潮来出島の眞菰(まこも)のなかで あやめ咲くとはしほらしや サアヨイヤサ アゝヨンヤサ
 花をひともと忘れて来たが あとで咲くやらひらくやら サアヨイヤサ アゝヨンヤサ
 花はいろいろ四季には咲けど 主に見返へる花はない サアヨイヤサ アゝヨンヤサ
 宇治の柴舟早瀬を渡る わしや君ゆへに上がり舟 サアヨイヤサ アゝヨンヤサ(この囃詞以下同様か)

 なまじなまなか始がなくば かほどこがれはせぬはいな
 あふた夢見て笑うてさめて あたり見まはし涙ぐむ
 しだり柳に桜を咲かせ 梅のにほひをもたせたや
 空とぶ鳥が物いふならば たよりきゝたやきかせたや
 影になりたやおまへの影に はなれがたなきわしが身は
 柳よやなぎ直ぐなる柳 いやな風にもなびかんせ

 主の寝顔をつくづくみれば かふも可愛くなるものか
 顔にや迷はぬ姿にや惚れぬ たつた一つの心意気
 主の口癖わしや聞き覚へ それをいふては笑はれる
 部屋の遊びに眉毛をかくし 女房ぶりして笑ひ顔
 しんくお前はかんざしさえも 思はず落ちるたゝみ算
 染めてくやしき江戸紫よ もとの白地にして欲しい
 お前つりざほわしや池の鮒 つられながらもまたかゝる
 わしが手管を車にのせて 野暮なお客に落籍せたや
 宵にちらりと三日月男 あとに来るとは嘘ばかり
 手鍋さげてと口では言へど 実はのりたや玉の輿
 親のためとてこの年までも 金がかたきの引眉毛
 はやく年あけ廓をはなれ 娘来たかといはれたい


  ***註記***

 印の四首は、現行の黒御簾音楽に残っております。
 印の次の詞章は『潮来考』(文化四年・村田了阿撰か?)から幾つか抜粋しました。
 後のカラフルな一二首は『潮来風』(文化・文政期成立か?)から採りました。
 BGMは、現行の「潮来出島」の伴奏です。
 尚、左の絵は「撥(ばち)」「糸箱」「胴掛」。「胴掛」は三味線を弾く時に「胴」を保護するためのカバーの一種です。この絵は、架蔵の『はうたよせ本』(幕末から明治初期刊)挿絵から採りました。