柴犬カンの日記2004年11月 

過去の日記 インデックス

あったかあったか。 (生後829日) 2004,11,29
 カンに夏用の肌がけ布団を与えたら、ずいぶん気に入っていつもその上に乗っかって寝るようになった。今年の秋は全体に雨が多く、暖かくて、まだ寒さが実感できないけれど、来るべき冬に向けて良い準備となった。
 ところがカンのやつ、3日に1回は布団を小屋の中から引きずり出してしまう。いつも我々がそれを入れ直す。
 おまけに、中の綿も最近吹き出しはじめた。カンが噛み破ったようだ。せっかくの夏がけ布団もいつまで持つかわからない。
 それでもカンよ、あったかあったかしてくれよ。

紙テープと風船  (生後828日) 2004,11,28
 今日はJリーグ2ndステージ最終戦、浦和レッズ対サンフレッチェ広島戦を見てきた。相変わらずの人気でほぼ満席。53000人という公式発表は少し少ないのではないのかと思った。
 ゲームは開始4分でDFのネネ(ブラジル出身)がいきなりのレッドカードで退場。レッズは10人になってしまった。せっかく足を運んで、これでは劣勢でつまらないかなあと思ったところ、何のことはない、1人少ないレッズの方が押し気味である。そしてとうとうトゥーリオが決勝点をあげた。そしてそのままゲームセット。最終戦を勝利で終わることができた。
 試合終了後、紙テープと風船で盛り上がった。これらは主催者が用意したもので、私は紙テープと風船を思い切りぶん投げた。ということは、先週の名古屋戦のときばらまかれた紙吹雪も主催者が用意したものだとわかる。
 さあいよいよチャンピオンシップ。岡田マリノスのせこい戦い方に苦労するとは思うが、なんとか勝って欲しいと願う。

ジョゼと虎と魚たち  (生後827日) 2004,11,27
今日の夕方の散歩の時、またカンがノーリードの犬に追いかけられて大変だった。黒いカンより少し大きめの雑種だった。飼い主のおじさんはすいませんすいませんを連発。おまけに捕まえたあと犬をひっぱたいていた。そんなことなら放さないで欲しいと思う。
 カンの方も逃げる逃げる。すごい引っ張り方で逃げて私の左腕は筋肉が引っ張られて痛かった。黒犬をけっ飛ばしてやろうかと思った。しかしその犬からはなれてしばらく歩いているうちに、良い天気であることも手伝って、次第に気分も晴れてきた。
 昨晩、日本映画の「ジョゼと虎と魚たち」というのをビデオでみた。障害者の少女と大学生の青年の恋愛のお話。妻夫木聡と池脇千鶴が主演。ノーマライゼーションというがなかなか難しいと思った。
 画像は2年前の11月。カン生後3ヶ月のとき。

落葉   (生後826日) 2004,11,26
 夕方カンの散歩に行くと、川沿いの道ではかなり落ち葉が多くなってきた。どうやら紅葉の季節も終わり、木々は枝だけの寒々しい風景に変わりそうである。
 カンは狂犬病の予防接種のあとは、先日の8種混合の時のように痛がらなかった。これは不思議な現象である。場所も同じあたりに注射されたのだが、どうも注射液の中身の問題のような気がする。
 それでもこのところの小春日和は気持ちがいい。明日からはこの冬初めての本格的な冬型の気圧配置になって、季節は一歩進みそうである。

ネット証券  (生後825日) 2004,11,25
 最近株を買った。インターネット証券会社であるeトレード証券に口座を設けて、早速3つの株式を購入したのである。1回口座を作ればクリックひとつで簡単に取引可能である。
 何しろ最近は金利が低くて銀行に預けておくだけでは何かもったいない気がする。株ならばもっと割がいいのではないかと思ったことがひとつの理由だ。
 もう一つは社会と接点をもっていたいという願望。株をやることによって、今まであまりよくわからなかった経済の分野も理解が深まるかなあと思ったこと。
 しかし授業料は高かった。かった3つの株全部値下がり。すでに1万円ほど損をしている。それには1取引785円の手数料と税を含めてなのだが、ビギナーズラックとはいかなかった。
 とにかく値上がるまでじっと待つしかなさそうである。一番値下がっているのがライブドア。堀江社長。頑張ってくれ。
 画像は全国展を見学しているカン。

