3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

空想科学小説ベスト10 - 荒地出版社(1961)
空想科学小説ベスト10


草原The Veldt / レイ ブラッドベリ Ray Bradbury 訳:小笠原豊樹 の あらすじ

「ジョ−ジ、子供部屋を見てくれない?何か変なのよ」
「どうしたんだい、リジア?とにかく、見てみようか」

夫婦は、ハッピーライフ ホーム社製の特別部屋である子供部屋に入った。

二人が立っているのは、真昼のジャングルの太陽の下。
はるか彼方に、地平線。動物の姿が見える。鳥の声、風の流れ...

彼らは部屋の中を移動する。コンドルの羽音、シマウマらしいものを
食べているライオンの群れが。そして、悲鳴。

「今の悲鳴を聞いた?」
「いや、聞こえなかった」

子供部屋は壁面一杯がリアルな立体感パネルで出来ている。そこに臭音風装置が付き
中にいる人間は、その場にいったような臨場感を持てるのだ。


ライオンが、彼らの事に興味を持ったのか、こちらに近づいて来た。一歩、一歩。
気づいたジョ−ジの頬を汗が伝わる。

もう、ライオンは彼らの目の前。
ジョージは、自分に言い聞かせる。

(これは映像だ!)

夫婦は慌てて、ドアの方向を目指し、逃げ出す。

ドアを閉じたジョージは言った。
「リアル過ぎるな...子供の情操教育に良いと思ったんだが、リアル過ぎる」
「子供達の生活の全てが、ここになっているの、二人とも部屋に閉じ篭りっきり
   ニ、三日、鍵をかけて下さらない?」


子供部屋に鍵をかけられて、二人の子供、ピーターとウェンディは、むくれていた。

「じゃあ、みんなで旅行に行こう!楽しいぞ」
「やだよ、旅行に行くと、自分で服を着ないといけないんでしょ。お風呂も自分で洗う
   なんて、そんな面倒な事、嫌だよ」

完全自動生活がうたい文句のハッピーライフ ホーム社の家は確かに快適だった。
ジョージからして、この家に居る時は、タバコを吸い、酒を飲み、映像を楽しみ、
とにかく快適このうえなかったのだから。

「しかし、あの部屋はリアル過ぎるんだ」
みんなが鍵のかかった部屋のドアを見ると、まるで、大型の動物が、ドアを内側から
蹴ってでもいるように、ドアはガタガタと揺れていた。


とりあえず、ピーターとウェンディを街のプラスティック ゲームセンターに追いやって、
夫婦で夕食を、楽しんだ。
壁から、次々と湯気を立てた、おいしそうな料理が出てくるのを、見守っていた。

食べ初めて、
「あれ?ケチャップがないぞ」
「失礼致しました。ご主人さま」

テーブルが小さく開き、ケチャップが浮かんで来た。


しかし、リアル過ぎる。リアルなジャングルは殺し合いの世界。あれでは、死に
対して鈍感になってしまうのでは?しかし、なぜジャングルなんだ?あの部屋には
様々な世界があるはずなのに?

アラジンやアリスやオズの国のまぬけのジャックは、どうしているのだ?


ジョージは子供部屋のドアを開けた。
「アラジンよ出て来い!」

彼が部屋に命令しても、部屋はライオンは消えなかった。
どうも、この世界に固定されてしまったらしい。それともピーターが細工したか。

子供達が帰って来た。
「おい、ピーター。何故、子供部屋はいつもアフリカなんだ?」
「ええ?そうかなあ。そんな事はないよ」

「僕が見てくるよ」
ウィンディが部屋へと階段を登って行った。
三人で、追いかけ、中を覗いて見ると、そこは神秘の森だった。
アフリカではなかった。しかし、ジョージは不思議なものを見つけた。
彼の財布だった。血まで付いている。一体、いつ落としたんだろう?


「デイビッド、君にうちの子供部屋を見てもらいたいんだ」
ジョージは心理学者のデイビッドを呼んだ。

子供達が部屋で遊んでいたのを追い出して、ジョージとデイビッドは部屋に入った。
中は、やはりアフリカだった。遠くでライオンが何かの獲物を食べていた。

「この景色が子供たちに与える影響を知りたいんだ」
「この部屋は子供たちにとって良くないね。子供達はこの世界に順応している。
   好きな場所。好きな食事。好きなだけ、楽しい事を胆嚢できる世界。
   それを君に締め出されんだ。彼らは君をうらんでいるよ。」

「そうか。この部屋を閉めて、やり直す必要があるな」
「ああ、旅行も良いぞ。そうだ一緒に行こう。アイオワだ。楽しいぞ。しかし
   あのライオン。リアル過ぎないか?あのこっちを見る目!獲物を見つけた目だ」

「じゃあ、この部屋のブレーカを落とそう。もう使うのはヤメだ」
「それが良い。あれ、これは何だ。血まみれのスカーフ?」
「これは、リジアのものだ。彼女は、いつ落としたんだろう?」

ブレーカを落とすと、子供達は暴れ出した。
「それから、この自動ハウスも、我々に良くない。これも止める」
「あなた!そこまでしなくても」

家は、静かになり、まるで機械の墓場になった。
「さあ、みんなで旅行に行こう。アイオワだ。本物の自然を見に行こう」

「お父さん。最後に一度だけ、子供部屋に入りたい」
「ダメだ。出発まで、時間はないぞ」

子供達は、子供部屋に駆け込んだ。
夫婦は、子供達を追って、部屋に入った。しかし、中には子供達はいなかった。

ガチャンと、外から子供部屋の鍵を、かける音がした。
「もう家のスイッチは消させないよ」
ピーターの声が聞こえた。

その時リジアは、背後から迫って来る。ライオンに気が付いた。
ジョージも、彼女の悲鳴で、ライオンに気づいた。


「やあ、こんにちわ。お父さんはどこかな。僕も旅行に同行するんだ」

デイビッドは、子供部屋を開け、ピーターとウェンディを見つけた。
「もう出発の時間なのに、ジョージはいったい、何処にいるんだ?」

遠くではライオンが獲物を食べていた。
やがて、食べ終り、ライオンが去った後を、コンドルが舞い降りて行った。


..............

ブラッドベリには、こんな様な話(子供と部屋のパターン)が、幾つかあります。
どれも面白く、また、彼の独特な感じが引き立ちます。

ブラッドベリは、自然を描くのが美味いのですが、自然を描くほど、SFからは
遠ざかります。ダークファンタジーのようになって行くのですが、
この、子供と部屋のパターンでは、SF色が消えず、そこが魅力の様です。

記:2011.09.03

  3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




・ホーム
・海外SF1トップ
・インフォメーション
・掲示板
・お問い合わせ