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宇宙の妖怪たち - 早川SFシリーズ
宇宙の妖怪たち


くだらぬ奴 Triflin' Man ウォルターMミラー Walter M Miller Jr. (1955)訳:井上一夫 の あらすじ

雨の日。

町外れの小屋の中で、ルーシーは唄を歌っていた。
子供と二人暮らし。子の名はドゥーディ。

ベッドの中のドゥーディが、痙攣していた。
「かわいそうにドゥーディ。すぐに良くなるよ」

「触らないで!」
激しい苦痛。そのドゥーディの心に、声が広がる。

(息子よ、もう少しの辛抱だ)
「お父さん...くるしい...もう、この怪物たちの所から...助けて」

「ドゥーディ!誰と話してるの?」
ドゥーディは意識を失った。

激しい痙攣と意識の喪失。
”憑き物”のせいだ、と言われた。そんなものが、あるか!

ドゥーディが起きた。
「ねえ。お父さんはいつ帰って来るの?」

「お前のお父さんは死んだんだよ。何度聞くんだい?」
「嘘だ!お父さんは生きている。今だって、僕に話しかけて来た」

「僕は知ってるよ。お父さんが教えてくれた。僕は半分だけ人間なんだ。
   父さんは人間じゃない!」
「父さんは人間だよ。死んだだけだ。もういないんだよ」

「父さんはいる。外の世界に、そして帰って来るんだ!」
「お前は父さんを見た事がないだろ?父さんは人間だよ」

「父さんは、人間の振りをしていただけだ!」
「お前は熱に浮かされて、幻を見たんだよ」

「父さんは言っていた。この僕の病気も、人間から父さんみたいな体に
   なるための変化で起きているって。その変化ももうすぐ完成するんだ」

「じゃあ、聞くよ。父さんは一体、どこで暮らしてるんだ」
「この世界の外さ」

「じゃあ、霊だね。牧師さんに来て貰おう」
「霊じゃないよ。霊は人間だろ。父さんは人間じゃないんだ」

「じゃあ、何で、人間じゃあないものが、私と子供を作ったんだい?」
「調べるためさ。僕の目、僕の気持ち、それを使って、人間の事を調べるためさ。
   スパイみたいなもんなんだ、父さんは。スパイが地球の事を調べて、それから、
   占領軍がやってくるんだ。この地球に」

「じゃあ、お前は悪魔の子じゃないか!発作を起こし、体は病弱。言うことはデタラメ。
   お前はかあさんを悲しませてばかりいる!」

ルーシーは、泣き崩れた。

「かあさん、泣かないで。お父さんは人間よりも、ずっと優れた物だ。
それに僕も一人ぼっちじゃない」
「お前には仲間がいるのかい?」

「ああ、白人。黒人。黄色人種。父さんは世界中の貧しい人間達に子供を産ませたんだ。
   僕もその一人。それに僕は、そいつらと話が出きるんだ。これでね」

ドゥーディは、額の”できもの”を触った。

ドゥーディの顔は、愛らしかった。額にある大きな”できもの”さえ無ければ。

ドゥーディが仲間外れにされているのは、父なし、貧乏、病弱、それに、このできもの。
しかし、彼にとっては、この”できもの”は父とのつながりなのだ。

夜になり、雨が強くなって来た。
ルーシーはお祈りを捧げた。

ドゥーディは言った。
「今晩、父さんは帰って来るよ」
「こんな雨の日に出歩く者はいないよ」
「でも、来るんだ。そう言っていた」

「仮に、父さんが帰って来たって、家にはいれないよ!」
「かあさん、父さんが話しかけると、人間は死んでしまうんだ」

「そんな馬鹿な事があるかい」
「本当だよ。だから僕が必要なんだ。父さんは僕に話しかけて、僕が母さんに説明する」

ルーシーは、納屋から鳥打銃を持って来た。
「かあさん、何で銃なんか出すの?」
「山猫さ、夕べ山猫が出たんだ、裏庭に。今日は仕留めてやる!」


ルーシーは今まで、ドゥーディの言葉を信じてはいなかった。
軍隊が、攻め込む前に、その国の女を孕ませ、スパイにするなんて!

たわ言だ。


その夜。ドゥーディが眠った後、ルーシーは銃を持ち、外に出た。

ルーシーはドゥーディの父親の事を思い出していた。
ただの人間、つまらぬ男...のはずだ。
実は良く覚えていなかった。

その夜。ルーシーは、玉蜀黍酒を飲んで酔っ払っていた。
男の顔も、実は、もう覚えていない。

「神様、お許し下さい!」
ルーシーは闇夜に祈った。

そして、小屋に戻ると、家から紫色の光が出ているのが見えた。
中からはドゥーディの声が聞こえた。
「父さん...もうだめだ...苦しい...」

ルーシーは小屋へ近寄った。
小屋にはおかしな所は、何もなかった。
いや、良く見ると、雲のようなものが、揺れていた。

渦、雲、紫の色。まるで、空中を泳ぐクラゲ。

雲は形を造り、人間の姿が現れてきた。

ルーシーは銃を構え、叫んだ。
「こら!うちの子に手を出すんじゃない!養育費なんていらないよ!」

その影はルーシーに近づいて来る。
「寄るんじゃないよ!行っちまえ!」

ルーシーは銃を打った。

それは地面に倒れ、光が辺りに煌いた。
そして、風が吹くと、吹き消えるように、なくなった。

「ふん、お前なんか、つまらん男さ。たとえ人間でないとしても、
あたしと息子には必要ない奴さ」
小屋に入ると、ドゥーディは安らかな顔で寝息を立て、眠っていた。


−報告書。第六偵察班より
偵察員は原住民の武器により破壊された。
原住民との接触法は断たれた。計画は延期する事が望ましい...


..............


あれ?黒人の方は?黄色人種の方も、いるんじゃないんだっけ?
いや、でも、このオチは、ずいぶんと蛇足ですよね。
「報告書」の件は、全くいらない。


記:2011.08.14

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三分 小説 備忘録

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