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海外版 怪奇ファンタジー傑作選 - 集英社文庫 (1979)
怪奇ファンタジー傑作選


骨 Skeleton ブラッドゥベリ Ray Bradbury 訳:宇野利泰 の あらすじ

骨が痛い。
また、医者に通う。もう10回目だ。むこうも、うんざりだろうが、こっちだって...

バーレイ博士はハリス氏の顔を見た瞬間、が、と鼻をならした。
「まだ、骨がお痛みですか?しかし、現代の最先端治療は、全て処置済みで、あなたの場合は、『神経過敏』と申しますか、
   精神の...ああ、その目は、充血して...睡眠不足ですな。それと、この腕の感じでは、タンパク質の取り過ぎです。
   もう少し野菜を増やし、あとは...何か、楽しみを見つける事ですよ。何かに夢中になれば、骨の痛みなんぞ、
   吹っ飛びますからね、ははは...ああ、旅なんて、どうでしょう。気分が晴れますよ!」

病院を出たハリス氏は、電話帳を探した。自分にぴったりの医者を探すのだ。
そして見つけたのが、ムニガン氏、正規の医者ではないらしいが...
診療所は小さく、暗かった。

ムニガン氏は、診察を終え、説明を始めた。
問題は骨格である。人は自分の骨格を意識してはいないが、問題は骨格である。アンバランスが原因である。
問題は骨格である。精神と骨と肉の相関であるが、問題は骨格である。

問題は骨格である...ムニガン氏の口から、シューシューと雑音の混じった言葉が何度も発せられた。

問題は骨格である。

ハリス氏は引き付けられた。そうだ、問題は骨格なんだ。

そして、ムニガン氏は人体骨格図を壁に投射した。

大きな骨、小さな骨、あそこにも、ここにも、骨髄を含んだ骨が、石灰とカルシュームが、人体の中にはある。

ハリス氏は口を開いた。
「それで、どんな治療を?」

ムニガン氏はハリス氏をベッドに寝かせた。そして、口を開けさせると、腕をハリス氏の口の中へ。
それから、グイと何かを引っ張られた。ムニガン氏は顔を近づける。

顎だ。顎の骨が...俺の顎が...
ハリス氏は、慌てて口を閉じた。

ムニガン氏は驚いた。
「あぶない、危うく鼻をかじられる所だった。残念です。あなたには、まだ治療の準備が出来ていない...
   この治療は、お互いの信頼関係が大事なのです...」

ムニガン氏がハリス氏に請求した金額は、たったの2ドルだった。
ハリス氏は人体骨格図を貰い帰った。


翌日、日曜日。相変わらず骨が痛い。
ハリス氏は、妻が骨を、ポキポキ鳴らすのを聞いて震えた。
「やめてくれ!そんな事をするのは!」
妻はキョトンとしている。ハリス氏は人体骨格図を広げた。

「君の指の骨はこれだ。君は今、これを鳴らした!そして、僕の肋骨はこれ!いつもここにある。
   でも人によっては、これを移動させる事ができる人も...」
「何を言ってるんですか?ここには遊離肋骨って書かれているけど」
「そうさ、離れているんだ。でも僕のは動かない。それが...」


ハリス氏は体を撫でる。ここに、骨がある。ここにも。背中にもある。
体自分の体の中の骨を、人体骨格図で確認したハリス氏は愕然とした。

俺は今まで、体の中にガイコツを入れたまま、のんきに暮らしていたのだ!

骸骨、恐怖の象徴。グロテクスさの塊。
うち古びれた古城の中で、風に揺れる。振り子の様に。ぶらぶら。
あれだ!


「ねえ、ねえ、もう骨の事は忘れて、みなさんと会ってお話したら?」
妻がハリス氏に声をかけた。

「ああ...」
ハリス氏はすくっと立った。
(立った?誰が立った?俺か?いや、骸骨が立ったんだ。そいつが俺の脳を支えている。
   いつから俺は骸骨に支えられているんだ!...いや、気にするまい。たかが、カイコツじゃないか...)


しかし、パーティーで待っていたのは。骸骨だった。骸骨が髪を結い、化粧をし、微笑んで、会話をし、酒をたしなむ...
骸骨達はハリス氏を『憂鬱症』と呼んだ。


『憂鬱症』はいっそう激しくなった。
ハリス氏の頭の中は、しゃれこうべで一杯だった。
鼻の先にあるのは軟骨だ。本当の骨はもっと中。その高さが本当は相応しい。目もそうだ。本来は眼窩なのだ。
大きな丸い穴。あれが物を見る場所であって、前に突き出した形は、凡庸だ。

いったい、俺は、俺なのか。それとも骸骨なのか?俺は骸骨の僕なのか?
いや、そうではない。その証拠に、俺が動けと命じれば、この骸骨達は動く。つまり、骸骨は俺の体にいるが、
まだ戦いは五分五分だ。やつらに、乗っ取られた訳じゃない。


しかし、ある朝、ハリス氏は鏡を見て驚いた。骸骨が、俺を乗っ取ろうとしている。
ハリス氏のふっくらとした頬はこけ、骸骨がその姿を現しているのだ!

「あら、私は、あなたの、その顔が好きよ。痩せた方が健康にも良いわ」
ハリス氏は麦芽栄養剤をありったけ、飲み込んだ。骸骨にこの体を、乗っ取られてたまるものか!


ハリス氏は体重を増やそうとしたが、『憂鬱症』の彼は痩せるばかりだった。

ハリス氏はムニガン氏の医院に急いだ。
ムニガン氏は救済者だ。彼しかいない。しかし、彼に、彼に任せて良い者だろうか?

ムニガン氏は早速、手術を始めた。
ハリス氏の顎が大きく広げられた。
「今度は大丈夫です。肉体の方とは話がついています。後は骨が幾ら抵抗した所で...」

顎をつかまれ、すさまじい痛みがハリス氏を襲った。顎が外れてしまう!

激しいショックに、視覚を失ったハリス氏が気づくと、ムニガン氏はいなかった。
(ムニガン氏!どこですか!助けて!)


町角で、ある女が、彼女の前を、変わった男が、通り過ぎるのを見ていた。
男は、白いハッカの様な棒を、大事そうに、なめ、ボリボリと噛んでは楽しんでいた。

その頃ハリス氏の妻は、ドアを叩く音に気づき開けたが、そこにはだれもいなかった。そして、うっかり、クラゲのような物を
踏んでしまった事に気づいた。それが、彼女の名に似た、小さな声を上げた事も。


..............

名作に感想なし、驚嘆あるのみ

記:2012.10.30

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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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