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 ピランデッロ短編集 月を見つけたチャウラ- 光文社文庫(2012) 
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笑う男 (1912)／ピランデッロ Luigi Pirandello 訳：関口英子 のあらすじ 気の毒なアンセルモ氏は、その晩も、いきなり夢から引きずり起された。 「あなた！また笑ってる！」 ぐいぐい、体を揺さぶっているのは、彼の妻だった。 「ええ？またか？」 「そうよ！毎晩！毎晩！もう！」 「聞き間違い、って事はないのかな？」 「聞き間違う、訳ないでしょ！こんな感じよ！」 そう言って、妻は、喉を鳴らして、「げへへ」と夫の真似をした。 折り悪く、調子の悪かったナイト ランプが点滅し始め、完全に消えてしまった。 アンセルモ氏は、考えた。あんな声を毎晩出されたら、夫はさぞかし心地よい快楽に身を委ねているのだ と思うのは、間違いない。しかし、その不愉快な声を聴かされたら！寝られる訳も無く、妻の苦労も判る。 そして、ロウソクに火を付けると、起きて、精神安定剤を飲み、髪を整えた。 「あたしが、死にそうなのに。あんたは髪を整えるのね。そして、あんたは笑ってる！」 アンセルモ氏は憤慨し、部屋を出た。 「お爺ちゃん」 外に出ると、孫の長女がいた。まだ８歳。 この娘の母親は、俺の息子を騙して結婚し、五人の娘を産むと、別の男と駆け落ちした。 その息子も、二年前に死んだ。 妻が不調なのも、この孫達の面倒を見ているせいでもある。 慎ましい年金暮らしのはずが、５人の子供を抱える事になった。そんな俺が、夜中に、自分だけ快楽に浸り、 にやにやしているなんて！そんな事がある訳がない！だが、妻はそれを疑っているのだ！ どんな、美女とキスしているのかしら？若いだけの、頭の悪い娘と、一夜を共に！あああ、くやしい！ そう、思っているに違いない。それは彼女の傷口に塩を塗る行為だ！ 彼は、孫に言った。 「あのなあ、スージ。爺ちゃん、寝ながら笑っていたんだ」 「また、今晩も？」 「ああ、それで婆ちゃんに、怒られちまった」 長生きはするもんじゃない。いや、長生きしたから、今、俺は俺の精神を哲学の領域まで高められたんだ！ いつかは報いをくれる神を信じ、心の平安を求める、なんて．．．そんな幼稚な事は、もう信じない。 善意への信頼は忘れないが、全ては成り行きとして、流せる俺．．．それなのに？ 神は信じない。だから悪魔も信じなかった。だから、夜な夜な悪魔が自分の体を乗っ取って、笑っているとも 思えない。ましてや、自分が快楽の夢を見ている事など絶対にない。だから、自分は病気なのではないか、と思った。 アンセルモ氏は神経症を専門とする若い医師に相談に行った。 この医師は専門が神経症だけあって、自分の髪の毛も抜け落ちていた。 若い医師は言った。 夢を見ずに寝ながら笑う事などない。 あなたが、幸せな夢を見て笑っている事は、確かです。 なんと、言う事か！ しかし、アンセルモは考え直した。 これは、俺の悲惨な人生が、せめてもの報いのために、 俺の知らない所で、埋め合わせをしてくれてるんじゃないのか？ そう、思うと少し楽になった。 家に帰ると、孫娘が、アンセルモの夜中の笑い声を、婆さんから習っていた。 「げへへ、げへへ．．．」 その笑い声は完璧で、婆さんは感心した。 婆さんがぽつりと、言った。 「あんたは、どんな楽しい夢を見てるんだろうね．．．」 しかし、アンセルモを、がっかりさせる事が起きた。 彼は、たまたま、夕べの夢を覚えていたのだ。 足の悪いトレッラが階段を登っている。その後ろから所長のリドッティが登って来る。 階段を、のろのろ登る邪魔なトレッラに、リドッティは邪魔する。 トレッラも負けてはいない。這いつくばって、リドッティを蹴る。 リドッティは、その蹴りをかわして、トレッティの尻を杖で一突き。 哀れ、トレッラは、ゴロゴロと．．．．そこで眼が覚めた。 なんと！こんな、くだらん夢で、毎晩、笑っていたのか！ 俺の哲学的精神は、どこに行った？？ もう、夢で笑う事もないだろう。 ．．．．．．．．．．．．．．
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三分 小説 備忘録 [どんな落ちだっけ？] |
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