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一角獣 多角獣 - 早川書房(1964の新版)
一角獣 多角獣


ビアンカの手 Bianca's Hands シオドア スタージョン / 訳:小笠原豊樹の あらすじ

ランが始めてビアンカに会った時、ビアンカは母親に連れられていた。

ビアンカは背が低く、デブ。髪は変で、歯は虫歯だらけ。口は曲がり、涎を
垂らしていた。視力は弱く、いつも何かにぶつかる。そして、極め付けに白痴だった。

けれども、その手は、その手は、素晴らしく愛らしかった。
雪の様に白く、ほんのりとピンク色で、櫻の花びらのようだった。

その二つの手が、カウンタの上に、ちょこんと乗っていた。
ランは、その手に見惚れた。恋をしたのだ。

ランは店番をしていた。 ビアンカの母は、チーズを買うと、店を出て行った。
ランは、ビアンカの手の事を考えていた。

そして、帰って来た主人に、さきほど来た。ボロを着た女と、白痴の
少女の事を聞いた。主人は、その二人がビアンカと、その母親だと
教えてくれたのだった。

この親子は、町中の者から嫌われていた。
しかし、そんな事はランには、どうでも良かった。

ランはビアンカの家に行った。母親は、ランの来訪に驚いた。
そして、身の上話をしてくれた。

元々は、父親がいて幸せに暮らしていた事。
ビアンカが生まれ、彼女が白痴であったので、夫婦仲が悪くなった事。
父親が出て行き、食うにも困るようになり、苦労している事。

そして、本当はビアンカを捨てて、この家を出て行きたい事...

ランは、この家に下宿させてくれ、と頼む。毎月決まった下宿代を払う、
と言う。食事代も払うので、食事の面倒も見て欲しい。

母親は、困惑した。なぜ、こんな真面目な、人の良さそうな若者が、
よりによって我が家に?

しかし、下宿代と食事代は喉から手が出るほど欲しい。
ランは下宿する事となった。

この話を聞いた回りの者は、驚いた。
あの、仕事熱心で真面目で、人の良いランが、
よりによってビアンカの家に下宿とは!

何を、考えているんだ?あの男は?
...いや、昔から、あいつは、そう言う男さ。
彼が何をしようが、知った事じゃない。真面目に働いてくれりゃ良いんだ。

ランはビアンカの手を観察した。

ビアンカの手は愛らしい貴族であった。
優雅な寄生虫とでも言えば良いのか。

ビアンカから、栄養を取り、自分を綺麗に保っているのに、
ビアンカのためには、一切、働かない。

食事の時でさえ、ビアンカの手は、愛らしくテーブルクロスを掴んだままで、
その涎の垂れる口に、スプーンで食事を運ぶのはビアンカの母なのだ。

ランに見つめられると、ビアンカの手ははしゃぎ、優雅な踊りをした。
ランの心は、いっそうビアンカの手に魅かれていった。

手はお互いが好きだった。互いに相手を、かばい合い、触れ合い、撫で合っていた。


そして、いつしか、ランを挑発するような仕草まで見せたのである。
ランが思わず、手に腕を伸ばすと、手は素早く、ビアンカの膝の上へ逃げた。

ひとつは。

もうひとつは、ランの腕に捕まった。

そして、猛烈な力で、ランの手首を締め上げ、ランが手を離すと、逃げ去ったのだ。
ビアンカ自身は無表情だった。

この手達には意思がある、ランはそう思った。

ランは失敗したと思った。もっと優しくするべきだったのだ。
そして、テーブルですすり泣いた。

やがてビアンカは、手達に引きずられるように、立ち上がり、ランの座っていた
椅子に座った。そして、手は、テーブルの上にこぼれたランの涙を、すすっていた。

それからの間。
ビアンカの手は、ランの姿を見るや、ビアンカの服の隙間や、テーブルの下に隠れ、
姿を見せなかった。

その期間がランの愛情を真実のものに変えたのである。

そして、19日目。
手はようやくランを許した。
その優雅な姿をランの前に見せたのである。

食事の時に、ランの前に現れた手たちを見つめて、ランは思った。
自分は奴隷であり、世界の全てのものの所有者である、と。

そして、外に出て、決意を固めると、母親に言った。
「ビアンカと結婚したいのです」

母親は、ランの態度から、このトラブルを予期していた。
そして言った。
「もう、遅いから寝なさい。明日になれば気が変わるわ」

「寝ぼけてなんかいませんし、明日になっても気持ちは変わりません!」
「あなたは本当に変わった人ね。母親の私が言うのも何だけど、ビアンカは
   ばけものよ、人間じゃないわ。そりゃ、あなたの様の素晴らしい人ならビアンカ
   を預けるのに、何も不足はないけど。でもビアンカで良いの?」

母親は、ランの意図が判らなかった。この青年は、何を考えているのだろう?
「わたしは、ビアンカと結婚したいのです」
「好きにしなさい。」

それからランは仕事に励み、ビアンカ家を立派にした。
結婚式では、誓いの言葉を言えないビアンカの代わりに、母親が言葉を述べた。

ランはビアンカの姿を着飾った。その最中、ビアンカの手が、ランの唇に触れた。
ランはその接吻に、心踊った。

結婚しても、ビアンカの手は相変わらず食事の間も、二人でじゃれあっていた。
口にスプーンを運ぶのは、母親の仕事だった。

手たちの優雅な動きは、ランの楽しみだった。

そして、ベッドに入った。
ビアンカの手は、ランの髪を撫でた。
やがて、もうひとつの手もランの顔に触れた。

ランはビアンカの手たちの優雅な動きに身を任せた。
頭から顔へ、喉へと手たちはランの体を撫で始めた。

仰向けのランは心地よさに、ベッドに身を沈めた。
これが、彼の求めていたものだ。

やがてビアンカの手の両の親指がランの喉の上で交差した。

そして、ビアンカの手は指に力を込めた。
ランの意識は遠のいた。それは甘美な苦しさだった。

ランは、その苦しみに酔った。
やがて、ランの体から、力が抜けた。これで、完成だった。

翌朝、ランの死体が発見され、ビアンカの母親は縛り首になった。
ビアンカの手は、それ以来、動く事はなかった。


..............

この話は、前半〜中盤は圧倒的に面白いのですが、結末がありきたりです。
死んで終わらせる?
短編にはありがちですが、この異形の作品には、相応しくない気がします。

得たものが、すぐに色褪せ、こんなはずでは、と、もがき、あせり、
やがて、別の犯罪へ...中編であれば、そんな展開になったはずですが...

それを、短編でやって欲しかったものです

PS.川端康成にも、これと同様な短編があります(どっちが先かは知りません)

記:2011.09.17

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