東京都港区芝大門1-16-10 / 大門交差点 至近/都営大江戸線・都営浅草線 大門駅/JR山手線 浜松町駅
肩こり 頚肩腕症候群  痙性斜頸 腰痛 五十肩  他、慢性痛 / くび・肩・背中・腕の痛み・だるさ・しびれ  目まい 冷え
低出力レーザー治療を中心とした慢性疼痛外来の専門医院

芝大門クリニック_ページトップ_タイトル画像

  TOPへ戻る  クリニック紹介  診療案内・初めて受診するには  アクセス・交通案内

「過労性疾患の記事」トップに戻る

武田紀子日常生活のなかの
   健康エクササイズ

東京都・芝大門クリニック 医療トレーナー 武田 紀子




高齢者の転倒と日常運動量

 高齢になると,体力や筋力は自然と低下し,これをどう維持するかが多くの方々の課題,興味となります.体力や筋力の低下による害は転倒や転落事故による骨折の発生や,そのために起こる寝たきりの状態,膝や腰などの痛みから来る行動範囲の縮小などです.

 高齢者の転倒事故は,室内での発生が6割,しかも3cm以下の段差につまずいたことによるものが多くなっています.また,屋外での状況をみると,引っかかりもないすべりやすくもない,ふっうの歩道で,しっかり運動靴を履いて前方を注視してふつうに歩いている状況での転倒が全体の件数の半数に達しています(上岡ら1999).

 これはつま先を持ち上げる前頸骨筋の筋力低下でつまずきやすくなっていたり,歩行中に働いている先行随伴性姿勢調節(APA)にかかわる器官の機能低下が転倒・転落の平衡障害を引き起こす(伊東ら)と考えられています.

 膝や腰などの関節の痛みはいろいろな原因で起こりますが,原因の究明とあわせて,適切な日常運動量の設定が予後に影響を与えます.

日常生活でのトレーニング

 日常生活を快適に過ごすためのトレーニングには,次の4つの運動を適度に組みあわせて行うことがよいとされています.

筋力運動:筋力の維持,そのための適度なトレーニングは,バランスの改善や歩行の安定,スピードを高めることに役立ち,転倒事故の防止,関節の痛みなどの予防に役立ちます.

柔軟体操:柔軟性の維持は,スムーズな動作のために必要です.ストレッチングは体の部分を意識しながら行うことで,身体感覚の向上も望めます.

持久力運動(有酸素運動):持久的な運動は.心肺機能の向上から血中脂質を良好な状態にし,動脈硬化を予防することが期待できます.

バランス訓練:高齢者には上記の3つに加えて,バランスカを高めることを意識した運動が,転倒を予防するのに効果的です.


高齢者に適した運動

 生活習慣病を予防するためには,有酸素運動が効果的なことはよく知られています.なかでもジョギングなどで関節や心肺機能にある程度の負荷をかけるよりは,ウォーキングのような「ローインパクト運動」でも効果は十分に得られ,関節などへの負担も少なく,とくに高齢者には適していることが知られています.
 また,高齢者の体力と健康の維持には,歩行能力の向上が第一という報告がされています(東京都老人総合研究所運動科学研究グループ).この報告ではただ「歩く」のではなく「どれだけのスピードで歩けるか」と健康度を比較し,歩行スピードが速い集団ほど健康度が高いという結果が出ています.

 これからもわかるように,高齢者であっても,健康を高めるためには,きちんと歩けるだけの筋力,バランスを保つための筋力の維持・向上が必要です.

 筋力運動と持久的運動を中心に,柔軟運動やバランス運動を組み合わせることが理想的な運動といえます.


運動強度は個別にきめる

 運動の強度やスピード,量や頻度は,個人の体力レベルによって決定されなければいけません.年齢や性差だけで決められるものではなく,運動経験や現在の生活の活動量,負荷から来る疲労を回復できる条件などを考慮して,個別に検討することが大切です.

 適度な運動は,生活習慣病の予防だけでなく,治療にも効果があることはよく知られています.しかし,糖尿病や心臓疾患が一定以上進行した状態では,運動することで病状の悪化を招くことがあります.定期的な健康診断を受けることと,治療が必要な疾患がある場合は,主治医とよく相談して,運動の種や量を決めていくことが必要です.

 運動の負荷や量は,一般的には運動中や運動後に関節や筋肉に痛み,だるさがないことを原則にします.運動後,休息をとれば体がすっきりした感じがある,朝すっきりと起きられることが適度な運動と休養のバランスがとれた状態です.

