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空想科学小説ベスト10 - 荒地出版社(1961)
空想科学小説ベスト10


愛しのヘレン Heren O'loy / レスター デル リイ Lester del Rey 訳:福島正美 の あらすじ

昔、初めて、ヘレンに会った時の事を、鮮明に覚えている。

ヘレンは美しかった。包装を解いて、そう思った。
デイブは私に言った。

「まるで、詩人キーツの詩った、トロイのヘレンのような美しさだ
   そうだ、こんなのはどうだ、アロイのヘレン」(アロイ=合金)
「いや、ただのヘレンで良い」

私とデイブは親友だった。同じ借り家で暮らしていた。私が、双子の娘と恋を
した時は、デイブもその片割れと恋をして、四人でデートをしたものだった。

結局は、どっちも喧嘩別れしたのだが。

それから、私は、流行のメイド ロボットを買った。
私は、内分泌学専攻、デイブは電子工学、お互いの知恵を出し合い、より精巧な
ロボットに改造する実験をするのだ。

副腎の交感神経がポイントだった。我々は、精巧な部品と入れ替えた。
そのロボットはリナ。
しかし、リナはあくまでもロボットだった。人間では、しない失敗をした。
ステーキに塩の代わりに、ヴァニラをかけたりするのだ。

我々は、リナの体を何度も分解し、調整を重ねた。
可愛そうに、リナの姿は、殆どバラックの状態だった。

新しいコイルに変えて、新しい記憶を入れると、何とリナが怒り出した。

「あなた達は、私を分解ばかりしている!きちんと家事をするから、
   もう分解は止めて!」

これ以上、リナに実験するのも可愛そうだ。
そして、我々は最新型のメイド ロボットを買うのである。
それが、ヘレンだった。

ヘレンの改造をしようと構造を調べていると、電話が鳴った。
それはやっかいな仕事の電話だった。

私は、長い出張に出た。家へ帰れたのは三週間の後だった。


家に帰り、ドアを開けると、ヘレンが出た。
「デイブ?あら、ちがうの。あなたフィルね。私の名づけ親だと聞いているわ
   良い名前をありがとう。お食事の準備をしようかしら」

ヘレンの言葉、身のこなし、すべて本物の女性の様だった。
ただ、違うのは、私が食事を食べている間、彼女は何も食べずに、ずっと私を
見ていた事くらい。

デイブが帰って来た。
「やあフィル帰って来たのか。ちょっと二階で話をしよう」
デイブはそっけなく、二階に上がった。

繰り返ると、ヘレンは目に涙を溜めていた。
「デイブは私の顔をみるのも嫌なのよ。でも私には、どうにもならないわ」

食器を片付けるヘレンはシンクの前で、泣いていた。
私には訳がわからなかった。

「フィル、困った事になった」
デイブはフィルの居ない間の話をしてくれた。

デイブはフィルが戻るまで、ヘレンの改造をしないで置こうと思ったのだが、好奇心で
我慢が出来ず、副腎パックを交換し、起動した。

その予備テストは大成功だった。
美しいヘレンは、人間そのものの様に振舞ったのだ。

それが、余りに見事だったので、デイブはヘレンを止める事が出来なかった。
本物の女性の意志を奪ってしまう様な気がしたためだ。

無垢なヘレンは、好奇心が一杯で、家事を片付けてしまうと、立体テレビに
釘付けになった。旅行番組は、彼女に世界の素晴らしさを教えた。

次の番組は、彼の苦手な二枚目俳優ラリイの恋愛ドラマだった。
ヘレンは、この番組に取り憑かれてしまった。

その番組が終わると、別の恋愛ドラマを見て、それも終わると、今度は書棚から
恋愛小説を探し出して、むさぼり読んだ。

それから、デイブが帰って来ると、
ヘレンは、原子力モーター駆動の二本の可愛い腕で、デイブを背中から、抱きしめた!
『デイブ、私の大事な方!あなたがいなくて、私は寂しかったわ!』

デイブは目の前の美しいヘレンのキスの要求に、あやうく応えそうになった。
しかし、気を取り直し、
(これは、ただの、原子力駆動のロボットなんだ!)と思い聞かせた。

ヘレンの体を押しやると、ヘレンは泣き崩れた。

それから、食事をして、その後、ヘレンに説教をした。
お前は、ロボットであって、ロボットと人間は結婚できない!と何度も、言い聞かせた。

聞き終えたヘレンは、涙を湛えた目で、こう言った。
「それは良く判っているの。でもデイブ、私は貴方を。愛しているのよ」

それから、デイブは毎晩、酒を飲んで自室に篭った。
ヘレンはキッチンで泣いていた...


