生えています。これだとヘンゼルとグレーテルが歌っている「14人の天使」が、このコックとして具象化して森のなかで迷っている兄弟に食べ物を持ってきてくれているということがよくわかりますが、METのコックは大胆に羽を取ってしまっているので、これが歌中にある天使かどうかはよくわかりません。 
              わたしは着ぐるみの数を数えて、「アレが天使かよ!」とわかった次第。 
               
              セットの間口がやけに小さいのも、ウェールズのをそのまま踏襲しているからなんでしょうね。そういう基本設計は変えられないものなのでしょうか。 
              METでゲルギエフの「ボリス・ゴドノフ」を観たのですが、これもおそらくセットをマリインスキー劇場から持ってきているので、民家の装置なんて、METのひろいひろい舞台のまんなかに寂しくポツンと置かれている感じでした。 
               
              まあ、われわれとしてはこれ以上チケット代が上がるのはご勘弁なので、それで良しとしましょう。 
               
              筋としてはみなさんご承知の通り、ガキふたりが魔女を火あぶりにして食べてしまうという、ゲルマン人(バーバリアン)の残酷さ、野蛮さをガキどもに刷り込むというものなのですが、実に独創的な世界観を展開する演出と、微に入り細を穿つ振り付けで、飽きることなく見せてくれます。 
              カメラはおそらくレールやクレーンを使って台数をかなり絞っているでしょう。だからこれを生放送でやるには、カメラの人は相当たいへんだし、とてもうまいと思います。照明は「ちゃんと写ること」を最優先しているので、おもしろくないけれどそれなりにやってると思います(他の演目も観てみたい!)。 
               
              舞台裏は幕間に紹介されていますが、興味のある人もいるかもしれませんが、わたしは舞台を観ればだいたい想像できるですよ。その想像を超えるものがあったらうれしいですけど。 
               
              まあ、とにかくあらゆる面で水準が高いと思います。 
              これを日替わりで上演しているというのは、異常な世界です。恐るべしMET、との思いを新たにしました。 
               
              ただまあこれは、「ヘンゼルとグレーテル」のようなお子ちゃま向けの小品だからアラが見えなかっただけで、もっと正統派の、人がいっぱい出てきて、感情表現も豊かな演目ではこの限りではないのではないかと、人ごとながらとても心配です。 
              だからライブ・ビューイングに対する評価も、そういった作品を見てみないと定めることができないなと、いや、そういうのを観ずになにか言うのはおこがましいなと、ぜひ他の作品も見てみたい、いやそれはあくまでもライブ・ビューイングを評価するためであって、そのためには1作品だけでは判断できないな、ぜひ他の作品にも招待していただきたいものだと、これはわたしではなく手塚さんが言っていました。まあわたしもおつき合いするにはやぶさかではございませんが。 
               
              以上、率爾ながらの雑言ではございますが、わたくしの感想を申し述べさせていただきました。 
               
              恐惶謹言 
               
               
              岡本呻也 
             | 
         
       
      
         
          On 08.2.22 12:29, "Hiroyuki Tezuka"さん 
            wrote: 
             
            歩いて帰るはめにならずに良かったですね。 
             
            さて、METライブビューイングですが、大変楽しめました。 
            ご招待いただいた井上女史には多謝!です。 
             
            岡本さんが書かれている通り、実は「ヘンゼルとグレーテル」は最もビューイングに向いている作品だったのではないかと思います。 
            画面の構成等については岡本さんが指摘しているとおりで、 
            また音響的にも申し分ないものでした。実際のメトでも2階席がかぶった 
            1階後方席などでは音がこもりがちになり、あんなに明快には聞き取れません。 
            まあ、映画のイメージで実際よりもかなりボリュームを大きくしていたので 
            迫力がありましたが、自宅のビデオではああはいかないでしょうから、 
            劇場に行って楽しむ意味があろうかと思います。 
             
            で、小生としては3重の意味で今回は大変楽しめました。 
            つまり、(1)メト・ライブビューイング初体験、(2)ヘンゼルとグレーテル新演出、 
            に加え、そもそも(3)ヘンゼルとグレーテルを初めて聞きました。 
             
            ということで、いままで知らなかったことを同時に沢山経験させていただき 
            実に充実した一晩でした。(1)についての感想は岡本さんの書かれているのとほぼ一致します。 
             
