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デュ モーリア傑作選  - 創元推理文庫(2000)
デュ モーリア傑作選

林檎の木 デュ モーリア傑作選 The apple tree(1952) daphne du maurier 訳:務台夏子 のあらすじ

妻が死んだ。それから、しばらくして、林檎の木に気づいた。
小台の丘の上に仲間達と並んでいた。

よく晴れた初春だった。それを、じっと眺めた。
その木は痩せており、仲間達の様な、ゴツゴツした力強さなど、みじんもなかった。

まるで殉教者だ、と思った。枯れている様でありながら、辛抱強く、芽を吹いていた。
妻を思い出した。

庭で、街で、ミッジは、いつも、こんな風に立っていた。

「疲れたんじゃないかい。少し休んだら?」
「ええ、でも、働かなくちゃ」
それが、口ぐせだった。


林檎の木を見ていると、木が語っている様な気がした。
(私がこんなに、なったのは、あなたのせいよ)


ミッジは不平を言わなかった。言わない代わりに態度で示した。
ある日、こう聞かれた。
「あなた、街に行く用はない?」
「いや、ないが?」

「じゃあ、あたしは歩いて、街まで買い物に行きます。用があるなら車を出して貰おうと思ったけど」
「それなら、出すよ。午後から雨が降るらしいよ」
「どうせ、濡れるんだから同じよ」
一度、言い出したら、後は、何を言っても無駄だった。


「今、忙しい?」
「いや、のんびりしたい気分なんだ」
「じゃあ、良いわ。配水管が詰まって、直して貰おうと思ったんだけど」
「じゃあ、直すよ」
「いえ、結構です」


供に暮らした時間は25年になる。
しかし、なぜ妻が、毎日毎日、家中を洗いざらい片付け、掃除しているのかは、判らなかった。


きっと、妻は、天国の門の順番待ちでも、辛抱強い表情で、最後尾にいるのだろう。

ふと、昔の事を思い出した。
隣の家に、以前、手伝いに来ていた若い娘。その娘と話をしていた。
納屋に入り、藁屑の上に転がった。キスをした。
そこで、入口の影に気が付いた。

「あたしは赤十字の集まりに行くわ。声を掛けたけど、気が付かなかった様ね」
ミッジは、その娘をじっと見ていた。

その娘とは、それ以来、会っていない。ミッジも、その話を一度もしなかった。


その週末、手伝いの庭師ウィリスがこう言った。
「旦那、気づきました?あの林檎の木、生き返ったみたいですよ。
   もう何年も前に、切り倒そうと言いながら、放っておかれた、あの端の木」

(こいつも、あの木の事に気づいたのだろうか?)
「いや、何も、気づかんが?」
「じゃあ、お見せしましょう。ほら、あれですよ。芽も吹いている。奇跡ですよ」

「い、いや、切るとしよう。他の木の邪魔になる」
「そんな!じゃあ、来年まで待ちましょう。それで、ダメなら切るのはどうです?」


夜、そっと窓から林檎の木を見た。月の光に照らされると、まるで妖精の様だった


「この薪木は何なんだ?」メイドに聞いた。
「ウィリスさんから、預かったんです。林檎の木の枝が折れてしまったそうで、それを薪にしてくれたんです」
「しかし、すごい臭いだな。この薪か?」
「始めは良く燃えたんですけど、途中で消えてしまった様で、まだ新しいからですかね?」


暖炉の中を覗く。火の点いた薪から、樹液が出てくるのが判る。
切面から、染み出る林檎の樹液。その香りを楽しむ者も多いのだが、これは...


「もう、二度とこんなものを使わんでくれ!」
その剣幕に、メイドは驚いていた。


数日後、庭師のウィリスから隣家の子馬の件で文句を言われた。
ウィリスが、薪を隣家の牧草地に捨てたので、子馬が足に怪我をしたそうだ。
しかしウィリスには覚えが無かった。

「それは、私が捨てたのだ」
「どうしてですか?折角の良い薪なのに?」
「臭いが気に入らんのだ。もう余計な事は止めてくれ。そもそも、あの木は気にいらん。切ってくれ」
「そんな?せめて、来年まで待ちましょうよ」


朝食に、林檎が出てきた。
「この林檎は、どこの林檎だね」
「丘の茶色の木です。沢山なりました」
一口、齧ってみると、嫌な苦味があった。
「この林檎は好きじゃない。もう朝食には出さなくて良い」

よく朝、トーストに林檎ジャムが付いていた。
「このジャムは、何から作ったのだね?」
「あの木の林檎からです」
「いいか。もう、私の食事に、あの林檎のものを出すんじゃない!何度、言ったらわかるんだ?」
「いえ、お口に召さないなら、ジャムにすれば、もったいなくないかと思って...」


翌日、メイドとウィリスが、辞めたいとやって来た。
妻がいなくなってから、仕事に張り合いがないのだと言う。旦那様は変わってしまった...

二人は出て行った。
これも、すべて、あの林檎の木のせいだ!


のこぎりを持ち出して、林檎の木を切り始めた。
なぜ、この木は、生き返ったんだ?そのまま枯れていれば、全て上手くいったのに!
しかし、切りづらい木だ。しかたない、斧を使おう。


ようやく、切り倒した。
しかし、家から丘を見ていると、その木が、『これが、私への仕打ちなの?』
と言っている気がした。


冬になった。雪も降る。
気晴らしに、町へ出た。

酒場で、以前、隣の家に、手伝いに来ていた若い娘の話になった。
「メイちゃんは、若くして死んだそうだんだよ。結婚前に」


ちょっと、がっかりした気分で、家に帰った。
家は一面が雪だった。寒さは今年、一番だ。
車を止め、家まで雪をかき分け進んだ。


突然、何かの穴に足を取られた。抜けない。どうすれば良い。ただの穴なら足を引けば良いはずだが...

そこで、気づいた。
ここは、あの木を切った後、置きっ放しにしていた場所だ。
足を、つっこんだのは、その枝と枝の間だった。

枝は、足に絡みつく。抜けない。
もがいても無駄だった。複雑な枝は足にしっかりと、絡み付いている。


叫んだ。このままでは...誰にも見つからないままだとしたら...
この寒さの夜に、朝まで、ここにいないと、いけないとしたら...


その時、一本の林檎の枯れ枝が舞って来た。

そして、唇に口づけをすると、飛んで行った。

..............

ま、ようするにですね。なんで、このそれほど、面白くない作品集を紹介したかと言うと、
この一編が、ディックの『萎びた林檎』の元ネタかな?と思ったもんで、この作品集を紹介した訳です。

この辺りが、ディックファンの性です。

記:2013.01.10


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三分 小説 備忘録

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