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頸肩腕障害と慢性疲労症候群の鑑別診断

芝大門クリニック
渡辺 靖之

【解説】

職業性頸肩腕障害や職業性腰痛症の原因の基本として、局所的反復的酷使や、あるいは局所的障害にとどまらない中枢神経性の慢性疲労、過労性の障害が想定されている。

一般に職業性慢性疲労性疾患とか過労性疾患と呼ばれる所以である。

また慢性の過重業務の「過労」による心脳事故については、すでにあまりに有名な「過労死」という言葉が定着しており、最近では業務過重による精神障害や自殺、「過労自殺」も業務上災害として認められている。

一方、非常に紛らわしいネーミングであるが「慢性疲労症候群」という疾患がある。「慢性疲労」という言葉が冠されているが、「慢性疲労症候群」では基本的には病因として慢性疲労、過労は想定されていない。

慢性疲労症候群研究では日本の草分けである木谷照夫前大阪大学医学部教授は次のようにまとめている。

「1990年11月号のニューズウィーク日本版が、感染者は数百万、謎のウィルスを追え、とセンセーショナルな言葉を並べて慢性疲労症候群(CFS)を紹介した。慢性疲労症候群(CFS)は強い疲労感を中心とした多彩な臨床症状を呈する疾患であるが、現在でもなお病因ならびに病態発現の機序が明らかでない。多くの病因説が提唱され、感染、免疫異常、内分泌異常、代謝異常の各説のほか精神疾患説がある。最近では、ウィルスやその他持続的に内在しうる病原微生物の感染による直接ないしサイトカインを介しての作用が、疲労発現にかかわる中枢神経にはたらき、何らかの傷害を与えたことによる病的中枢性疲労とする考えがしだいに有力となってきている。また特異な核内抗原を標的とする新しい自己抗体が見出され、自己免疫の関与も考えられる。」慢性疲労症候群という言葉(疾患概念)は、アメリカおよび日本に限られており、WHO,ヨーロッパでは認知されていないようである。しかし日本ではなじみの少ない「線維・筋肉痛症候群」という疾患概念がWHO,ヨーロッパでは用いられており、慢性疲労症候群(CFS)とこの「線維・筋肉痛症候群」は同一の疾患であると考えられつつあるようだ。


【症例報告】

1991年に慢性疲労症候群の診断基準が確立されて以来、われわれは頸肩腕障害との鑑別対象疾患として注目して来たが、しかし実際の症例にはなかなか遭遇しなかった。

ところが最近1年間に、慢性疲労症候群と考えられる5症例を、あいついで経験したので、今回は頸肩腕障害との鑑別診断上の問題点について検討し報告する。


(1)
症例1
は、パソコンインストラクター歴3年、26歳女性。残業は月間70〜80時間。仕事が多忙になるに連れて慢性疲労を自覚していたが、急性上気道炎罹患後に、著しい倦怠感が持続し、長期間の休業を余儀なくされた。EB抗体価高値のため、感染後CFSが疑われた。また精神科疾患鑑別診断の目的で、精神科医に紹介され、ついで頸肩腕障害の鑑別診断のために当院に紹介された。頸肩腕障害の局所症候は乏しく、両側項背部に軽度のこりが認められる程度で、痛覚過敏は認められない。握力・背筋力の低下は著しいが、総合的には頸肩腕障害は否定的と考えられた。慢性疲労症候群自覚症状は、11項目中10項目が認められ、他覚的所見でも内科医の観察により3項目が認められているので、慢性疲労症候群の確診例と考えられた。


(2)

症例2は、中途入職者で、携帯電話組み立てライン作業歴1年半の、35歳女性。1年間くらいの業務負担感と、軽い慢性疲労感を自覚していた。高熱を呈する何らかの感染症をきっかけに、長期間持続する倦怠感が出現した。症例1と同じ精神科医師へ、ついで精神科医から当院へと紹介され受診した。こりは上半身に拡がっているが下肢には及ばず、痛覚過敏は認められない。診察時に座位保持もつらく、握力・背筋力もキチンと行えないほどの倦怠感を訴えたが、頸肩腕障害は否定的と考えられた。慢性疲労症候群自覚症状11項目中10項目をクリア、他覚的所見も認められており、確診例と考えられる。


(3)
症例3
は、35歳、看護婦。訪問看護婦歴1年。業務上での心身のストレス感は強く、疲労感も強かったが、その期間は2ヵ月くらいで、風邪をきっかけにダウンした。こりは著明で項背腰臀部〜両下肢、頸部〜両上肢と広範囲に及んでいるが、痛覚過敏は認められず、握力・背筋力の低下は軽度。6ヵ月以上の休業によっても改善が非常に不十分なほどの頸肩腕障害、背腰痛症とは考えられなかった。慢性疲労症候群自覚症状11分の9。他覚的所見は3分の2、確診例と考えられた。その後慢性疲労症候群として、休業通院、経過観察中である。


(4)
症例4
は、スーパーマーケットの野菜カット作業歴1年、46歳女性。両手のしびれ、手指関節痛と著しい倦怠感で発症、膠原病科で限局性強皮症と診断されて休業治療中であったが、自分では手指作業と野菜洗浄液による職業病ではないかと考え、当院受診した。手指の強皮症とレイノー症状はあってもごく軽度であった。 こりは軽度だが上半身に拡がっており、握力・背筋力は著明な低下が認められるが、痛覚過敏はなかった。発症が急性であり、慢性疲労症候群自覚症状11分の8、他覚的所見は3分の0。慢性疲労症候群の確診例と考えられた。前医の「全身性強皮症」という診断名をそのまま踏襲して休業通院治療を行っているが、最終的には軽症の限局性強皮症に慢性疲労症候群が発症したと考えた。


(5)
症例5は、26歳女性。法律事務所勤務2年目に、業務負担感と慢性疲労感を自覚していたが、微熱、全身倦怠感、肩こり、頭痛が出現したためまず急性上気道炎として休業開始。その後、頸肩腕障害と診断されて休業通院、結局病気退職となった。退職後に当院受診。こりは著明で広範囲、痛覚過敏は認められず、握力・背筋力は軽度低下。頸肩腕障害として通院加療してある程度改善したのでその後、同様の業務再就職。約2年間従事したが倦怠感、凝りなど再悪化したため再び、休業療養中である。慢性疲労症候群としては発症がかならずしも急性ではなく、自覚症状11項目中7項目だが、不安発作が認められ、続発性の不安発作と考えられる。慢性疲労症候群としては疑診例である。現在も、頸肩腕障害と、慢性疲労症候群、不安神経症の合併と考え通院治療、リハビリ、経過観察中である。

【考察】

(1)
慢性疲労症候群は、特に上気道感染後の急性発症という点、微熱、咽頭炎、リンパ節腫脹いう他覚的所見を確認することに留意すれば積極的診断が可能である。症例1、症例2では、頸肩腕障害は否定的であり、慢性疲労症候群の確定診断で、問題はないと思われる。

(2)
しかしながら、症例3、症例5の場合のように、業務負担感、疲労感が強い状況で、上気道炎などの感染症に罹患したことを契機に、症状が一段と悪化し、診察所見でも頸肩腕障害の症候が認められる場合には、頸肩腕障害と慢性疲労症候群との鑑別診断はなかなか困難であった。

(3)
慢性疲労症候群など他疾患との鑑別診断のためにも、今後さらに頸肩腕障害としての積極的診断根拠、特に他覚的所見診断法、臨床検査法の確立が必要と考えられる。

(労働と医学 74 2002.7.5)



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