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一角獣 多角獣 - 早川書房(1964の新版)
一角獣 多角獣


孤独の円盤 A Saucer of Loneliness シオドア スタージョン / 訳:小笠原豊樹の あらすじ

自殺しようとする人間は裸になるものだ。
心臓をナイフで突こうとする者は、胸をむき出しにする。
入水自殺者も同じだろうか?

私はその裸の女を救った。浅い海水に漂う女の体を浜に上げた。
まだ息があった。

気が付いた女は、私を睨みつけると、海へと走って行った。
私は、後を追いかけた。

女の髪を掴んで、戻そうとした。
女は逆に深みに私を引き寄せた。

「やめてくれ!私は泳げないんだ!」
「なら、放っといて!」

私は女の顎を強く打ち、体を浜辺へ上げた。

女は泣いていた。
「あなたは、私の事を知っているの?」
「知っています...新聞で読みました」

女は自分が裸の事に気づき、恥ずかしがった。
女は私から離れた。私は、もう近づく事が出来なかった。

そして、女は自分の事を話してくれた。


17歳の時。場所はセントラルパーク。すがすがしい空気の朝。

彼女は空を見上げた。ビル、鋼鉄とガラスの塊。この世界はまるで、
スクリーンに投影された影の様に、美しく、はかない。

そして、気づいた。頭上に円盤があった。

ツバメの様に優雅に空を舞い、機械の正確なリズムを奏でる愛らしさを持っていた。
気が付くと、回りの人も、空を見上げて何やら話をしている。

円盤は、彼女の頭上、1mほどの所で止まった。
近くの男が、彼女の方に向けて、十字を切って祈っている。

(わたしの頭に光の輪があると、思っているのだわ!)

人が増えて行く。 うれしくなり、手を広げ廻った。
周りの人にぶつかるかと、思ったが、彼女を中心に、円の空間が出来て、
彼女は、その中を踊り続けた。

時々、円盤がぐらりと揺れる。その度に、悲鳴があがる。
しかし、円盤は持ち直し、その悲鳴が、新たな群集を呼ぶ。


それから、円盤は揺れた。彼女がつまずくと、円盤は落ちた。
彼女も横たわった。空が見える。夢の様な。

誰かの声が聞こえた。
「助けてやれ!」
「どうしたんだ」「ぶつかったんだ」「殴られたって?」「ひでえ話だ」
「まだ昼間だろ」「うっかり公園も歩けねえ」

群集は去った。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?どうされました」

身なりの良い紳士が、手を差し伸べてくれた。
私は起き上がった。

「円盤がぶつかったのです」
「なるほど、それは私の仕事だ。では、こちらへどうぞ。私はFBIです」

気が付くと、警官もいた。
「共産党の奴らが仕組んだに違いない」


「では、あなたの名前、住所、所属団体を話して下さい。そして、その会の黒幕は?」
「円盤が話しかけて来たんです」

時期に、彼女は、病院へ送られた。質問は殆ど同じだった。FBIが医者に
代わっただけだった。

やがて、住まいは刑務所に変わった。
質問をされないだけ、ましだった。
「あなたは、重要人物なのです」


ある日、円盤が運ばれてきた。
そして、それを使って、あの時の状況をを再現させられた。

しかし、彼女は気づいていた。
(この円盤は、あちこちを削り取られ、死んでいる。もう空っぽだ)


一人だけ、私の味方だという人がいた。彼は言った。
「あなたが、円盤と話した事を言う必要はありません。ただ、あなたが円盤と
   話した『理由』、それだけを教えてくれれば良いのです」

『理由』を思いつくには、数時間のおしゃべりが必要だった。
子供の頃、花瓶を割った話、ワイングラス持って素敵な男の人を見る夢の話...

そして、何故、円盤の事を話したくないか、その『理由』が見つかった。

「だって、これは、私と円盤の間の事で、あなた達には関係ないでしょ!」

「しかたない。あなたには黙秘権があります。それを行使して下さい。あなたを
   救えなくて、残念です」

『法廷侮辱罪』と言うものになり、更に、時が経って、彼女は刑務所を出た。


彼女はレストランに勤め始め、素敵な男にデートに誘われた。
親しくなると、男は言った。
「僕は円盤に興味があるんだ。君が出会った円盤が何を言ったのか教えてくれないか?」

彼女は家に帰って泣いた。

それから、尾行される様になった。
不思議な曲がヒットした。その歌詞は、
「円盤が私に唄を教えてくれた、でもどんな唄かは私だけの秘密...」

家にこもる様になった。話し相手が欲しかったのに、
ペットを飼った。鉢を植えた。しかしリスも草木も、彼女には無関心だった。

彼女は、壜に手紙を入れて、海岸から流した。
これを、読んでくれる人を想像した。

拾って、その事を秘密にしてくれる人。
誰に問われても、絶対に、壜の中の手紙の事を話さない人。

そんな人を思って、彼女は壜を投げた。


「寒くありませんか」
話の終わった彼女に、私は声をかけた。

「あなたが壜に入れた手紙の内容は、どんなものですか」
「あなたも、それが知りたいの?」

「いえ、実は私は知っているのです。ちゃんと覚えています」

生き物には、言うに言われぬ寂しさがある。
生き物同士でわかちあう、それが寂しさ。
宇宙には、君よりもっと寂しいものがいるのだ

「みんな、円盤の事を知らないわ。あれは、中に手紙が入った壜なのよ。宇宙のどこか、
   寂しい寂しい孤独を抱えたものが、誰かに見つけてもらうために、流したのよ」

「私は、あなたの壜の手紙を拾いました。そして、海流や風の流れを調べ、
   この砂浜の事に辿り着いた。そして貴方を見つけたのです。美しいあなたを」

女は何も言わなかったが、その体は輝いていた。
孤独にも終りはあるのだ。充分に長く、深く孤独であった人には。


..............

円盤=メッセージ イン ア ボトルだったとは、参りました。
しかし、一度そう思うと、もうボトルにしか思えません。
はまき型も、なんとかスキー型も

記:2011.09.19

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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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