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シティ5からの脱出 - 早川文庫
シティ5からの脱出


オリヴァー ネイラーの内世界 The Cabinet of Oliver Naylor バリントンJベイリー 1976訳:安田均の あらすじ

雨が降っていた。
街の通りは灰色にくすみ、窓を雨粒が叩く。

ネイランドは、窓から、街を見下ろす。
車の流れ。
1台の停車した車。その中には二人の男の影が。

その時、電話が鳴る。

「ミスター ネイランド。調査をお願いしたい。ここは君の世界だろ。
   あの車の中の二人組を、追ってくれ」
「依頼料は週200ドル。それと、経費は実費だ」

ネイランドはテレビを点ける。
つまみを回すと、電話をしている男の顔が現れる。

依頼者だ。しかし、顔は、まるでネイランドのコピー。
「OK。では、調査を始めてくれ」

やがて、テレビは切り替わる。
雨の中で踊る、ジーン ケリーに。

やがて、テレビ=テスピトロンの画面は、聞き込みをする私立探偵を追い始めた
その後姿はネイランド。
聞き込みが終り、私立探偵は、ギャング達と撃ち合いになった。

ネイリーは、セーブし、テスピトロンを消した。


テスピトロン=劇作機。
ネイリーの発明品だ。

しかし、あんなに俺に似たキャラクタを作るなんて。
俺は22世紀のイギリス人。あいつは1950年代のシカゴの私立探偵。

設定時代に合わせて、様々なバリエーションを取る。
例えば、2010年の設定の話では、小型マイクだが、1950年代設定なら
電話の受話器に変わる。
テスピトロンはそれを調整し、新たな物語を作り出す。
そのバリエーションは、無限と言って良い、

続いてネイリーは、音声教育機にスイッチを入れる。
彼が今取り組んでいるテーマ、同一性へのアイデアを得るためだ。

同乗のワトマンが起きて来た。
彼は、ネイリーの移動住宅に、ヒッチハイクして来た若者だ。

ワトマンは無名の芸術家、コーン ゴールドのファンで、彼に会いたいそうだ。
何処に目的地があるのではなく、ただ思索のために、都市を離れたかったネイリーは
それを承諾した。

ネイリーの移動住宅は、係数186で、進んでいる。
係数186とは、光速の186乗だ。

ワトマンはテスピトロンを見て言った。
「ネイリーさん、こりゃ大した発明ですよ。大量生産したらどうです」

「ああ、そうだ」
「でも、あっちの発明の方が先か。あれはもっと凄いですよ」

ワトソンが言っている、ネイリーの取り組んでいる発明とは、同一性に関するものだ。

現代のイギリスに膨大な富をもたらしたのは、ハーカム推進装置だった。
この移動住宅も使っている、超高速推進装置だ。

宇宙は開拓された。
しかし、開拓され尽くしはしなかった。
宇宙は無限だが、ハーカム推進装置の速度は無限ではなかったから。

また、宇宙の開拓をしている内に人類は気がついた。
宇宙は豊潤ではなく、極めて空疎だ。

ほとんどがカラッポなのだ。

無限のカラッポに地図を作る試みがなされたが、
無限の空間の正確な地図はできなかった。

蓄えられる情報量がどんなに増えても、無限にはならなかったから。
人類は無限を実体的に扱う事ができないのだ。

ジャイロスコープによる位置認識は、極めて小さな誤差の累積が、膨大な誤差を生んだ。
トラブルにより、正確な位置情報を失い、遭難するものが増えた。

ネイリーの新たな発明品は、これを解決するものである。

個々の原子は、差がないと思われており、そこに唯一性はない。
しかし、原子が集合した物体は、それぞれ、他とは違う唯一性を持っている。

組み合わせのバリエーションが唯一性を作り出すのだ。

それならば、地図を、空間座標ではなく、唯一性で記述したらどうなるだろう。
唯一性は、空間や距離とは関係しない。

唯一性による地図が出来れば、無限の空間を有限の情報で記述できるのだ。
ネイリーは発明のインスピレーションを得るために、思索をねっていた。


緊急警報が鳴った。
虚無の海に近づいているのだ。

コーン ゴールドの住まいは虚無の海のほとりだった。注意して進まないと、
虚無の海に落ちる恐れがある。

いつの間にか、ワトソンは白いスーツを身に着けていた。
(このスーツはどこかで、見た事があるが...はて?)

