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終点:大宇宙! - 創元SF文庫(1973)
終点:大宇宙!


1缶のペンキ A Can of Paint A.E.ヴァン ヴォウト 訳:沼沢洽治(コウジ) 1973の あらすじ

着陸ロケットは炎を吹き、ロケットは金星の草むらに着陸した。
キルガーは、ゆっくりと息を吸う。「ここは楽園だ」

そして、メモに感想を書く。初めて金星に着陸した人間の手記は高く売れるに違いない。
メモをしまうと、その立方体に気が付いた。

草むらに、それは転がっていた。

半透明の結晶体。取っ手が一つ付いている。1つの辺は20cm。
何だ、こりゃ?

試験機で調べる。
電子反応ゼロ。放射能なし。酸には無反応。

しかし、どう見ても人工物。つまり、金星には知的生命がいる訳だ。
探そう!しかし、この箱は、私が見つけるために、ここに置かれたのでは?

その時、彼の心で、声がした。

《私は1缶のペンキです》

誰だ?この箱が… 箱に触れる。

《私は1缶のペンキです》

疑いは無い。これだ。ラベルは貼っていないが、代わりに自己紹介するペンキ缶だ。
凄い!これで、この金星旅行は、元が取れたも同然だ。

キルガーはペンキ缶を持ち上げた。その時、缶からペンキが噴き出した!

白、続いて、赤、黄、青、すみれ色 …
服はびっしょりだ。しかた無くキルガーは服を脱ぐ。

だが、脱いだ服には、ペンキは全く付いていなかった。ペンキは全て、彼の体に移動していた。
シャツで拭おうとするが、ペンキは一つの層に、なっており、全く拭う事が出来ない。
何だ、こりゃ?キルガーは宇宙船に戻った。

『家庭の医学』が役立つとは思わなかった。そこには、こう書いてあった。
『肌に付着したペンキを取るには、揮発油を用いる』

キルガーは揮発油を手ですくい、肌に塗ろうとした。しかし塗る直前に、揮発油は全て、
彼の手をすり抜け、地面へ滴った。まるで、ペンキとの接触を避けるかの様に。

では、ガソリン、ワイン、水、最後は液体燃料!
しかし、どれもペンキとの、お付き合いは、お断りだった。???

風呂に湯を張って入って見る。今度は、ペンキの方が、水を避け、頭に上って来た。
ペンキ塗れの探検家。もしかすると、今の俺は、太陽系一の間抜け男かも知れない。

それに、このまま、眠ってしまい、もし、口や鼻を塞がれでもしたら、俺は、窒息だ!


キルガーは、このペンキを調べた。完全防水、完全断熱、完全耐性の、完全ペンキであった。
そして、ようやく圧力スプーンで、こさじ半分づつ、このペンキを、すくい取れる事を発見する。
よし、と彼は、その作業に没頭した。必死に作業を続け、気が付くと、バケツの半分がペンキになった。

よし!と自分の体を見て見たが、何も変わっていない。
どうやら、このペンキは、一度付着すると、自己再生するらしい!

もう仕方ない。この上は、金星人を探して、これの溶剤を手に入れるのだ。
イタズラにかかった間抜け、の称号を与えられても、もう問題じゃない。

しかし、金星人は、どこにいる?ああ、誰が口が聞ける奴がいたら!
え?口が聞ける奴?いるじゃないか、あの缶だ!


キルガーは、あの缶の所に行った。
《私は 1/4缶のペンキです 》頭の中に声がする。続いて、
《使用方法:まず制御剤を塗布部に塗る。そしてペンキ塗布。即乾性。除去する場合は、
最寄の金物店で、暗化剤を塗布し、1テラードの間、押し付ける事》

なるほど、世の中、全て、理屈で出来ている。簡単なものだ、では、早速、金物屋へ。
いや、いや。では、この成分は?

《政府規定により、この成分は、◇○×☆7%、★●■◆13%、液体光線80%》
何?何?最後は液体…???なんだ、そりゃ??

《このペンキを揮発性物質の近くに置かない事》
この注意は何だ?さっき、充分、近づけたが、特に何も起きなかったじゃないか?
全く無影響だった。残った液体燃料はロケットに戻したし…

キルガーはロケットのエンジンを点火する。
しかし、何も、音がしない。影響を受けたのは、揮発性物質の方だったのだ!
これじゃ、もう地球に帰れない!

後は、暗化剤だ。もしかすると、夜になると…では、待ってみよう。


確かにペンキは光った。まるでネオンサインだ。きっと、遠くから見ると、
俺の姿は神々しいんだろうなあ。しかし、このまま、脱出も出来ずに死んだら…

ああ、金星人の奴等め。一体、どこにいるんだ!
キルガーは無線のスイッチを入れる。一体、奴等は、何処にいるんだ!