            (2)については、14人のコックの着ぐるみについては、ゼッフェレッリ演出の 
            「トゥーランドット」のピン・ポン・パンを初めて見たときと同じくらいインパクトがありました。この演出のイマジネーションの多彩さは、ブロードウェイのノウハウをメトロポリタンに持ち込んだという印象ですが、少なくとも「ヘンゼル」については大成功と思います。「ライオンキング」や 
            「Into the Woods」の演出に共通した独創的な演出です。 
            魔女の化粧も眠りの精もハリウッド映画なみの凝ったもので、感心させられました(着付けを始めてから完成まで1時間半もかかるとインタビューで言っていました)。 
             
            あと、お菓子の山を食べるシーンで、本物のケーキやゼリー、ドーナッツなどを 
            歌いながら食べるのですが、歌手にとってはちょっと酷かなと思うくらいいろいろ食べさせられていました。食べながらドタバタやるので、ほとんど最後のころは生クリームとチョコレートまみれ、つぶれた苺やみかんで、べろべろになって真迫の演技を繰りひろげており、ハイビジョン映像で見るとど迫力がありました。(舞台の掃除が大変だろうなぁ・・) 
             
            ちなみに、バックステージのインタビューによると、なんとケーキの一部はニューヨークのトップレストランのひとつ、「ジャン・ジョルシュ」に特注して 
            いるということでした。(メトに近いということはありますが・・) 
             
            あと、ヘンゼルの音楽を聞くのは初めてだったのですが、これがまたすごく面白かったです。フンパーディンクって、ポスト・ワーグナーの 
            オペラ作曲家なわけで、ある意味、ドイツの神話を題材に大オーケストラを使ってロマンティックオペラを展開するという方法論は、すでにワーグナーがやりつくしてしまっているわけです。 
            それでワーグナーの影響をもろに受けながらもなんとか呪縛からのがれようとして、深刻な楽劇の反対として、御伽噺の子供の世界を描いたという感じです。 
            従って音楽も基本的に長調の明るい旋律が基調なのですが、時としてワーグナーが顔をだすのですよね。 
            魔女の気味悪い笑い声の音形はジークフリート第1幕のミーメの笑いとそっくりだし(ひそかに殺しを計画するという設定がまるで同じです)、眠りの精の扱いもまるで「ラインの黄金」のエルダみたい。 
            木の精のティンパニを伴う音形も「ラインの黄金」の「巨人の動機」に酷似して 
            いました。第一幕の最後の壮麗な大管弦楽曲は、「バラの騎士」の終幕の3重唄 
            の伴奏をほうふつとさせるもので、とても子供向けの御伽噺なんかではなく、 
            大楽劇の幕切れといったおおげさなものです。(ここで14人のコックが出てくる 
            ので大変印象的です。) 
            第二幕の幕切れでは、オーブンで丸焼けになった魔女の死体が出てきてヘンゼルとグレーテルがかじりつくところで終わるのですが(全然子供向けでは 
            ない・・)、そこで使われている上昇音形は、まるで「パルシファル」の終幕の 
            昇天するような音形そっくりで、明らかに引用と思われます。 
             
            岡本さんも書いていますが、オケの充実には驚かされました。 
            メトのオケは時として「ガチャガチャ」した印象で、あんまり練習していないな 
            と感じることもあったのですが、今回の上演では大変素晴らしい響きを出してい 
            ました。1月1日の記念公園で、かつメトビューイングで世界中継されるというこ 
            とで気合が入っていたのでしょうか。 
             
            ということで井上さん、岡本さんがおねだりされているとおり(終演後、近所のスペイン料理屋で2人でワイン2本開けて喋りましたが、小生の口から出たという記憶はございません)、次回もし機会があればまたぜひ楽しみたいものです。 
             
            手塚 | 
         
       
       
       METライブビューイング《マクベス》(08年1月27日 
        )/武田雅人  
      
         
          Sent: Saturday, February 22, 2008 
            02:23 AM 
            from: Sinya Okamoto 
            Subject: METライブ・ビューイングご報告 
             
            武田さま 
             
            指揮はそのロシア人です。 
            「ヘンゼル」はグリム童話ですから、基本的にはスプラッターですよ。日本みたいに子供向けだからといってカチカチ山の狸が溺れ死なずに、みんなに謝って和解し仲良く暮らすように改ざんするほうが異常です。 
            こんな異常な平和主義な国なのに、なんで中国にいいまだに60年も前のことで非難されてるんだろう? 
             
