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機械仕掛けの神 - ソノラマ文庫(1984)
機械仕掛けの神


機械仕掛けの神 Deus Ex Machina リチャード マシスン 訳:仁賀克雄 1984の あらすじ

カミソリで皮膚を傷つけて判った。

その日までロバートは平凡な人間だった。鉄道会社の経理部員。34歳。妻に二人の娘。
下の娘はまだ5歳。まだ洗面所の鏡に背が届かない。

ロバートは喉に毛を剃ろうとして、不安定な姿勢になった。そして下の娘用の踏台につまずいた。

転んでしまった。カミソリは彼の喉の皮膚を切り裂いた!

「パパ!どうしたの!」

娘が飛んできた。立ち上がったロバートは鏡を見て衝撃を受けた。喉首からしたたる血。

「パパ!大丈夫?」
「ああ、大丈夫さ」
しかし大丈夫ではなかった。鏡を見てしまったから。鏡の中のロバートの喉からは、赤ではなく錆び色のオイルが
流れ出していたのだから。

傷口を鏡に近づけて見た。そして、彼は見てしまった。傷口の中の赤いワイヤーを。

タオルを喉に縛り、ロバートは自分の顔を触って見た。口に指を入れた。耳を触って見た。おかしな所は何も無い。
おかしな所は何も無いんだ。

しかし、目尻をそっと押さえると、一滴のオイルが滲み出てきた気がした。


「ロバート!早くして!遅れるわよ」
妻の声がした。慌ててタオルを洗濯物の山に隠した。

「私も遅れちゃう!」
娘もやって来た。

「これなあに?」
娘が洗面所に垂れたオイルのしずくを見つけた。
「何でもないさ」
ロバートは、そっと拭き取った。


こっそりとバンドエイドを貼ると、ロバートは寝室に行き、ドレッサーの鏡に自分の姿を映していた。
自分の体。血液検査だってしている。歯も治療した。扁桃腺だって切った事がある。俺は人間だ。
体の中には血液が流れているんだ...

「ロバート!どうしたの?遅れるわよ!」
妻が入って来た。ロバートは慌てて背広を来た。ネクタイを締めた。そして、鏡に全身を映した。
(よし!これなら、どう見ても人間だ!)


食卓に着いた。
「転んで、怪我をしたの?何、そのバンドエイド?血が滲んでいるわよ」

「いや、もう大丈夫だ」
ロバートは慌てて、喉を押さえ、会社へと出た。妻に見られてしまった。血ではなくオイルに滲んだバンドエイドを。


ロバートは地下鉄の駅へ降りて行った。そして、人間達を見回した。彼らは皆、血を体を、魂を持っている。
新聞の見出しが目に止まった。正面衝突で、三人死亡。交通事故、俺が会ったら、辺りにオイルが流れるのだろう。

いったい、何の得があるんだ。本人も気づかぬ内に人間とロボットを入れ替える。
面倒で、それでいて、傷一つでバレてしまう。馬鹿な話だ。ある訳がない。
そしてロバートはガムを噛む。その時彼は感じた。自分の体の中で、歯を動かすメカニズムがゆっくりと動いている事を。


地下鉄の車両に乗る。喉に手を当てる。まだオイルが滲んでいるようだ。その時脇の男の手の絆創膏に気づく。

黄色い液...オイルだ...こいつも。


一体、置き換えは何時、行われたのだろう?夕べの内か?一体、何人の人間が、置き換わったのか?


バーで一人、スコッチを頼んだ。こんなものを飲んで回路がショートしないのだろうか?

あの日から家には帰っていない。ロボットになった俺を家族は受け入れてくれるのだろうか。それが不安で帰れなかった。
そして、数日が経ってしまった。

バーテンがコップの氷の上に、ウィスキーを注いだ。ロバートはコップに口につける。

そして、気がついた。これは、オイルだ!


辺りを見回す。あっちの男、こっちのカップル。誰の手元のコップの中にも...オイルだ。こいつら、全員、ロボットだ!

彼は店を飛び出した。

こんなにたくさんの、ロボット達。この国はどうなってしまうのだろう?農業は、畜産は、まだあるのか?
いや、あるに違いない、自分はリストの上に乗っていたのだ。
リストの始めは医師だろう。そして葬儀屋、警察官も上のほうだ。人々はどんどんと、置き換えられている。

ロバートはホテルに駆け込んだ。この社会はどうなってしまうのだろう?
ふと、引き出しに中の聖書が気になる。あそこには、何と書かれているのだろう。

いや、もう既にロボットが書いた物と置き換わっているのだろう。
ロバートはポケットからガムを取り出す。剥いて見ると、それはグリースだった。

開いた聖書には、こうあった。
『神は、自分の姿に似せて人間を創った』


..............

古典の一作ですが、世界がコンパクトで、判り易く、スピード感もあります。昨今のSF短編を読むと感じる
『過剰』『冗長』な感じがありません。
ちょうど、60年代のポップスが、みな3分以内でキャッチーなダイナミズがあるのに、昨今のポップスが5〜6分あり、
単調で、ギミックが繰り返される感じの違いです。

で、私は、ポップスは60〜70年代、SF短編は50〜60年代が好きです。
コンパクト万歳!

記:2012.04.24

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三分 小説 備忘録

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