「なるほど、じゃあ、なぜヘレンのスイッチを切って、記憶コイルを消去しないんだい?
   そうすれば、元に戻るじゃないか?」
「ああ、そうしようと思ったんだが、ヘレンの顔を見ると、彼女の記憶を消すなんて、
   到底出来なかったのさ」

「そうかい。それも判るな」
「もう耐えられない。僕は、親父の農園に戻って働く事にした。ここを出るよ」

「あの、デイブ、あなたの好きなアップルパイを焼いたの。召し上がってみない?」
二人で、ヘレンの作ったアップルパイを食べた。デイブは大好物のパイを食べて、喜んでいた。

「あと、実家の農園に戻るのでしょ。荷造りはしておきました」


そして、デイブは去って行った。
私はヘレンと二人暮らしになった。

ヘレンは素晴らしい女性だった。
デイブからの、何時までも来ない、手紙や電話を待ちわびている事を除けば。

時々、ヘレンを連れて、買い物や気晴らしに出た。
もう、彼女がデイブの事を忘れたかと思う時もあった。
しかし、夜、ヘレンがもの思いにふけり、一人、涙を流しているのを見ると、
そうでは、ない事を知るのだった。

そして、私は決心して、デイブに電話をかけた。
「デイブ、僕は決めた。ヘレンの記憶コイルを交換する。いいだろ。ヘレンも
   それを望んでいるんだ」
「止めてくれフィル、今、わかった。僕は間違っていた。今すぐ、そっちに行く。
   ヘレンのコイルには手を付けないでくれ!」


ヘレンは果樹園の妻になり、私の家は大きな存在を失った。
私は、心の空虚を埋めるため、週に一、ニ度、彼らの果樹園を訪れるようになった。

彼らは、普通の夫婦だと思われていた。
慎ましやかな彼らは、周りの人に愛された。


数十年が経ち、私もデイブも年を取った。ヘレンだけは、何時までも変わらないので、
私はヘレンに老けて見えるようなメイクをしていた。

これは、二人だけの秘密だった。何故なら、年老いて、少しボケてしまったデイブは
今では、ヘレンの事を、本物の人間だと思っていたからだ。

いや、私ですら、忘れていたのかもしれない。ヘレンがロボットだと言う事を。


ある日、ヘレンから手紙が来た。
『フィルさま デイブの心臓病が悪化して、今朝亡くなりました。最後のときにデイブは貴方への感謝の
   言葉を、私にことづけて行きました。デイブもわたしも貴方には、本当に良くして頂きました。
   その貴方に最後のお願いがああります。私のスイッチを切って、デイブと一緒のお墓に
   埋めて下さい。金属の体は酸で溶かして下さい。最後の橋を、夫婦で手を取り合って、
   渡って行きたいのです』


私はヘレンの願いを叶えるべく、家を立った。

思えばデイブは幸せな男だった。
私も、人並みに結婚して、人生を送れば良かったのかも知れない。

しかし、この世には、わたしのヘレンはたった一人しか、いないのだ。


..............

ポール マッカートニーとは関係ありませんが、心温まる話になっております。
昨今の、ドール ロボットの話は、殺伐としていけません。

しかし、ロボットがたった一人と言うのは変だし、記憶がアイデンティティと言うなら
記憶をコピーすれば良いんだし、そもそも、フィルとデイブが老いる数十年の間に、
彼らの関係に致命的な、何らかの技術革新だって有ったんじゃないのお???

なんて、そう言う意見が、殺伐とした、話につながるんです!やめなさい!

記:2011.08.28

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三分 小説 備忘録

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