天王洲のアートスフィアで、ミュージカル「ナイン」を観た(14日まで)。これはフェリーニの「8 1/2」をブロードウェイでミュージカルに翻案したものだが、まさかこれが観られる日が来るとは思わなかった。
「8 1/2」は私の中でベストワンの映画だ。この映画を1983年の最初のリバイバルで観たときの興奮は、今でもおぼえている。だいたい「8 1/2」とか「甘い生活」が好きな奴は、腐れ編集者や売れない物書きになるものである。
舞台はヴェネチアにあるという設定のスパ(そんなの実在しないだろう)。映画監督の主人公が新作のアイデアができなくて困っている。その彼を取り巻く女性関係と、彼の幼児体験が描かれる。フェリーニの卓抜した人物造形が映画のえもいわれぬ魅力なのだが、舞台でもほぼそのままパクっているのでわかりやすい(プロデューサーや批評家を女性にするという改変はあるが)。
第1幕は、映画の登場人物やエピソードをかなりうまく表現している(サラギーナの挿話だけはどうしても気に入らない)。舞台装置もよくできている。第2幕は、フェリーニが映画の中では大胆に省略した、ごたごたした感情表現をくどくど説明している。そうしないとミュージカルにならなかったのだろうが、逆にここを描かなかったのが映画のすばらしさだと知らされる。映画の「人生は祭だ」というフィナーレも舞台では中途半端になってるし。音楽にしても、ニーノ・ロータの名曲と比較されるのだからたまらない。
しかし、「8 1/2」は観るたびにインスピレーションを与えてくれる驚異的な映画であり、これを観て「なにか創りたい!」と考えたクリエイターの気持ちは痛いほどわかる。
それと、おそらくこの映画のテーマの魅力を、ズバリと指摘する批評を書くことほど難しいことはないだろう。壮年の男性の女性観や仕事観をざっくりと見事に切り取っているからである。「言葉にできないこと」というより「しにくいこと」を映像とモンタージュで見る者の前にどさっと投げ出すのが「8 1/2」の凄さだと思う。観る側としては「そうだよなあ」「わかるよなあ」としか言えない。そういう究極の表現にミュージカルがどれだけ迫れるか。やや不満は残るものの、意欲的な挑戦だと思う。
やっぱりフェリーニは天才だ。
追記 2013.8.26
Rai Movieでミュージカル「NINE」のイタリア語版を見ているなう。
これ、わたしはミュージカル自体も東京で見ています。ひどい駄作としかいいようがない。
フェリーニの傑作「8 1/2」へのオマージュとして作られたブロードウェイミュージカルを、さらに映画化したものですが、ここまでひどくなるとは思わなかった。
あらすじは、創作に行き詰まったグイド・コンティーニ監督がリゾートに逃げて、そこでの映画人たちの人間模様を描くというものですが(フェリーニの元映画はあまりにもすばらしすぎて、筋を書くのも野暮ですが)・・・
コンティーニ監督の愛人の設定にしても、枢機卿の扱いにしても、サラギーナもぜんぜんダメダメ。ミュージカルのほうが、よほどまだましだった。
映画のよい部分の設定を追いかけて、そのエッセンスだけをなぞるものの、結局新しく展開できず、元映画のすばらしさを観客に再認識させるだけのものになってしまっている。
脚本も、演出も、撮影も、編集も、才能の片鱗も感じさせない。あまりにも恥ずかしいものとしか言い様がありません。
ひでえなあ・・・
映画にない、コンティーニ監督の愛人の旦那を出したのは最低だな。ホントに最低
そのすぐ後のシーンのプロデューサーの愚痴のシーンもまったく要らない!
「シカゴ」のスタッフが撮っているので、感じは「シカゴ」に近づけてるんだけど・・・ひどい
ニコール・キッドマンも、まったく生彩がない。ダメだ
許せるのはソフィア・ローレンだけだな。