             
            さてみなさま、本日手塚さんの代わりに、「マクベス」をチェックしにまたパーシモンホールに行って参りましたので、謹んでご報告申し上げます。 
             
            まず最初に、METの総支配人が、指揮台に上がる前にレバインにインタビューするので、「おっ、これはすごいな」と思って見ていると、総支配人は具体的なことを聞き出そうとしゃかりきに質問するのに、レバインはひとつとしてまともに返事をせず、絶妙なすれ違いで笑わせてくれます。 
            深刻なグランドオペラの前にはちょっとよいのではないでしょうか。狙ってるのかな? 
             
            それから、武田さんが「音が大きい」と指摘されていましたが、あきらかに「ヘンゼル」と較べると音が大きく、楽器の音が胸に刺さりました。 
            松竹の人の話によると、送られてくる元の音源の問題と、ホールごとにちゃんと技術者が調整するので、その2つの理由が考えられるということで、理由は不明ですが音量が大きく感じたのは事実です。音のボリュームに差があると、小さな音を聞けるようにするために全体の音量が大きくなってしまうのかもしれませんね。 
            歌手の声も大きいので、舞台を見慣れている人はこれを不自然に感じる(PAっぽい)かもしれません。 
            私みたいな初心者だと、なれちゃって別に平気です。 
             
            で、ご指摘のカット割りですが、「ヘンゼル」と違って「マクベス」は舞台を間口一杯に使ったセット(入れ替えなし)なので、かつ登場人物も多いとなると、どうしてもカット割りで主要人物が見えないシーンも出ちゃいますね。 
            ただそれでも、なんとか歌っている人物は画面に一度にちゃんと収めようと、涙ぐましい努力をしています。 
            カメラは手前下方からの広角レンズ(レール)、正面望遠レンズ(「ヘンゼル」ではピンぼけすることあり)、左右上方階据え付けカメラ(上手からのカットが多い)、あと1幕に少しだけ舞台奥から写しているカメラがある。最低これだけあると思います。広角と望遠の切替が多いので、やや違和感が感じられます。 
            わたしは、カット割りで演出家が見せたい部分、聞かせどころを説明してくれていると思っているので、映像演出を楽しみながら観ていましたが、みなさんのような、実際に歌唱をやっていたり、限りなく玄人に近い人たちですと、フラストレーションを感じるかもしれませんね。すみません、わたしに合わせていただいて。 
            バンコーの亡霊の出入りを写さないのは、「写さない方が、亡霊の神出鬼没ぶりを表現できる」という判断による映像演出だと思いました。裏目に出ているかもしれませんが。 
             
            それで、グレギーナですけど、わたし彼女のマクベス夫人を97年にスカラ座で観ています。この時グレギーナはカゼを引いていて、キャンセルするかどうか迷っていたらしいのですが、舞台に乗りました。「だからそう思って観てね」と開演前にアナウンスがありましたよ。 
            だもんで最初はかなり調子が悪かったんです。後半になって調子が出てきましたが。 
             
            今回見て思ったのは、もうマクベス夫人の最初の2つのアリアだけでお腹一杯ですよ。ノリに乗ってます。このド迫力にはかないまへんで。いやもう恐れ入りました。 
            アップで見せてくれるということもあって、ほんとすごいですよね。 
            そういうドアップ、PAも、ハンパでないオペラゴーアーのみなさんは違和感を感じられることかもしれませんが、初心者に対するインパクトは相当なもんだと思います。 
            ほんとにライブのやつを映画館で観ていたら、きっと拍手しちゃいますね。 
            マクベスとマクダフは代役だそうですが、とってもいいですよね。優等生的なマクベスだと思います。やはり音量がわからないと評価できませんが。 
             
            それと、わたしのヴェルディのいちばんの楽しみは、専門家の武田先生の前でお恥ずかしいのですが、合唱を伴った理不尽で有無をいわせぬ強引なカタルシス状況を楽しむということです。偏っていてすみません。 
            たとえば第1幕幕切れの、ダンカン国王が死んでみんな口々に嘆き悲しんでいるなかで、バンコーはマクベスを犯人と睨んで敵意を露わにするという図式が重層的に織り込まれているシーンや、第4幕のマクベスの悪政を嘆く人びとの合唱(ナブッコの「きんつば」みたいなやつ)とか、要するに愁嘆場の合唱です。 
            「どんだけむりやり悲惨な状況が出来上がってるんだよー」というのがおもしろいということです。「よしよし、もっと抗い得ない運命の力に翻弄されろー」と。 
            そういうひねくれた楽しみ方をしている人間には、映画的な演出の付加は実に都合がいいんです。存分に堪能することができました。す、すみません。 
             
