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狼の一族  - 早川書房2007
狼の一族

どんぞこ列車 Riding the dark Train Out ハーランエリソン Harlan Ellison
  異色作家短編集18 アンソロジー アメリカ編 狼の一族 早川書房2007 訳:若島正 のあらすじ

アーニーは元ミュージシャン、クラリネット奏者。今は、どんぞこだ。
貨物列車に乗り込み、暖を取る。綿花は温かいが、ブタの糞の臭いは最悪だ。

寒さに歯がカタカタ震える。その上の鼻は曲がっている。以前、ヴィヴァルディを交響楽団で
プレイした時に、シンコペイトしたら、主席に、ぶん殴られた跡だ。

それ以来、楽団とはおさらば。貨物列車暮らしが始まった。
ノンストップの特急車。宿泊設備完備。おまけに切符拝見も無し、と来る。

音楽仲間の符牒にある。『それじゃあ、どんぞこ列車に乗る様なもんだ』
そう。俺は、どんぞこ列車に乗っている。そして人を殺したんだ。


その日の朝は寒かった。貨物車の隅で体を丸めていた。オカリナを吹いていた。
踏切りで、列車はスピードを緩めた。そうすると、突然、反対角の扉が開いた。
オカリナは止めると、女の子が尻を押されて飛び込んで来た。続いてガキも。

「うまく行ったわね」
小娘のスカートは捲くれて、太腿が露わだった。
その姿は、朝に飛び立つスズメの様だ!何だ。今の俺はまるで、詩人だ。
しかし、その胸や長い脚を見ていると、詩には出来ない事が頭に浮かんだ。

「ほら、うまく行っただろう!」
ガキは娘を抱きしめた。俺はガキの様子を見た。ちぢれ毛。太い腕、小さな体。
俺は、これなら"充分"だと思った。


「やめろ!ここは連れ込み宿じゃないんだぜ」
俺は立ち上がった。二人は不安気に、こっちの暗闇を見る。

「まあ。こっちいに来い。こっちの方が糞が柔らかくて、温かい」
娘は一歩、こちらへ近づいたが、ガキが腕を引っ張った。
「僕の傍を離れたらダメだ!君を守ってやるって誓っただろ」

「まあまあ、良いじゃないか。ところで、何で"誓った"んだい」
「僕達は、駆け落ちして来たんだ!」

なるほどと、俺は思った。こいつは、カモだ。それも、これまでにはない上等の奴だ。
なにせ、この娘は、今までのカモ達が、持っていなかった"お宝"を持っているじゃないか。
だが、事を運ぶのは、まだ先だ。俺は美食家なのだ。ただの食いしん坊とは違う。

「自己紹介だ。俺はミュージシャン。名前は、あああ、ボイド スミスって言うんだ」
「どうせ、偽名だろう」
「カッピー、この人、そんなに悪そうな人じゃないわ」
娘はこっちに近づいて来た。良い娘だ。隣に座ってスカートを拡げた。
こりゃ、最高に良い娘だ。

さて、予定は。ガキを殴って、金をぶんどる。後は、この娘を連れて逃げるだけだ。
ちょろいもんだ。


「ねえ、あなたは、何処へ行くの?」
「やめろよ。キティ!彼は、話なんかしたくないんだ。すぐにフィリーに着く」
「そんな事はないさ。ところで、腹は減らないかい」
「私たち、朝から何も食べていない」
「じゃあ、ちょっと早いが、朝飯にするか」
俺は炭桶に火をつけ、小鍋に火をつけた。そして、鞄から取り出した。ソーセージだ。
すぐに、キティの顔が笑みで一杯になった。


最後に指をなめて、三人はソーセージを食べ終わった。

「なんで、お前らは駆け落ちなんかしたんだ?」
「私のお父さんが、結婚を認めてくれないの」
「なんで、認めてくれないんだ?」
「わたしのせいなのよ。お父さんは、すっかりカッピーが嫌いになって…」
「キティ、君のせいじゃない。僕のせいだ」
「私、妊娠してるの…それで、お父さんは堕胎させるって…そして、修道院に行けって…」

これじゃ、話が違う。俺にも思い当たる事がある。だけど、昔の話だ。昔の。
こいつらは、ただのカモだ。妊娠と、何の関係がある?


「じゃあ、一緒に飲もうぜ」
俺は、ウィスキー ボトル小僧の鼻面に突き出した。
小僧が、手に取った。しめた。

「じゃあ、お言葉に甘えて、ご馳走になるかなあ」
野太い声が、後ろから聞こえる。

今の、踏み切りで、新しい客が加わった様だ。
デカイ。

俺の倍はある。俺は、ウィスキーを差し出した。そいつは、一息で、空にしちまった。


「あたし達、これからフィリーに行くの」
キティが、余計な口を聞いた。そいつは言う。

「あたし達?あたしは、行けるが、残りの二人は、無理かも知れんな」
こいつは、やっぱり、"期待"通りの野郎だ。

"新入り"が、大股でキティに近づいた。キティは後ずさりする。それから、キティの顎を掴んだ。
カッピーが男に、むしゃぶり付く。取っ組み合いが始まる。二人はブタの糞の中に沈む。

ガキのパンチが決まった様だ。大男の叫びが聞こえる。しかし、男はポケットに手を突っ込んだ。
手にはナイフが。パチンと音がし、刃が、光ったのが見える。それで充分だった。ガキの喉笛に、
男がナイフを振り上げた。キティは俺の腕を掴む。
「ねえ!助けて、何とかして!ねえ!何とかして!」

俺は、一歩も動けなかった。カモを横取りにしようとする奴相手に、何も出来なかった。
急ブレーキが、かかり、二人の体は、床に転がる。男の体が、仰け反る。
カッピーのシャツは、どんどん、赤くなって行く。キティは、気絶した。男達の動きが、ゆっくりになった。

立ち上がったのは、カッピーの方だった。男の腕に、喰らいつき、落としたナイフを拾ったのだ。


「…どう、しよう…」
カッピーの顔は真っ白だった。

列車はスピードを緩めた。こりゃ、もう駅に着く。


気がついたキティは泣いている。俺は外を覗いた。鉄道公安官だ。近づいてくる。何か気づいたらしい。
俺は言った。

「お前ら、この反対のドアから逃げ出せ!早く!そして、まっすぐ走れ!」
「あなたは、そうするの?」
「僕は…」
「お前も、一緒に走れ。こいつを守ってやるんだろ!」


運は良い。こりゃ、立派な正当防衛だ。
さて、一息ついて、一杯飲もうと思ったが、死んだ野郎に全部、飲まれちまった事に気づいた。

畜生、ブタの臭いは、いつ取れるだろうか?

..............

いいなあ、エリスン。ディックの次は、と思っていたが、エリスンもあり、かなあ…とりあえず手持ちの邦訳作品を並べてみようかなあ…

記:2013.01.25


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三分 小説 備忘録

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