ペースメーカー  (生後824日) 2004,11,24
 またマラソンの季節がやってきた。先日も東京国際女子マラソンが行われた。私は昔からマラソンランナーに憧れて、一生懸命走るのだが、年々体力の衰えを隠せない。
 最近のマラソンはペースメーカーが走る。彼らなくして好記録は出ないのだそうだ。
 運動不足で体重増加傾向の私は、毎夕4〜5kmのマラソンにでかける。当然ペースメーカーはカンである。ところがこのペースメーカーは気まぐれで、勢いよく走ったと思ったら、急に立ち止まってくんくん臭いを嗅いだりする。走る方にとってはこの上なくやりにくい。まあそれでもカンなしには外へ出て走るなんてことはしないだろうから使えないペースメーカーでもよしとしなければならないだろう。
 しかしよく考えてみると、ペースメーカーは実は私で、マラソンランナーはカンじゃないかと思ってしまう。
 今日獣医さんで狂犬病の予防接種をした。先日の8種混合ではずいぶん痛がったので、今回も少し心配だ。
 画像は先日静岡の実家に言ったときのカン。犬用ソファで気持ちよさげです。

カン、レッズサポに  (生後823日) 2004,11,23
 浦和レッズが優勝した。といっても私はこの12年間そんなに強く応援したわけではないが、近いと言うこともあってちょこちょこ見に行っていたから、選手の名前も知っていたし、なんだかんだといっても嬉しい。
 今日も柏相手に4−0で勝利。しかも主力は休みだった。今週の日曜日は埼玉スタジアムでサンフレッチェ広島戦を見学に行く予定。消化試合だが楽しみのひとつである。それよりも12月4日発売のチャンピオンシップ第2戦のチケットに、一応挑戦してみようと思う。
 昔はボンにエスパルスの応援をさせたが、今回はカンにレッズの応援をさせてみました。

全国展   (生後822日) 2004,11,22
 昨日、静岡の父の入院している病院に見舞いに行った帰りがけに、日本犬保存会の全国展を見学してきた。カンも1泊2日の小旅行に同行させて、島田の大井川の河川敷で行われた全国展には見学犬として参加させた。
 実家から会場まで約30km。カンはやけにこの間ぶるぶると震えていた。全国から集まってきた猛者たちの予感にびびってしまったのだろうか。
 12時頃ついたところ、カンのお里のブリーダーさんが見つかり、程なく参加しているどんちゃんやそらちゃんに会うことができた。
 しばらくすると参考犬の紹介があった。昨年内閣総理大臣賞を取ったという柴犬の撤錦号(画像)である。早速カンを会わせに現場に向かった。撤錦号は、なるほど骨太で、毛の模様もカンに比べてメリハリがついている。ただ、一体どこがすごいのかはわからずじまいだった。
 私たちはどんちゃんやそらちゃんという同じお里出身のわんちゃんたちの結果を確認したあと会場をあとにした。2時半頃で、埼玉に着いたのは7時前だった。
 カンも長旅で疲れていたのは私たちと同じであった。

マルコヴィッチの穴  (生後818日) 2004,11,18
 『マルコヴィッチの穴』という映画を見た。前に「カンタロヴィッチの穴」というのがこの日記にも登場したが、本家は初めて見た。何とも奇妙な映画でその穴にはいると俳優のマルコヴィッチになってしまうという設定だ。その穴はビルの7.1/2階にあるからまた奇妙だ。フェリーニの8.1/2を思い出させる。他人になってみたいという願望は一方で自分という境界がなくなってきているだろうか。
 『キルビル』というのも見た。千葉真一やアリーマクビールに出ていたルーシー・リューが出ている。舞台は日本だ。あまりにも残酷でタランティーノらしい。気分が悪くなるので、嫌な人にはお勧めしない。
 画像はプリムラ・マラコイデス。