「あああ、地球人、地球人、聞こえるか?地球人、聞こえるか?地球人、聞こえるか、あああ、地球人…」
「き、聞こえるぞ!」キルガーはマイクを掴んで叫んだ。
「助けてくれ!大変な目に会っているんだ!」

「知っている。だが、助けるつもりはない。ペンキを投下したのは、私達だ」
「どうして?」
「我々は君達の事を良く知っている。我々にも宇宙旅行の技術はあるが、我々の新陳代謝は早く、  
宇宙旅行には適さないのだ。我々は君との接触に当り、君をテストしたい。今回のテストを基準として、  
これをクリア出来るレベルの人間とだけ、我々は付き合おうと思う。では、幸運を祈っているよ」

無線は消えた。それよりも、キルガーは自分の体熱で死にそうだった。
ペンキの保温性は完璧で、キルガーの体温は逃げ場がない。さっきからペンキのない足を、
水を張ったバケツに入れているのだが、体温の上昇は、止まらない。

キルガーは必死で考える。暗化剤。では、暗闇ならどうだ?液体光線を吸収する完全な闇なら?
キルガーは30分。燃料タンクに入って、入口を閉じる。

しかし完全な暗闇が、答えならば、このタンクの中の燃料は、ペンキからの影響が消えているはずだ。
しかし、燃料はまだ着火しない。他の原因もあるのだ。

絶縁?これだ、ペンキは一度、光を蓄えると、それで発光する。
暗闇のタンクの中でも、それは光り、壁へ反射し、自分に戻る。
自己発光し、吸収しているのだ。

どうすれば良い???


1ヶ月後、地球に帰るキルガーの船に、これから金星へ向かう船から無線が来た。
「あんたが、金星人のテストにパスしたキルガーか?さぞかし、頭が良いんだろうな」
「いや、俺は度胸だけの男さ。地球人の99%はパスするよ」
「あんたは、どうやってパスしたんだ?」
「光電管とバリウム塩さ。それをタンクに持ちこんだら、ペンキの光を吸収してくれて、
すぐにボロボロに落ちたんだ。燃料も元に戻った。じゃあな。俺には地球で仕事があるんで」
「何の仕事をするんだ?」
「このペンキの独占販売さ。今度は、これで儲けなくちゃ」


..............

さて、この落ちに解説は要らないんでしょうか?もちろん原文には無いし、邦訳文にもないのです。
ここでは、多少は省略していますが、ほぼ元の説明そのままです。
 この意味が判るためには、ある程度の、それも歴史的な、電子回路の知識が必要となります。
つまり光電管と言うものを判らないといけない訳ですね。

 その前に、このペンキの特性を、おさらいしましょう。80%が光そのもの(液体光線)で、これは、周囲の光を自動的に取り込む。
また自分でも発光し、自己吸収する。だから、暗闇に入れても消えない。ここから、光を抜けば良い訳ですね。

 さて、光電管とは、電子工作をする人には基本的な部品。光を電気に変える部品です。だから、暗闇の、新たな光がない状態で、
光を電気に変えて、電池(バリウム塩で作った)に吸収させた。光線は全て電気に変わり、光の無くなったペンキはボロボロになった
と言う事だと思います。

 しかし、ここでヴォウトはちょっと勘違いをしているのか、そうではないのか、一般的に光電管と呼ばれる物で我々の手に入るのは、
管のタイプではないCDSと言う奴です。これは、実は、電圧を発生するものではなく、抵抗値を変化させるものです。
 電子工作としては、どちらでも、光量の大小検知が出来るので良いのですが、今回の目的には使用できない。
しかし、このCDSは、元々あった、管=真空管タイプとは違います。電極に光を当てて、電子を飛び出させると言う、
本来の、光電管でないと、無理な訳です(素直に、太陽電池にすれば、今回の目的にはぴったり、なんんですが…)

 ま、それ以前に、そもそも、光がタンクの中の壁に当れば、その内の何割かは熱に変換されるので、そんな装置より
タンクに入れて置いた方が確実!なんですけどね…


しかし、着陸点にあった立方体。なんか「度胸星」を思い出します。

→この後、原文、確認しましたら、photo-cellでした。これまた、微妙ですね。素直にsolar-cellにして、くれれば良いのに…
  で、電子管式の光電管も調べましたが、原理は、発電ではないですね。トランジスタのベース部の先に
  光量の検出部が付いてるイメージです(光が当ると、電子が飛び出る)。ですから、これはヴォウトの間違いでした。

記:2013.06.05

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三分 小説 備忘録

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