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このHPはいかがなものであろうか
吉崎達彦 ・・・・と思っていたら、その岡本氏がHPを作った。これもめでたい話である。 ところが「日本の会社はいかがなものか」という問題設定は、いかがなものであろうか。 趣旨は良く分かるのである。日本の組織の問題点というのは明らかにあるのであって、それが幾多の才能を枯らし、可能性の芽を摘み取り、結果としてわれと我が身をさいなんでおる。とりわけ官庁と伝統的大企業の組織は深刻な状態にある。こんなのは自明のことである。そんな話はいくらでも耳に入ってくるし、<ピー!>社の雑誌にも出ている。で、それを何とかしたいという気持ちも分かる。 問題はアプローチがまっとうすぎるのである。現場の怒りや不満を吸収して、組織の問題点を取り上げて、「ここをこうしよう」などという提案をして、それが何になるというのだ。組織の側からコンサルティングの依頼を受けているのならいいですよ。(高いカネ払って、著名なコンサルティングファームを起用して、なおかつ効果がない会社だっていくらでもありますが)。提案の押し売りをして、それが何になるというの。 親や先生や彼女から、「アンタのここが駄目なのよ」と指摘されて、行いを悔い改めるということはあまりない。普通は「うるせえ」で終わってしまう。日本政府がアメリカ合衆国政府に向かって、アンチダンピングは迷惑だとか、銃規制やった方がいいんじゃないの、といっても聞いてもらえない。当然だ。自分の欠点というものは、聞きたくもないし、他人から指摘されたくもないし、ほとんどの場合はいちおう自覚しているものなのだ。 同じことで、日本の組織はここが悪い、といったところで、組織が考えを改めるとは思えない。こういうことは、自分で気がつくしかないのである。 たとえば、警察機構がおかしい。神奈川県警がスキャンダル報道でバッシングされている。では、それで警察はこれから良くなるのか? キャリアの出世を遅らせる、みたいな改革案が行われるようだが、それで問題解決になるとは思えない。叩かれて良くなるのであれば、銀行も証券も商社も中央官庁も、とっくの昔に改心しているはずだ。世間の関心がほかに移れば元の木阿弥、というのが過去の経験則が教えるところである。 ところで、フジテレビが作った『踊る大捜査線』というドラマがある。これは面白い。日本映画としては久々のヒットになった。これを見ると、本庁と所轄、キャリアとノンキャリ、警察庁と警視庁の相克など、警察の手の内がぜーんぶ見えてくる。これを見ると、「ははん、警察の問題ってこのへんにあるのね」と分かってしまう。組織の問題点は、真面目な顔して糾弾するよりも、バラしてみんなで大笑いしてしまう方がずっといい。その方がずっと多くの人々のハートに届く。 自分がどんな欠点を持っているか、世界中に知られてしまったとき、いよいよ組織は改革を迫られる。あんまりいい例じゃないけど、大蔵省が悪い、って話は昔からさんざんあった。しかし国民の怒りが沸騰したのは、98年の「ノーパンしゃぶしゃぶ」のおかげであろう。大蔵官僚自身が、「さすがに、こりゃいかんわ」と思わないことには、自己改革なんてできるわけがないのである。 株式市場では「知ったら仕舞い」という。会社が隠している悪い材料がばれたら、株価は下げるがそこがボトムとなる。問題は何も解決していなくても、バレたらあとは解決するしかない。組織の内側の人たちも「こりゃいかんわ」と思って必死になる。だから悪材料出尽くしとなって株価は反転する。要は情報公開である。 ただし、誰も興味を持たないような形で情報公開しても意味がない。出版の力はテレビの10分の1。ノンフィクションの力はフィクションの10分の1。「日本の組織をこう変えよう」という本を書いて、どんなに評判になってもいいとこ10万部でしょう。それじゃあ、書いた側の自己満足で終りまっせ。HPとしたってそんなにアクセス件数は増えないよ。怒りをこめたペンの力だけで、たいしたことはできないのだ。 だいたい「日本の組織の問題」とは、官庁や特殊法人や超有名企業に勤めている人たちだけの関心事で、そういう人口は日本全体のうちきわめて小さなポーションを占めるに過ぎません。圧倒的多数の人々にとっては、そんなエリートの人たちがどんな怒りや不満を持っていようが、どうだっていい話。ところが本当の改革を巻き起こすには、圧倒的多数を動員する必要がある。これって難しいぞ。 筆者自身にも身に覚えがあるのだが、官庁や大企業の人たちを集めて勉強会を開き、そこでいくら意見交換しても問題は解決しない。出てくる話も毎回似たようなことで、せぜいガス抜きになる程度だ。やってる間は結構楽しいんだけどね。このHPだって、そうなっちゃう可能性は低くはないと思うぞ 繰り返すが、本気で世の中変えようと思うのなら、大勢の人を巻き込む必要がある。そのためには、『踊る大捜査線』のような知恵が必要なのだ。「キャリアとノンキャリ」といってもよく分からんが、「柳葉敏郎と織田裕二がね」といえば誰にでも分かる。組織の問題は、組織に属していない人にも分かるように説明しなければならないのだ。 おそらく岡本さん自身、フリーになった時点でそういうことには気づいてしまっているのではないか、と思う。だったらなんでこんな異議申立てをするのかといえば、断じてお節介や老婆心からではなく、単なる筆者の目立ちたがりのゆえである、と白状しておこう。岡本さん、頑張ってね。
イラスト・三神万里子
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