伝統   (生後817日) 2004,11,17
 「ブリジット・ジョーンズの日記」という映画を見た。イギリスのものでロンドンが舞台のラブコメディーである。
 似たようなものにアメリカの「セックス・アンド・ザ・シティ」や「アリー・マクビール」があるが、決定的に違いを感じたのは、国の伝統という部分である。どういったシーンがということは言えないが、登場する人物たちの精神性が伝統文化によって多少飼い慣らされている。その文化性の枠の中での逸脱が描かれている。
 一方アメリカのものは各登場人物は全く近代的であり、様々な価値体系を背負っている。彼らをひとつにまとめるような体系は見あたらない。各個人が前面に出ている。
 このように感じるのはハリウッドのものとヨーロッパ映画を見るときにも同様に感じる。

ミュータント  (生後816日) 2004,11,16
 映画、『Xメン』と『Xメン2』を見た。娯楽作品として時間つぶしに最適だった。
 ミュータント、つまり新人類の話である。ミュータントと既存の人類の対立。共存をしていこうというミュータントのグループと、既存の人類を倒してミュータントだけの世界を作ろうとするミュータントのグループの戦い。
 ちょっとミュータントがあり得ない能力を持っているのが現実離れしている。
 もしこれから新しいミュータントが出てくるとしたら、コミュニケーション能力が高いものだと思う。テレパシーとか、コンステレーション(布置)を読み取って、未来を予言したり、遠くで起こっていることを透視したり。
 おそらく統合失調症の人たちの変異から起こってくるのではないかと創造する。
 何せ先日やっていたNHKの番組によれば、ネアンデルタール人を駆逐したホモサピエンスの優位性は言語を高度に操れるところから来ているそうだ。
 そういえばリチャード・ドーキンスが出ていて、初めて話しているのを見て少し感動した。彼は文化遺伝子説(ミーム)を唱えている。
 それにしても新しい人類はいつ登場するのだろうか。私は今でも自分が新人類だと信じているのだけれども。
 画像は落ち葉の中で○便しているカン。

浅間山   (生後815日) 2004,11,15
 昨日だったかおとといだったか、また浅間山が噴火したという。
 素人考えで、新潟の地震との関連を疑ってしまう。
 今日は午前中冷たい雨が降っていたが、午後にはやんで少し陽も差してきた。
 カンの右太ももの痛みもかなり改善してきたようだ。
 画像は先日の浅間山。少し噴煙を上げています。

まだ痛い   (生後813日) 2004,11,13
 水曜日に注射を打って、もう4日目になるというのに、左足太ももを触ると痛がる。
 なんだかえらく心配だ。今日の夕食は全く口にしない。
 それ以外の散歩などは普段どおりで支障がないのだが。
 妻は、カンはイメージで痛がっているという。私も気になって太ももを触りすぎたかもしれない。

痛みがピークに  (生後811日) 2004,11,11
 痛がりのカン君だが、昨晩は異常だった。注射後の痛みは時間を追って強くなっていったようで、10時過ぎになると、私がちょっと太ももを触るだけで「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ〜〜〜〜!!!」と泣き出す始末。小さな段差を登ったり降りたりしても、体を自分で震わせても痛いらしくて、ぎゃい〜んと鳴く。
 それでも飼い主のそばにいたいようで、中に入りたがる。中に入っても私や妻をじっと見つめたままぶるぶると震えている。かわいそうだったので昨晩は家の中で、しかも我々の布団の上で寝かせてあげた。
 今朝になると痛みは幾分和らいだようで、散歩も無事行くことができた。それでも左太ももを触るとまだ、きゃん、と鳴く。今しばらく痛みが引くまでかかりそうだ。
 昨年は8種混合の予防注射を別の病院で打った。そのとき痛み止めの注射も同時に打ってくれた。こんなに痛いのなら来年は去年使った病院に行こうと妻と話し合った。
  画像は注射を打つ前の元気なカン。

予防注射  (生後810日) 2004,11,10
 今日は1年ぶりに8種混合のワクチンを打ちに近所の動物病院に行った。
 昔子犬だった頃はずいぶんいたがったものだけれども今日は全然大丈夫だった。来週は狂犬病の予防接種をする予定だ。体重9.8kg。
 最初痛がっていなかったので安心していたところ、夕食を食べ終わった頃カンに触ると大きな悲鳴を上げた。どうやら注射の液体が体内に回ってきたようだ。獣医の話だと、注射液が冷蔵庫に保管されているので、冷たいものだから、痛いのだという。これで1日くらいは痛がるだろう。かわいそうに。