 また,1週間,3週間,3か月と続けるなかで,「なんとなく体がだるい」「やりたくない」「運動への気力がわかない」などの感覚がある場合も運動量が多すぎ,疲労が蓄積した徴候です.運動量を減らし,十分に休養がとれるよう生活を見直すことが必要です.


  

運動の目安

 基本では,運動の強さは40〜50%程度で,「楽だけれど運動している実感はある」「汗が出るか出ない」くらいが目安となります.量は筋力運動なら10〜20回で,運動した実感のあるくらいの負荷.ウォーキングなら15〜20分.これを毎日から一日おき,過に3回程度は行うことがよいとされています.しかし,これらの量にとらわれず,自分の「体の爽快感」から,適量を判断することも大切です.



  

筋力運動

 筋力運動というと,ダンベルなどを利用するウェイトトレーニングを連想しがちですが,使いなれていないとケガにつながる場合も多く,適切な指導のもとに行うことが原則となります.日常的に行う場合は,特別な器械を使わずに,どこでも行えるものがよいでしょう.



  

大腿四頭筋(太ももの筋肉)運動

 太ももの筋肉は,体のなかでもっとも太い筋群で,歩行能力に関係する以外に,階段昇降,バランスカなどの動作や膝関節の痛みにも関係する大切な筋肉です.運動をする前に,どれくらいに筋力があるかを確認します.

筋力テスト:椅子に腰掛けた状態から,ゆっくりと立ち上がります.
 バランスを崩したり,肘掛けや膝に自然と手をついてしまったり,手をつかないと立ち上がれない状態では,大腿四頭筋の筋力低下が進んでいます.痛みを感じた場合も筋力の低下があると考えられます.この場合は<1>または<2>の運動から,運動時に痛みがないことを確認して始めてください.
 多少の努力は必要だが立つことはできるという方は<3>の運動へ進みます.
 問題なく立ち上がれる方は<4>を行ってみてください.

<1> 仰向けに寝て,左膝を立てます

 左足を伸ばしたまま,ゆっくりと床から持ち上げます.上げる高さは20cm程度.上げすぎると効果は半減します.「1・2」で持ち上げ,「3・4」で下ろします.片側5〜15回程度繰り返し,左右を代えます(図1,2).
注意:腹が反れてしまい,床から離れてしまうと腰を痛める原因になります.立てた側の足とお腹で「腰が浮かないようにおさえる」ことも意識してください.

太ももの筋肉運動 図1,2


<2> 足を伸ばして座ります

 右の足首を,親指が膝の方向を向くようにしっかり曲げます.膝上の大腿部分に力が入っていることを確認します.「1・2・3」でゆっくり力を入れ,「4・5・6・7・8・9」で力を入れたまま保って,「10・11・12」で戻します.片足ずつ,3回程度(図3,4).

太ももの運動 図3,4


<3> 椅子に腰掛けます

 左の足裏をしっかりと床につけます.右の膝をゆっくりと伸ばします.「1・2・3・4」で伸ばし,「5・6・7・8」で降ろします.伸ばすとき,<2>のように足首を曲げると効果が高くなります.片側10〜20回程度(図5,6).
注意:膝の動作時に痛みがある場合は中止します.

太ももの運動 図5,6


<4> 足を肩幅程度に開いて立ち,つま先はまっすぐ前方に向けます.両手を膝上にあて,前傾姿勢をとります

 前傾姿勢のまま,ゆっくり膝を曲げます.曲げる角度は浅めでもかまいません.90度以上は曲げません.ゆっくり戻し,膝は伸ばしきらずに繰り返します.3〜10回程度(図7,8).
注意:曲げ伸ばしのさい,関節で音がするときは,負担を軽くして関節がスムーズに動くようにしてから行います.

太ももの運動 図7,8



  

腹筋運動

<1> 背もたれつきの椅子に浅めに座ります.背もたれとお尻の間にクツションなどを置き,背もたれに寄りかかります

 腕を胸の前で組み,ゆっくりと息を吐きながら上体を起こします.ゆっくり戻します.「1・2・3」で起こし,「4・5・6」で戻します.起こせない場合は座る位置を深めにします(図9,10).

腹筋運動 図9,10


<2> 仰向けで寝て,両膝を立てます

 両腕を伸ばし,膝頭を触るつもりで,頭〜肩を床から上げます.上げるときは息を吐きながら.膝を触れなくてもかまいません.「1・2・3」で起こし,「4・5・6」で戻します(図11,12).