            演奏は、手塚さんご指摘のように、金管はスカラ座には遙かに及ばない。レバインはやや抑えているような印象を受けましたので、意識的にそうしているのかもしれません。スピードはかなり速かったように思います。これもまた尺の関係だったりするかもしれませんから、裏話がわからないとなんとも言えません。オペラ指揮者は、そのくらいの融通は余裕で利かせると思いますので。 
             
            後、バレエがカットされているのは、明らかに時間的な理由ですね。無理矢理休憩1回に押し込もうとするので、この中途半端な長さのオペラでは、カットせざるを得なかったということでしょう。 
            「トリスタン」や「神々の黄昏」なら、ちゃんと休憩2回取るのでしょうが、今後もこの制約のために泣くことになるオペラが出てくることでしょう。バレエシーンは迫害される運命にあると見ました。 
            スカラ座では幕ごとに3回、25-35分のたっぷりした休憩が入るんですね。幕間にビットリオ・エマヌエーレアーケードに行って買い物ができますもん。その間歌手は休憩できるわけで、METのこの方式は歌手にとってもきついかもしれませんね。 
            パブリックビューイングを念頭に入れてつくるこれからの新プロダクションは、そういう意味で、お金はかけられるのですが、いくつかの制約が出てくると思います。例えば大がかりなセットの入れ替えはなくなっていくのではないでしょうか。たぶん生放送中に事故が起こるリスクは減らす方向に行くのではと邪推します。できればそうならないことを祈ります。 
             
            その関連で演出についてなのですが、残念ながらこのマクベスの演出家・舞台美術家の手腕は、今ひとつだと思います。魔女の合唱の時の振り付けは、とてもユーモラスでしたが、意味のよくわからない小細工があります。例えば何を象徴しているのかわからない、舞台のまんなかに天井からぶら下がってくる電球とか。中身を消化しきれずに、一貫性に欠けているように思います。演出が難しい作品なのかもしれませんが。 
            スカラ座の舞台美術(舞台中央に無粋な巨大立方体)や衣装(全身タイツ)、バレエの振り付けはかっ飛んだもので、その後ローマのSさんの家に遊びに行ったら、オープニングなのでテレビで放送されてますから、「私はあの舞台は嫌いです」とお気に召さないご様子でした。ああいうのはMETはやりませんね。 
             
            それと、やはり強く思うのは、「ヘンゼル」と比較した場合、「ヘンゼル」の演出家の手腕があまりにも卓越していることが明らかなことです。あのイマジネーションのオリジナリティは、レベルの違うものですよ。演技や振り付けも。それと比較しては、厳しいですけど「マクベス」は凡庸の域に止まっていると思います。 
             
            つまんないことですけど、2幕が終わった後、歌手が舞台から引き上げるときに、血まみれの亡霊になっているバンコーがおどけてカメラにピースサインをしていたのがとてもおかしかったです。 
            カタルシスに没入しきってたら、その直後にこれを見せられたら怒っちゃうと思います。 
            実は私が余裕を持ってピースサインを受け止められたのは、第2幕の幕切れは、一歩退いて観ていたからなんです。 
            その理由は、武田さんがご指摘されているように、バンコーの亡霊が写ったり写らなかったりが気になってたからなんです。やっぱり映像演出がオペラそのもののインパクトに与える影響はありますね。 
             
            ま、そんなことで、わたしとしては十分に楽しめるものだったのですが、頭に残っているのは、前日と比較して、「いやー、ヘンゼルはおもしろかったな」ということなんです。だれた部分がなかったもん。「マクベス」の感想になっていなくてすみません。 
             
            まあ、オペラは総合芸術。台本、音楽、演出、振付、美術、歌手や演奏者の力量/出来+映像演出まですべて揃ってみなさまに御満足がお届けできるということで、こりゃたいへんなもんですね。 
            文句を言う楽しみもご提供いただいているということですか。 
             
            井上さん、よいものを見せていただきました。これでもう、心残りはございません。 
            以上、ご報告でございました。 
             
            あらあらかしこ 
             
             
            岡本呻也 | 
         
       
       
         
          
        
        
          
           
      
      
 |