立冬  (生後807日) 2004,11,7
 今日は立冬だった。暦に似合わず暖かい1日で、午前中私は家で大学の宿題をこなし、午後はサカタのタネで買ったバラ、「ヨコハマ」を植え付けた。
 午前と午後1回ずつカンの散歩に行き、のんびりと秋の心地よい日和を楽しんだ。
 今が1年で最もよい季候だろう。
 このあたりの木々も少し色づいてきた。
 画像は先日行った鹿教湯温泉の露天風呂。

レッズ逆転勝利 (生後806日) 2004,11,6
 今日は午後レッズ対エスパルスの試合を見に行った。
 3日前にナビスコの決勝で延長戦を戦った末敗れていたので、その精神的な影響やら体力面やらで心配だったが、結果はレッズの逆転勝ちだった。
 どうも今日の試合もナビスコの決勝も、フォワード陣がいまいちだ。田中達也もエメルソンも決定機で逃してしまう。永井も岡野も点を取れない。また、山田もどうも不調である。こうしたときにそれ以外の選手が決めてくれると助かる。今日の場合、累積警告で出場停止の鈴木啓太の代わりに出場した酒井が同点のミドルシュートを決めた。最後はトゥーリオがコーナーキックからのボールを押し込んだ。フォワード以外の選手が点を取ればその穴を埋められるわけである。今日は4万4千人がスタジアムに駆けつけた。これで、あとひとつ勝てば悲願の初優勝である。
 そういえば野球のライオンズに身売りの話しがあるという。私が入っているファンクラブは一体どうなるのであろうか。今後の成り行きが心配である。ダイエーもソフトバンクに身売りされそうだ。来期はパリーグでネット対決が見られるのだろうか。
 画像はエスパルスのコーナーキック。

ジャック・デリダ (生後805日) 2004,11,5
 ジャック・デリダ氏は今年亡くなった。『エクリチュールと差異』などの著作で一世を風靡した。昨日紹介した柄谷らと並んで私が学生だった約20年前は、ポストモダニズムの旗手としてトレンディーな哲学好きな若者にずいぶん読まれたものだ。このころは、何でも「知っている」ことが他者よりも優越する手段であった。他人に知識を「ひけらかす」ことが人間の間での差異化をもたらした。
 田舎の純朴な少年だった私は、これらの哲学者や使われる用語に見えない壁を感じたものである。遅れてはなるまいと概説本を買っては浅はかな知識を脳に放り込んだ。
 このような現象は哲学に限らず、マイナーな映画やアンダーグラウンドな演劇、ファッションブランド、都心部のおいしい店、などの様々な分野で「知っていること」が力となったのである。それは男女に限らず異性から持てる秘訣でもあった。デリダの説く「差異化」が妙な形で若者たちの「差異化」をもたらしたのである。
 最近新しく知るということがなかなかできなくなってきた。また覚えてもすぐ忘れるようになってきた。老化だろうか。情報化社会では知ることが金になる。ITビジネスでは最初に動いたものが勝者になると言う。今回のライブドアはそうならなかったのだが。
 どうも最近時代の動きが肌で感じ取れなくなりつつある。今に、昔はよかったと嘆き出すような気がする。
 そういえばやはり一世を風靡したアラファト議長がどうやらフランスで命の幕を閉じようとしているようだ。
 画像はサザンカの秋月。今の季節の弱い光にとても美しく咲きます。

