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救命艇の叛乱-文化出版局
救命艇の叛乱


わが手のわざ With These Hands C M コーンブルース 訳:浅倉久志 のあらすじ


ハルヴォーセンは、リーディー司教の待合室で、接見を待っていた。
今日は依頼のあった彫刻の下絵を見せるのだ。

しかし、接見した司教の様子はどことなく変だった。

「...つまり、残念ながら、聖像は別のものに任せる事になったのだ...」
「一体、どうしたのです。司教から私に、直々のお願いだったはずですが」

「つまり司礼本部から、省令が出たのだ。今後、聖像製作は"パントグラフ"(立体模写像)でも良いと」
「パントグラフ?あんなまがい物に、聖なる力は封じ込められません!」

「わしは君の技術を買っておる。しかし何ごとも、経費削減の世の中じゃ。彫刻とパントグラフでは、
   制作費・維持費で比べ物にはならん。ブロンズ像は魅力的なんじゃが...」

司教は、下絵の製作賃を、多くしてくれた。とは言っても、重大な食い扶持を失ってしまった。
この所、日常の生活費にも困る有様だった。

ハルヴォーセンは開いている美術教室の弟子の一人、ルイスの所に来た。なまけものの"美術かぶれ"
だらけの教室の中で、"目的"を持った熱心な生徒だ。彼なら、多少、融通してくれるだろう。

「いいですよ。来月の月謝です。10ドルで良いですか」
「助かるよ」

ルイスの仕事は、パントグラフのプログラミングだ。

「先生、私の仕事が、あなたの芸術に劣る事は、充分承知していますが、我々も多少は進歩しました。
   そして進歩はこれからも続きます。まず、出来上がりを見て下さいよ」

ルイスの操る"審美計算機"は対象を、3次元でスキャンする。それから、特製のスパイスをかける。
"たくましさ"、"かわいらしさ"、"気品"。

選択されたそれらの項目が強調されて、好きな大きさに変換する。
それからプラスチックへ"再生"すれば、出来上がり。

「今、注文を受けているのは、女優のバウチェット。銀行の頭取ライヤスンの胸像です。
   記念碑の注文も多いんですよ」

ハリヴォーセンは10ドル片手に、何とか逃げ出した。
気が付くと、町には、様々な広告が。

『美術建築技術で高収入を!』『サーボトラック運転で高収入!』

家に帰ると、階段が壊れているのに気が付いた。知り合いの昔からの大工に頼もうと電話をしたが、

「ハルヴォーセンさん、わしは忙しいし、あんたの所は、大分つけが溜まってるよ。
   良い材料のも、近頃は値が張るからね。少なくとも材料費分は先払いにして貰わんと」

「わかった。急いでる訳じゃないんだ。また電話するよ」

(くそ!あの大工野郎!おいぼれても、誇りを持ってやがる!他に仕事なんてあるもんか!)

いや、俺はどうなんだ。芸術以外は全て退屈だと思ってやって来た。今更まともな職につける訳がない。
古今東西、貧乏に苦しんだ芸術家はたくさんいたはずだ、俺のように。

彼のアトリエに、若い女性ルーシーがやって来た。

彼女は、美術教室に入ろうと思って来たのだ。
「ところで、このブロンズ像は、お幾ら?」
「この作品は、売り物じゃないよ。あえて値段をつけるなら600ドルだ」

「ふうう。パントグラフ製なら、10ドルもしないわ。芸術家って、随分と"お偉い"のね」

(それは、パントグラフは1週間で、その技術が学べるが、わしの技は一生かけて学ぶものだからさ、
   しかし、こんな事を言ってもしかたない。偉大なる『オルフェウス噴水群像』のようなものは、
   パントグラフでは絶対にできない!)

そして、そのまま、空腹と混乱で、『オルフェウス...』とつぶやいて、
ハルヴォーセンは気を失った。

気が付くと、二階のベッドの上、医者が見てくれた。

「彼は、保険が切れているんだよ」
「治療費なら私が払います」
「それなら良いが、彼は栄養失調だよ」
医者は栄養剤を打って帰って行った。

「すまない、ありがとう。お礼のものもない、下にあるブロンズが気に入ったら、持って帰ってくれ」
「いいのよ。じゃあ私、美術教室に参加するわ」

ルーシーは熱心な生徒だった。ハルヴォーセンは彼女に恋した。おそらくは彼女も。

若い女性と芸術家。昔から良くある事だ。女性は"芸術"に恋し、芸術家は、娘に恋する。
やがて、すれ違い、別れる。
それにルーシーには、宇宙飛行士の立派なボーイフレンドもいる。

若い娘と芸術家。喜劇はやがて幕を迎える。

ハルヴォーセンは、あこがれの地へ旅立った。ノルウェーの爆心地。防護服で身を包み、
ガイガー カウンタが手放せないこの土地。

この汚染されたオスロにある、死の国の恋人たちの像『オルフェウス噴水群像』。

パントグラフでは、けっして再現できない、その姿。オルフェウスは、苦悩と怒りに、竪琴を鳴らす。

ハルヴォーセンもまた、胸に苦しみを覚える。
ケルベロスの叫びが頭の中に響き、彼はうつぶせに倒れる。

彼はオルフェウスの琴の音を聞いたのだった。

..............


テクノロジーと芸術。これを相反するものと見るのは、どんなもんでしょう。
流行ものと、芸術ですらが、大きな関係があるのでは。

記:2011.05.17

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三分 小説 備忘録

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