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海外版 怪奇ファンタジー傑作選 - 集英社文庫 (1979)
怪奇ファンタジー傑作選


人花 Green Thoughts ジョン コリア John Colier 訳:各務三郎 の あらすじ

裕福な愛花家マナリング氏でも、そんな蘭を見るのは初めてだった。
珍しい蘭。どこで入手したものかも忘れた。
茎の先はゴツゴツし、まるで死人の手だ。貴重種である事は、彼にはすぐ判った。

思わず微笑が漏れた。栽培温室で、根囲いされた苗枝を見て、ニヤニヤ笑う男。
はたで見れば気持ちが悪いか?構うものか?ここは俺の観察室だ!

素晴らしい種類に違いない!その花芽は奇妙な形をしていた。マナリング氏は、大喜びだった。
しかし、同居している従妹のジェインの意見は違った。

「ただの花芽よ」

しかし、その下の巻きひげを見ろ!新種だ。
蘭は元々つる植物だったと言うが、その名残だ。これは、新種なんだ!俺が発見したのだ。

やがて、そのつぼみは小さな花を咲かせた。
それは、まるで、蠅の頭だった。

麗しい蘭の蠅の頭?そんな事はマナリング氏には、どうでも良かった。これは新種なのだ!
数日してジェインの飼い猫がいなくなった。それもマナリング氏には、どうでも良かった。
そして、二つ目の蕾が現われた。始めとは異なる形。二種類の花とは!凄い新種だ。
だから、ジェイン猫がいなくなった事も、気にしなかった。かえって、いたずらされないで、良いと思った。


その蕾が咲く事を楽しみにしていたマナリング氏に連絡が来た。ロンドンにいる不良の甥が、また悪さをしたのだ。
マナリング氏は警察から甥を預かると、「貴様の面倒を見るのもこれが最後だ!」と言い残し、観察室へ急ぎ戻った。


帰ってくると、咲いた花はまるで、猫の頭の様だった。素晴らしい花だ!
ジェインに知らせようとしたが、彼女は不在だった。
それでは、この家にいるのは、耳の遠い老いた料理婆一人だった。
この婆は、料理するだけで、あとの事は何もできない。ジェインの行き先を聞いたが、不案内だった。

夜になってもジェインは帰って来なかった。いや、翌日も、翌々日も。


ジェインの事は気になったが、マナリング氏にはもっと気になる事があった。
三番目の芽ができたのだ。それも、今度は大輪だ。素晴らしい花が咲きそうなのだ!

その時、蘭の下にジェインの服が一式落ちていたのに、何故、マナリング氏は気に留めなかったのだろう?
しかし、それも仕方ない。ジェインはヌーディスト運動の信奉者だったのである。
来客の来ない観察室は、彼女にとっても楽園であったのだ。


風呂上りに、マナリング氏が、猫の花をじっくり観察していると、この猫は、
ジェインの飼い猫そっくりである事に気が付いた。この花は、模倣をするのだろうか?いや...

マナリング氏が、体をぶるっと震わせて、ガウンを前を合わせた時はもう遅かった。
つるの巻きひげが、足元に絡み、彼の姿は土の中に消えて行った。


マナリング氏は目覚めた。気分は爽快だ。生まれ変わった様だ。
それもそのはず、人生における7つの時期、胚芽から成熟までを、数日の夢の内に経験したのだから。

そして、目覚めたマナリング氏は、下に、蠅や猫がいるのに気が付いた。隣には従妹のジェインがいた。
ジェインの顔に生き写しの花は、大輪を咲かせていた。
ジェインが口が聞けない事は幸いだった。彼女は、以前、何度も氏に言っていたのだ。

「こんな気味の悪い植物を大事にすると、ろくな事はありませんよ」


すぐに、マナリング氏は木の精である事に慣れた。苦痛ではなかった。性格もすっかり、静けさを愛する様になった。
ただ、一つだけ後悔があった。この新種の花に命名しなかった事である。

やがて、彼の唇の上に虫が止まった。それは不快ではなかった。
虫はマナリング氏の花弁の中を探ると飛んで行き、今度は、従妹のジェインの唇に止まった。

さあ、大変だ!教養人であるマナリング氏は驚いたが、どうしようもなかった。
従妹同士なのに!
お詫びの顔を作ろうと努力したが、、左のまぶたの所が少し動いただけだった。


その日、やって来たのは、二人の男だった。一人は彼の弁護士で、もう一人は不良の甥だった。

「マナリング氏の失踪が確実になったので、この家はあなたの管理になります。こちらで暮らされたらいかがです?」
それを聞いてマナリング氏は、恐怖に怯えた。
あの甥が、子供の頃に、虫や花、動物を、蹴散らして楽しんでいた、あの甥が、こんな所で暮らすとは?

甥は、喜んで承諾し、机から金を探し出すと、早速、町へ繰り出して行った。しかし、観察室の電気を止めて置く事を
しなかったため、マナリング氏もジェインもその晩は、ずっと光を浴び続け、ぐったりしてしまった。

管理の悪い観察室は、ネズミが出入りした。かわいそうなジェインはネズミに齧られる所だった。

そして、甥がやって来た。
ウィスキー瓶を抱えた甥は、観察室を一周し、蘭に目を留めた。
「なんだ、この花は?猫そっくりじゃねえか!」

マナリング氏は冷や冷やした。甥の目に、この花が見つかったら!

「あれ?おじさんじゃないですか?へええ、なるほど、そう言う訳か。ああ、ジェインも一緒か」
甥は、花の元の氏のガウンを目ざとく見つけ、理解した。

そこに、蘭は、つるを伸ばした。
「おっと!あぶねえ、あぶねえ、ははあ、こいつにやられたって訳か」

つるは甥の脚を捕らえたのだが、服の上からだったので、絡め取るまで出来なかった。脚は素足でないといけないのだ。


甥は出て行った。一難、去ったがマナリング氏は、気がきではなかった。
あの甥のこと、はさみを持ち出して、蘭を剪定してやるなどと、言い出しかねない!


しかし、甥がまず行ったのは、、料理婆を追い出して若いメイドを入れる事。それも、その筋の商売女にしたので、
彼らは、ジェインの目の前で、とんでもない事を始めた。かわいそうなジェイン!


しかし、本当に恐ろしい事が起きたのは、
マナリング氏がジェインに、ロンドンから甥の状況について出した手紙を、甥が見つけてからだった。

「なになに...競馬狂いの能無し?...役ただず?あの野郎、こんな事を書いていたのか?」」
運悪く、机の上には大きな鋏があった。

ある種の鯛は、捕まると泣くと言う。恐怖に叫び声を出す蛾もいると言う。
では植物はどううか?泣き叫ぶ植物はいない。昨日までは。


..............

コリアの名作?...ですが、冒頭ですので...

記:2012.10.22

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三分 小説 備忘録

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