日本精神分析 (生後804日) 2004,11,4
 柄谷行人の『日本精神分析』を読んだ。
 柄谷と言えば私の学生時代には人気のある批評家で、当時私も何冊か買って読んだものだが、難解だった覚えがある。今でも家にあるのが『マルクスその可能性の中心』や、『日本近代文学の起源』などである。当時やはり流行っていたドゥルーズやガタリなどの思想家の説を援用して巧みに論を組み立てている。それでもマルクスが一番好きなようで、マルクス主義者ではないようだが、資本論などからの抜粋が目立つ。確かにマルクスは頭と直感が優れていて社会主義者ではなくとも一読の価値はあるとは思う。
 今回読んだ本は全く日本を精神分析していない。読者に買わせるためにこのタイトルを出版社が付けたようだ。柄谷はどこかで講演したものを加筆して本にしたのだという。そのおかげか柄谷の他の作品に比べると大変読みやすかった。谷崎潤一郎や芥川、菊池寛の短編小説を切り口に現代の、特に政治的分野を批評する。
 この中で、まず普通選挙は虚像だとして批判した後(この部分は面白いと思った)、高級官僚などは、一定の範囲でくじ引きして決めればよいと説く。偶然性が入り込むことによって腐敗や権力的支配が防げるのだという。
 また、地域通貨のような特殊な通貨を持ち込むことによって、現在の国家の枠組みや、資本主義のもたらす弊害が排除されるのだという。これについては少し甘いのではないかと思った。
 画像は秋の松本城。

楽天イーグルス (生後803日) 2004,11,3
 昨日、楽天のプロ野球参入が決まった。その途端この日記も楽天イーグルスに染められてしまった。左上とこのページの下の部分2カ所にイーグルス誕生決定の広告が載るようになった。この日記帳は楽天グループだったのだ。まあ、無料で間借りしているので文句は言わないでおこう。
 ナビスコカップ決勝でレッズがPK戦の末敗退。かなりがっくりした。3日にはエスパルス戦に行くのでそのときには立て直して頑張って欲しい。
 最後にアメリカ大統領選挙。まあ予想どおりブッシュ氏に決まったようだ。オハイオの結果次第でひっくり返る僅差だった。もう少し差がつくかなあと思っていたが、現職の強みが発揮されたと行ったところだろう。この結果が日本にどういった影響をもたらすか心配である。
 画像は我が家で遊ぶはな。

ハーメルンの笛吹男  (生後802日) 2004,11,2
 先日、阿部謹也氏の書いた、『ハーメルンの笛吹男』という本を読んだ。なかなか面白くて、一気に読み終えた。
 中世ドイツのハーメルンという街で伝えられていた伝説について歴史的背景や、この話が真実だったかどうか、その伝説のきっかけとなった出来事は何か、などについて、13世紀のハーメルンの状況を詳しく調べながら解説をした本である。
 簡単にこの伝説について書いてみると、1284年にハーメルンの町でネズミが大発生した。そこに放浪の男が現れて、ネズミを退治するという。町はこの男に報酬を払う約束で頼むことにした。すると男は笛を取り出して、吹き始めた。すると町の中のネズミがみな笛につられて山の方に行き、町からはネズミがいなくなった。ところが町側は、笛を使ってネズミをいなくさせたのだからお金はかかっていないだろうとして、報酬を払わなかった。すると男は怒って、再び笛を取り出して吹き始めた。すると今度は町の子どもたち130人が、あとで帰ってきた、口の聞けない子と盲目の子を除いて、みな笛につられて山の方に行き、消えてしまったという。
 阿部氏は、この伝説のネズミに関する部分はあとから付け加わった部分だとする。そして、後半部の130人の子どもが消えてしまったことは事実であったと断定する。この話は、16世紀にはヨーロッパにかなり広まり、魔女狩りの時代だったこともあって、笛吹男は悪魔であるとする説があったり、また、13世紀はドイツの東方移民が進んでいたことから、移民の出来事が伝説化したのではないかという説も取り上げる。また、当時ハーメルンの権益を巡って教会や封建領主たちが争っていたことから、戦争のエピソードが伝説化したのではないかという説も紹介されている。
 ただ、阿部氏は、これらの説を一蹴し、放浪の遊行人が、本当に130人の子どもたちをどこかに連れて行ったのだとする。その理由ははっきり述べていない。
 あと、この本は伝説のみならず、当時の民衆や社会のあり方にも詳しく紹介しており、このころのドイツがよく見えてくる楽しい本であった。この本は阿部氏が1970年代に書いた、ヨーロッパ中世史の記念碑的作品である。
 ちなみに現代のハーメルンの笛吹男は北朝鮮だ。