『実践IR 自社株マーケティング戦略』 


東京三菱証券IR室 三ツ谷誠 著 NTT出版

 (2000.12.19)

 良書をご紹介します。
 この本を読むと、以下のようなことが良く理解できます。
 この本を、以下のようなことを理解してほしい人に読ませると、他のモノを読ませるよりは確実に正統な理解が進むと思います。
 (イタリックは管見でちゅ)

 

●「株価」とは何か
 株価は、「その企業がどれだけ経営者のオペレーションのもとでキャッシュを生み出すことができるマシーンであるかという情報そのもの」である。「利回り」で価格が決まるのでなく、基本的には他社との比較感で形成される。
 「株価」が表象する「企業価値」を物差しとして全ての運動が展開される。

 逆に言うと、会社は利益を生み続けなければならないということ。利益を出せない経営者は立ち去らなければならないし、儲からない会社からは資本を引き上げてしまって、より優れたシステムを実現している企業に回した方が資本効率がよい。会社は独り立ちしていられるわけはなく、常に市場の監視下にある。

 

●「個人」「自由」はなぜ重要なのか
 「個人主義」そして「自由主義」こそが、資本主義を駆動させるエンジンなのである。
 蓄財が肯定される社会にあっては、分業によって、最も生産性を発揮できる領域で自身の能力を駆使することが、蓄財の可能性を極大化させる。
 個人の「自由」の追求は、そして「個性」の追求は、他者に生存に必要な財を委ねる凭れあいの社会の中で初めて意味を持つ思想なのである。

 逆に言うと、資本主義のルールに従わない奴に自由を与えても意味がない。社会資本整備に個性追求の尺度を当てはめて公共事業予算を増大させるのはナンセンスだ。
 それと、実力のある者を信頼して仕事を任せられるシステムは資本主義発展のためにはなんとしても必要である。アニマル・スピリットこそ前進の糧だ。そうだ、あのバカにやらせてみよう!

 

●現代における「大衆」と「資本」の関係は
 大衆は、苦役としての労働の対価としてそれに見合う賃金を勝ち得て、その「貨幣」の力で消費選択の幅を拡大させ、「消費的人間」となった。「大衆」こそが「労働者」から「消費者」、そして「投資家」へ、資本主義体制の資本蓄積の進展とその分配を通じて変遷していったのである。

 法人の株式所有比率が高い日本だが、会計制度の改善によって持ち合いの無駄があぶり出され、より企業経営が監視しやすくなると、大衆資本主義へ歩み寄る流れは止まらないだろう。ダウやナスダックが暴落しようがまったく関係なく、日本でも「大衆」は直接間接の「投資家」としての役割を強めていくだろう。

 

 株式会社は、「現代資本主義」の中で、「大衆」から遊離してはあり得ない。
先人の多大な苦労によって蓄積された「資本」は、所有と経営がともに「大衆」の手に移った大衆社会においてすでに「公共財」であり、「株式会社」という「資本増殖」のための機構 もまたすでに「公共財」である。

 まず、会社はシャインのものではない(こんな明白な真理にもわが国では重きが置かれていないが)。株主である大衆は、公共財である資本市場と不即不離であることを考えると、会社は株主の所有という要件を満たしつつも、公共財であると言うことができるだろう。

 

●IRの役割とは何か
 IR活動は、「投資家としての大衆」が、「消費者としての大衆」に出会う場、対話する場である。

 投資家も消費者も大衆である。しかしぴったり重なる集合ではないので、とりあえずお互いが理解するための共通言語としての「会計」がある。

 

 企業から見ると、IRとは「適正な企業価値の資本市場における創造」のための「マーケティング活動」である。

 この本には、この視座からIR活動を行うノウハウが開陳されていて、これは非常に勉強になる。三ツ谷氏が地に足をつけたコンサルティングをやっていたことがよくわかる。仕事というのは、このようにありたいものだ。少なくとも私自身はそう心掛けてきたつもりだ(けど……)。

 

 経営者は可能な限り情報を公開し、「価格」を決める最大の要因である「情報の非対称性」の問題を解決しなければならない。

 完全市場を実現する努力をすれば市場は機能するとは、新古典経済学派が期待するところである。私も常々そうあれかしと思う。「市場の失敗」を振りかざして行政依存・保護主義温存を図る輩の厚顔無恥にはほとほと呆れる。

 

 従来の日本企業は「従業員共同体」であるが、IRは「従業員共同体」が高度資本主義社会に適応し、生き残っていくための「感覚器官」としての役割を果たす(はずだ)。

 まあ、あんまり期待してませんけどね。「従業員共同体」のままの企業は滅びてしまえばいい、生きながらえさせる必要など全くないと、あっさり私は思っています。しかしもし全社的IR活動を通じて健全なビジネス文化を蘇生させる企業があれば、「戦列に戻って良し」くらいのことは言ってやってもいいかなと思います。


※若干言葉を接いだり略したりしています。
※三ツ谷氏は私の知人です。
※三ツ谷氏は野村IRでIRコンサルティング業務をやってらっしゃいました。

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