ネイリーの移動住宅は、コーン ゴールドの移動住宅にドッキングし、
ワトソンとネイリーは、乗り移った。

「突然押し入って来て、どう言うつもりだ。出て行け!」

中にいたのは、コーン ゴールドと若い女。若い女は、顔にアザを作って、
ぶっきらぼうだった。

「コーン ゴールド!お前を誘拐の罪で逮捕する。私はMI19員だ!地球へ連行する」
(MI19? そうか、それだ、この白い服は!)

「悪いが、この女は誘拐したんじゃないし、この移動住宅は壊れていて、動けない」
確かにネイリーが調べても、コーン ゴールドの移動住宅は修理が必要だった。
女からも、自分は誘拐されていると言う証言は取れず、手間取りそうだった。

夕食時、コーン ゴールドの部屋に行くと、彼は、女をモデルに裸婦像を描いていた。

しかし、キャンバスの上に書かれているのは、自動車、コーン ゴールドには
女がこんな風に見えるらしい。


「お前達、俺はこの辺りにいるゾーデム人から、良い物を手に入れているんだ。
このゾム光線は、ざっと1ゴーグルの彼方の物を観測できる」
「そんなに、遠くのものを?」

「もっと、便利なものもあるぞ。これもゾム光線の原理を使うんだが、瞬間移動機だ。
光線の中に入ると、壁なんかあろうが、はるか彼方まで一瞬に吹き飛ばすんだ。
ほら、こんな風にな!」
コーン ゴールドは、光線をワトソンに向けた。ワトソンは、一瞬にして吹き飛ばされた。

「おい!お前、お前のやっている事は殺人だぞ!」
「ああ、そうだよ。それにお前もな!」

ネイリーも移動住宅もろとも、虚無の海へ、弾き飛ばされた。
移動スピードは光速の413乗だった。この光速の中では
彼のいる空間は、すべての物理現象とは切り離されていた。

彼は思った。ここは閉塞された空間だが。彼はここに、無限の仮想現実を抱える
宇宙とも言えるテスピトロンを持っているのだ。

テスピトロンからネイランドの声がした。
「ネイリー。調査報告だ。あの男は宝石泥棒だ。偽者宝石と、本物の同一性交換を
行い、まんまと、本物をせしめたのさ」

「そんな事ができるのか?」
「ああ、合法だ」

「それから、君は実在しているのか?」
「ああ、実在する。この俺達の世界で、あんたは別だ」

「今、君は言った。同一性は交換できると。じゃあ、君と僕は交換できるのか?」

「イエスだが、あれの答えはこうだ、グッバイ」
テスピトロンは消えた。

あわてて、ネイリーはスイッチを入れるが、もうテスピトロンは起動しなかった。

ネイリーの意識が遠くなって来た。


..............

同一性と言えば、ハッシュ関数のような物を思い浮かべますが、
無限を記述するハッシュ関数は、無限ではないはずです。

N次元<N+1次元 であって、 ≦ ではないから。

とすると、そのハッシュ関数は?
いやここは
N次元のハッシュ関数≦N+1次元のハッシュ関数だから、それ以上
情報量は減らんかあ。

ここの、≦と<を混同させたりすると、この話の元ネタになる気がします。
たぶん、そんな感じで、ベイリーは話を作っているのでは??
ま、ともかく、イーガンの順列世界でしたっけ、あれと同じアイデアの話ですよね。
ただし、そこから始まって、更にその次に行ってますけど

記:2011.07.30

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三分 小説 備忘録

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