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宇宙の妖怪たち - 早川SFシリーズ
宇宙の妖怪たち


倦怠の檻 The Beast of Boredome リチャードRスミス Richard R Smith (1958)訳:都筑道夫 の あらすじ

人類の偉大な業績は、結局最後には、戦争につながる。

コロンブスはアメリカ大陸を発見したが、インディアンと戦争になった。

原子力を制御した人類は、それで原子爆弾を作り、戦争に使った。

実用化された宇宙旅行は、火星人との戦争を引き起こした...。

個人的には、今回の火星人との戦争に大義はないと思っている。
滅びかけた火星の文明を再建すると言う目的が、火星人の虐殺に変わってしまったのだから。

何故、俺達は、彼らを放っておかないのか?
そんな、『哲学的』思考をしながら、俺は小屋に近づいた。

小屋に飛び込むと、
「ギャーッ!」と大声を上げた。

奴らを、ビビらせるためだ。

薄暗闇の中。奴らは隠れている。
俺は、神経を集中する。

ひからびたような手が、暗闇から、そうっと持ち上がった。
火星野郎の腕だ。その先には、何かが握られていた。

武器だ!

俺は、その辺りに、ライフルを続けざまにぶち込んだ!

青い血を流し、横たわった火星人を探って、俺は気がついた。
間違いだった。

奴が差し出した物は、宝石が散りばめられた金属球だったのだ。
きっと、奴は、これを見せて、命乞いをするつもりだったのだろう。


俺は、地球へと戻って来た。ホテルの14階に泊まっている。
ナイフを使い、金属球から、5個のルビーを取り外している最中。

最後の1つ。一番デカイ奴を取り出すときに、指を怪我した。
バスルームでヨードチンキを付ける。

その時、とりはずしたルビーが転がり、テーブルから落ちた。

俺はびっくりした。1秒前にバスルームにいたのに、今はテーブルの前にいる?
俺は一体、どうしたのだ??指のヨードチンキはどうした?

俺はバスルームに戻った。ヨードチンキを塗りに。そして10分が経った。
ルビーがまたテーブルから転がって、床に落ちた。

俺は、またテーブルの前に座っていた。さっき塗ったヨードチンキは、また無い。


俺は混乱し、火星の伝説を思い出した。
火星の刑罰。時間の檻。

いわばタイムマシンだ。 火星では、兇悪犯は刑の執行の際に、時間の檻に入れられる場合がある。

犯罪者は時間の檻に囚われてから、火星ライオンに食われる。
死んだ後、時間は戻り、犯罪者はライオンに食われる前に戻る。

もう一度刑は執行され、ライオンに食われる。また時間は戻る。
この永遠の刑罰を執行されると言う。

宝石は、俺を時間の檻に閉じ込める罠だったのだ。


テレビを点けると、10分毎に、ニュースが繰り返されていた。
キャスターはその事に全く気づいていないのである。

これは、俺だけの檻なのだ。

このタイムマシンを壊そうと、何とかやってみたが、10分の間に壊せる
代物ではない事がわかった。

幸いにして記憶は残るので、部屋中の雑誌を読んだ。心の中に栞を挟みながら
雑誌を隅々まで読むことができた。

幾ら雑誌を読んでも、疲れて眠くなる事はなかった。
体は10分置きに、リフレッシュされているのだ。

キッチンで、けっして減らない酒を飲んだが、10分では酔う事は
出来なかった。

退屈で友人に電話をかけた。友人は、何度かけても嫌がらなかった。
毎回が彼には、初めての電話なのだ。

それに飽きると、電話帳をめくり、片っ端から電話をかけて、
見ず知らずの他人と話をした。

女の子が出ると、デートの約束を取り付けようとした。
ご主人が出ると、車のセールスマンに早変わりした。
奥さんが出ると、ありもしない掃除機を売り込んだ。

1年もすると、
かなりの売り上げを誇る優秀なセールスマンと、デートの約束だらけの
プレイボーイになった。

誰か他の人間に、直接、会いたくなった。
隣の部屋を探ると、シャワーの音がした。

フロントで確認すると、メリイと言う女性だと判った。
俺はメリイに電話した。

彼女は出た。
「こちらは警察です。メリイさん。貴方はカレッジを卒業していますね」
「はい」
「それは、どこですか?」
「デラウェア大学ですが」
そこで、元に戻った。

また電話をした。
「メリイかい。ハリイ オクデンだよ。デラウェア大学で一緒だった」
「ハリイ オクデンそんな人は知らないわ」
「いや、僕は覚えているよ。君のブロンドは綺麗だったな」
「私はブルネットよ。人違いだわ」

また電話した。
「メリイかい。ハリイ オクデンだよ。デラウェア大学で一緒だった」
「ハリイ オクデンそんな人は知らないわ」
「いや、僕は覚えているよ。君のブルネットは綺麗だったな」
「あら、ありがとう...」


何度も何度も、電話をかけ、メリイの事を知った。
最後には、彼女が、ただハリイの事を忘れているだけだと、
信じるまでになった。

「ところで、メリイ。僕は今、君の部屋の隣にいるんだ。会えないかな?」
「いいわ。じゃあ髪を乾かすから10分待って」

10分!
俺とメリイは、絶対に合えない運命らしい。

そうだ!
俺は、窓から身を乗り出し、メリイの部屋の窓をノックした。
「ハリイ オクデンです。覚えているでしょう?」

しかし、メリイは叫び声を上げて、警察を呼んだ。
彼女は覚えていないのだ。

メリイ...俺の事を忘れないでくれよ...。


ルビーはテーブルを転がり床に落ちる。

部屋を探し、古いタイプライターを出して小説を書き始めた。
ちっとも、完成はしなかったが、楽しかった。

チェスをしてみた。
トランプも。

火星人のくれた刑罰に対抗すべく、暇を潰す。
倦怠の檻に閉じ込められない様に。


もう30年ほど経つ。
ここ1年ほどは、頭が痛くなって来た。

それから、さらに、10年、20年。

時間の檻に閉じ込められてから、もう50年、それとも100年か。

俺は気がつく。
俺の体を、蝕んでいるものの正体を。

それは、記憶だ。この頭の中に入りきらない記憶。
それが重く、俺の頭を押し潰そうとしているのだ。

これが、火星人の復讐だったのだ。

俺は、記憶の重みに、押し潰される頭を抱え、痛みに耐え、咆哮をするのだった...


..............


原題は、「退屈の檻の野獣」ですから、そっちの方が良いですね。最後の「吠え」!
短時間のリプレイ=「シャックリ現象」は、昔、筒井康隆さんが書いてましたね。
あっちは、世の中全体に記憶がある、と言う設定でした。

ただ、不気味さはこっちの方が強そうです。

記:2011.08.22

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三分 小説 備忘録

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