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南山堂より出版されている月刊誌「治療(2004年3月号)」に渡辺靖之医師の「肩こり、頸肩腕障害」の論文が掲載されましたので紹介します。

肩こり,頸肩腕障害


渡辺靖之 芝大門クリニック(東京都)



ひどい「肩こり」の訴えを聞いたら。第一に頚肩腕障害と頚椎椎間板症の鑑別診断を念頭に置く。頚肩腕障害と考えられたら第二には重症度診断のための他覚的所見の把握が必要である。まず半身縦割り型の感覚障害の有無を調べる。次には叩打痛を好発部位について検査する。項部と腰殿部にかぎっては圧痛点検査が良い。握力・背筋力計測結果も含めて総合判断して重症度判定し、療養区分を決定する

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頚 椎 椎 間 板 症 と の 鑑 別 診 断

私は元整形外科医、現在神経内科医であるが、実際には科目にはとらわれずに職業性頚肩腕障害の専門家として約30年臨床に携わってきた。

頚肩腕障害の臨床でのまず第一番の問題は頚椎椎間板症との鑑別診断である。

項背部の痛みと腕手指のしびれ・痛みが愁訴の場合には、頚肩腕障害(その一部分症としての胸郭出口症候群)と、頚椎症(神経根症)の鑑別診断はそれほど難しくはない。なぜなら、胸郭出口症候とスパーリング症候の診察手技を正確に知っていて実施できさえすればよいからである。問題はそうではなく、頚肩腕障害の疼痛(頚椎運動痛)・運動制限と頚椎椎間板症の椎間板性疼痛(頚椎運動痛)・運動制限との区別が時として非常に困難なことである。また頚肩腕障害に頚椎椎間板症が合併していることも少なくないので、その場合には診断は非常に難しくなることがある。実際頚肩腕障害でも少し重症化すると頚椎後屈が著明に制限され、項背部痛が惹起されることが少なくないのである。

この頚肩腕障害と頚椎椎間板症の鑑別診断には、2週間程の経過を待って診察し直すとか、症状経過を改めて聞き直すことなど時間が解決してくれることが少なくない。また画像診断(MRI)が役立つこともあるが、診断の基本はあくまで診察により行うべきで、画像診断結果の偽陽性には特に注意を要することは言うまでもない。

2
頚 肩 腕 障 害 の 他 覚 的 所 見

頚肩腕障害診断の第2の問題は、自覚症状や社会生活活動の自覚的障害度だけでなく、他覚的所見をできるだけ詳しく把えて総合判断できるかである。「頚肩腕障害は自覚症状は多彩だが他覚的所見に乏しい」と言われて久しいからなおさらのこと、他覚的所見をどうとらえるかが非常に重要であると思われる。より精密な他覚的所見が把握できれば、より正確な重症度診断が出来る。重症度診断があいまいであれば適切な療養区分の判断は出来ない。経過観察だけでよいのか、軽減勤務なのか、あるいは休業させるべきか。また休業させてからの改善度の評価、リハビリ訓練や再就労の指示の目安は何なのか。重症度診断なくしては、罹病者のみならず担当医師、産業医までもが動揺することになりかねないのである。

他覚的所見は、「こり」を調べることが根本であるが、これは非常に難問である。「こり」はどちらかというと自覚的なものであって「こり感」というほうが適切であると思われる。他覚的所見としては「筋硬」と言われている。こり、筋硬の客観化、計測は関係者の長年の悲願であり、実際これまでに筋硬度計がいくつか開発されており、最近では筋血流計や筋緊張度の測定機器の開発も進められている。

しかし私はこり(筋硬)の客観化、計測は非常に困難であり、少なくとも診察室での評価は出来ないと考えたほうが良いと思っている。なぜなら10年ほど前、ベテランマッサージ師4人の方々に何人かの患者さんの全身の定点を評価してもらうという実験を行ったが、一致率は非常に低かったという結果を得たからである。 以後私は「こり(感)の拡がり」を調べることにしたのである。ところがこの診察方法もまもなく壁にぶつかった。指圧検査によるこり感の評価が難しい場所や場合がこれまたかなり多いことが分かったのである。頚肩腕障害は重症難治化するにしたがって、こりの強いところに叩打痛や圧痛点が現われることが少なくなく、その部位の指圧ではこり感ではなく痛みに変じているからである。

また重症例では半身縦割り型の感覚障害を呈するケースも少なくなく、その半身側では「こりの拡がり」を調べることは出来ないことも分かった。

3
叩 打 痛 検 査(タッピングペインマップ法)

圧痛点検査は、よく理解して検査に習熟してもなお中々うまくは出来ないものである。客観性に乏しいのである。圧痛点検査のみによって診断される線維筋痛症が今なお「幻の疾患」であるのは圧痛点検査の弱点によるものと思われる由縁である。圧痛点検査に較べると叩打痛検査はより客観性がある。また圧痛点検査にはない叩打痛領域を検出することが出来る。

叩打痛検査とは指頭(検者示指あるいは中指)により叩打痛を調べることである。叩打痛が現われやすいポイントを図の左に示した。これらのポイントを対面座位、背面座位、伏臥位、背臥位で検査するのである。叩打痛ポイントが多ければ頚肩腕障害としての重症度がより強いと考えられる。叩打痛ポイントは例外なく圧痛点でもあるから、圧痛点検査は省略してよい。ただし不思議なことに、こりの訴えが通常最も強い項部と腰部は別であり、この二部位ではなぜか叩打痛が現われにくい。したがって項部と腰部だけは圧痛ポイントをさぐることになる。

叩打痛検査の図

私のカルテ記載は、叩打痛ポイントは赤ボールペンで、圧痛ポイントは赤鉛筆でマークすることにしている(タッピングペインマップ法)。叩打痛がポイントではなく領域に拡がって認められる症例も少なからず見られる。これには上肢限局型と全身広範囲型とがある。いずれも非常に重症難治化している症例である。

また腰痛症、特に腰椎椎間板症では重症難治化の指標として、腰部に叩打痛領域が現われることが少なくないことも覚えておかれると良い。

半身感覚障害もなく、叩打痛・圧痛領域も見られない場合に初めて原型である「こりの拡がり」検査が行える。右あるいは左の項部(いわゆる肩こりの部位)を基準点として10点とし、左右項部、背部内外側、前胸部、上肢、背腰臀部、下肢の定点のこり感を調べるのである。より強ければ11,12,・・20点、こりがなければ0点という具合に。

また、こり・痛みの拡がりと程度は握力・背筋力の低下度と非常によく相関する。特に背筋力は良い指標にある。例えば女性の背筋力は通常が70〜80sであるが、それが40kg程度に低下していればそろそろ休業休養が必要であると思ってもそう間違いではないほどである。男性では通常背筋力が120〜130sであるから80sくらいでイエローカードを出すのが良い。

こり、痛みの拡がりは、自覚症状的にはだるさ、すなわち全身倦怠感、易疲労性の程度と相関していると考えられるので、「こりの拡がり」検査や叩打痛・圧痛検査、握力・背筋力検査は「慢性疲労」の他覚的所見としても非常に重要であると思われる。

治療 Vol86,No.3 (2004.3)



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