  

躯幹から大腿部の筋力運動

<1> 脚の蹴り上げ

 壁や椅子の背もたれなど,直立姿勢のままつかまることのできるもののそばに立ち,右手でつかまります.
 左脚を,膝を曲げずにゆっくり外側に広げます.このさい,上半身が倒れたり腰が曲がったりしないよう注意します.「1・2・3」で上げ,「4・5・6」で下ろし,5〜15回繰り返します(図13,14).
<1>の脚を広げる方向を内側,後方に変えて行うと,刺激する部分を変えることができます.筋力を意識した運動の場合は,反動をつけずに,ゆっくりと行うことが効果を高めるポイントとなります.

く幹から大腿部の筋力運動 図13,14



  

バランスを高める運動

 同じ動作でも,何を目的にやっているのかを意識することで,ちがう効果を期待することができます.
 
「躯幹から大腿部の筋力運動」を支えにしていた壁や椅子から少し離れて行います.支えがあるときより,脚の動きは小さめにして,バランスを崩さないことを意識します.バランスが保てるようなら,脚の上げ下ろしのスピードを上げて行きます.このときも上げる高さは控えめにして,上半身が倒れたり腰が曲がったりしないよう,注意します.



  

柔軟運動(ストレッチンク)

 筋力運動などで刺激をした筋肉は,伸ばしておくことで,疲労の解消をはかることができます.筋力運動の合間や終了後に行うと効果があります.運動前の筋肉が温まっていない状態,とくに朝方には筋肉を傷めることもあるので,急に行わないよう気をつけましょう.



  

大腿四頭筋のストレッチ

 右側を下にして側臥位になります.上になっているの左膝を曲げ,左手でその足首を持ちます.
 かかとがお尻に近づくように引き寄せ,大腿前面に気持ちよい程度のつつばり感があるところで10〜15秒,この姿勢を保ちます.左側を下にして反対側も行います(図15).

注意:足首を持つことに無理がある場合は,タオルなどを足の甲に掛け,タオルを引っぱると伸ばすことができます.同じ姿勢をすることが目的ではなく,「大願前面に気持ちいいストレッチ感覚がある」ことを意識します.

大腿四頭筋のストレッチ 図15



  

ハムストリング(大腿背面)のストレッチ

 ベンチや椅子を2つつなげて右足を伸ばして乗せ,左足は下ろして足裏をしっかり床につけます.
 ゆっくり上半身を前に倒し,ハムストリングが気持ちよく伸びているところで止め,息を吐きながら10秒程度伸ばし,ゆっくりと戻します(図16).
注意:頭を前に倒すのではなく,おへそを前に出す感じで上体を倒すようにします.

ハムストリングのストレッチ 図16



  

心地よい生活

 運動の一部紹介しましたが,運動することが健康を高めるために必要なのではなく,運動を生活に取り入れることで「心地よい」と感じる身体感覚を実感し,楽しみながら体を動かすことで生活の質が向上することが大切です.

 無理なく楽しめていれば長期間継続することができ,結果として大きな効果を得ることができます.


参考文献

1)米国立保健研究所・老化医学研究所編,高野利也訳: 50歳からの健康エクササイズ.岩波書店,2001.

2)青柳幸利監修:高齢者の運動ハンドブック.大修館書店,2001.


Q&A


――― 運動の習慣化がむずかしいと思うのですが,なにか手だてがあるでしょうか


武田

運動習慣をつけていただくのは,若い方でもむずかしい問題だと思います.好きな方,意欲のある方は放っておいても参加されるのですが,意欲のない方の場合,どうはたらきかけるのかということが問題です.

 ある一定の集団をつくっていただいて,横のつながりをつくること,指導される方・利用者という関係だけではなく,利用者同士のなかでのサークル形式で運営していく方法がいちばん定着しているようです.

 強制せずに楽しくやるということがモチベーションを高める要素になるので,指導者の方は,レクリエーションのなかにどういう効果のある動作を織りこむかを考えてはたらきかけていただけると,楽しみながら効果が得られ,また,効果を実感できると習慣化できるようになると思います.つねにはたらきかけないと中断しがちな方はかなりの数いらっしゃいますので,楽しみを織り交ぜながら実施していくのが現実的かと思います.


(医歯薬出版株式会社 別冊総合ケア「快適支援の高齢者ケア」 2004年11月3日発行)



このページの先頭に戻る  「過労性疾患の記事」トップに戻る


トップページに戻る




Copyright (C) 2011 Shiba-Daimon Clinic