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デュ モーリア傑作選  - 創元推理文庫(2000)
デュ モーリア傑作選

恋人 デュ モーリア傑作選 The apple tree(1952) daphne du maurier 訳:務台夏子 のあらすじ

除隊した。それで、それまでの仕事を活かし、自動車修理場に入った。

映画館に行くと、入口にいる案内嬢が気になり、声をかけた。
「これは、どんな映画なの?」
「ナイフさばきが、まるで素人。居眠りしているべきね」

「それじゃ、見たい映画も見たく、なくなるじゃないか」
「私は宣伝担当じゃないもの」

「じゃあ、席まで案内してくれ...なんだ。雰囲気は、なかなか良さそうな映画じゃないか」
「今、映っているのは次の上映の宣伝よ。見たいなら、来週来たら?」

案内嬢は戻って行った。良く見ると、アイスクリームのトレイを持っている。
もう、一度、呼んだ。

「アイスクリームをくれ」
「ウェハース?それともコーンアイス?」
「どっちが君の好みだい?」
彼女は肩をすくめた。
「...コーンの方が溶けづらいわ」
彼女は、アイスクリームを渡す
「君もどうだい?」
「いえ、結構。作っている所を、うっかり、見ちゃったのよ」

アイスクリームは、すぐに溶け出した。もう、手はベトベトだ。
こりゃ、ウェハースでなくて、正解だった。


西部劇が始まった。しばらくすると、どこかで香水の臭いがする。
どっちからだ、右か?左か?後ろからか?
「きょろきょろしてると、1シリング無駄にするわよ」
彼女だった。しかし、小声だ。近くにいるのは、間違いない。


終わると、外で彼女を待った。彼女は一人で出てきた。俺は後を付けた。
彼女が乗ったバスに、飛び乗った。

彼女が後ろの席に座り、すぐに眠り出した。切符を2枚買って、隣に座った。
彼女が起きた。2枚の切符を見せた。
「あら、あなたなの。タダでバスに乗れるなんて、今日はついてるわ。墓地の手前で起してね」
彼女は、また眠り出した。


ふと、持ち金が気になった。しまった。金が余り無い。この先、帰る事も出来ないぞ!
ポケットを探ってゴソゴソしていると、彼女が起きた。

「...船を揺らさないでね...」
「いや、帰りのタクシー代を探していたんだ」
「足は、ないの?私には、あるわよ」
そうか、そんな事は、たいした事じゃなかった。

「まだ墓地は、通り過ぎていないよ」
「何処の墓地でも良いわ」
「え?墓地は幾つもあるの?」
「あたし、おしゃべりな人は好きじゃないの」
おしゃべりが、好きって事ではないが、良くしゃべる方かもしれない。
しかし彼女とは話さなくても、良かった。肩に手を回しているだけで。


バスは止まった。

「みなさん、お降り下さい」
邪魔しやがって、運転手め!首を絞めてやろうか!

「ほら、さっさと降りるわよ」
彼女が靴を蹴った。

雨が降っていた。見渡す限りの墓地だった。

「ここの事?」
「かもしれないわね。まずコーヒーを飲みましょう」

(まず...とは?)
店に入ると、バスの運転手と車掌が、先にいた。サンドウィッチを食べていた。二人は喋っている。

「...だから、女にスポーツなんかさせるから、いけないんだ」
「ああ、男女平等って奴だな。おまけに、選挙権まで、くれてやるそうだ…」


「さ、もう行きましょ」
「え?もう、コーヒーを飲み終わったんだ?」

外に出た。
「ねえ。これから、どうする?」
「墓地は平らでしょ」
「平らなら、何が良いんだい?」
「寝られるわ。隙間はたくさんあるし」

彼女は場所を見つけたが、引っ張り起した。
「雨が降ったら濡れちまうだろう」
その時の、彼女の眼は、まるで時計の夜光塗料の様だった。

「ここで、寝るのは慣れてるの?」
「ええ、防空壕の中では、『行き止まり穴の子供』って呼ばれてた」
「家族は?」
「死んだわよ」
「映画館には、どのくらい勤めているの?」
「三週間ね。そろそろ、別の所へ行くわ」

「あなたって、可愛い顔をしてるわね」
「彼氏はいるの?」
「いないわよ」
「僕の下宿へ来ないか。食事も美味いし、ラジオを聴いたりするのは楽しいよ。そこから&
nbsp;&nsbp 映画館に行けば良い...いや、結婚したい訳じゃないさ。僕は空軍の仲間達とは違う」
「あなた、空軍にいたの??」
「いや、電気機械技師さ。その部門の仲間は、みんな良い奴だ。キザな台詞は言わない。
nbsp;&nsbp 正直者ばかりだ。空軍って言っても、乱暴者ばかりじゃないさ」
「よかった。あなたって親切な人だものね」
「空軍が嫌いなの?」
「あいつらが、私の家を焼いたのよ」
「でも、それはドイツの空軍だろ。イギリス軍じゃない」
「違いがあるの?同じよ」

「雨が降って来た。一緒に帰ろう」
「あんたとは一緒に行かないわ。私を置いて行って」
「あした、映画館で会えるかな」
「たぶんね」
そしてキスをした。


雨の中を歩くとトラックがやって来た。それに乗る事が出来た。
家に帰ると、深夜の3時だった。下宿のシンプトンさんを起した。
シンプトンさんは、機嫌を悪くしている様だった。


翌日、修理工場へ行くと、今日は残業との事だった。

「ちょっと買い物をして来ます」
途中で、工場を抜け出して、ブローチを買い、映画館に行った。
ブローチの値段を聞いた時は、ちょっと驚いた。


仕事が終り、映画館へ行った。中で案内嬢を探した。しかし今日は別人だった。

「ねえ、昨日の娘はいないの?」
「今日はこないわ。さっき警察が来て、支配人に何か聞いていたけど…」

(しまった。あの娘は、あの後、自殺したんだ。それが、一人に成りたかった理由だ。あの時、無理にでも、
   引っ張って来れば良かった...いや、もしかすると、ただ保護されただけかも知れない...)

ともかく、工場へ戻った。後で、警察に行かないと。

「昨日のレースなんだが、取ったんだよ。しかし弱気になって、複勝にしちまった。25倍を取りそこなった」
「よかったですね」
「ほら、このレースさ。新聞見ろよ。あれ、また、やられたんだ。空軍には疫病神が付いてるな」
「飛行機事故ですか?」
「知らんのか?殺人事件だよ。空軍の兵隊ばかり、もう3人。いつも墓場で、死体が見つかるんだ。
   みんな、腹をナイフで刺されている」
新聞を見ると、昨晩の被害者は、見つかった時には、まだ意識があった。
そして、犯人の様子を話したとの事だった。


翌日の新聞で、彼女と再会した。僕に手元には、リボンの巻かれた小箱がある。

..............

なるほど、その昔、若松考二や高橋伴明(そこに、集中せんでも良いだろうが)
なんかに出てくる女性の雛形とは、これなんですね。

しかし、「空軍に差があるの?」とか、「電気機械技師さ。その部門の仲間は、みんな良い奴だ。
   (パイロットみたいに)キザな台詞は言わない」とか、目からウロコです。
ハリウッド映画なんかを見ている内に、我々が何を置き忘れて来たかが判ります。
記:2013.01.09


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三分 小説 備忘録

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